koshokosho_3の調査計画

 koshokosho_3の回答は良太の予想通りだった。いくら子供の頃に怪談や都市伝説があったとしても、小中高と実物に触れて育てばまじないの類が意味をなさないことくらい理解する。山の神や幽霊を恐れるのは小学生のそれも低学年まで。それから先は山の獣に恐れを抱く。

 ――ただ、なかには中学を過ぎても怖がり続ける者もいる。


     良太:本当ですか?

        子どもの頃に聞いたことがあったりしませんか?


 koshokosho_3:必死すぎ。

        ウカガイ様なんて

        ルールを守ってれば何もできやしない。

        このあたりの子供なら小学生でも知ってることだ。


 地元民。小学校以前から?

 良太はそうメモを取りつつ、次の質問を打ち込んでいく。

 

     良太:ウカガイ様は小学校にもいるんですか?


 わざわざ聞くまでもないことだが、相手に優位だと思わせ続ける必要があった。優位の油断が雄弁を生み、雄弁のなかに情報が紛れ込むからだ。


 koshokosho_3:もちろんいるさ。

        いないとでも思ってた?

        

     良太:だって。

        一年生からウカガイ様なんて。


 koshokosho_3:一年生?

        ああそういうことか。

        今のウカガイ様は三年のときに決まったんだよ。


 ――手に入れた。

  

 と、良太は我知らずシャーペンを握りしめる。期せずして小学校のウカガイ様は三年時に決まるという情報を得たが、それ以上の収穫はたったの二文字――という失言にあった。


 koshokosho_3は今のウカガイ様――つまり白宮のウカガイ様と小学校の頃から同じ学校で育ったといったようなものだ。もちろん、ウカガイ様という風習の基礎的な部分を知っていて、白宮のウカガイ様に照らして表現しただけかもしれないが――


     良太:どうやって決めるんですか?

 

 koshokosho_3:そんなこと知るもんか。

        だいたい知ってどうする?


     良太:僕が狙われてる理由が分かるかもしれないと思って。


 koshokosho_3:分かったとしてどうする?

        やめるようにお願いするのか?

        話せない触れない存在すらしない奴らにどうやって? 

        

     良太:じゃあ、そのアイコンの写真はどうやって撮ったんですか?


 流れに乗じて核心に迫る質問を投げ込んだ。優位に立ち冗舌になっている今ならうっかり答えてくれるかもしれないと考えていた。

 しかし。


 koshokosho_3:知りたかったら秘密を持ってくるといい。

        内容次第では教えてあげないこともない。

        もういい時間だ。

        次からはしつこく連絡してこないでくれ。

   

 たっぷりと時間を使ってから矢継ぎ早に送り返されてきたのは防御を固めたあかしだった。やはり性急すぎただろうか――いやしかし、最低限ほしいと思っていた情報は取れた。

 

     良太:わかりました。

        ごめんなさい。


 承諾の意を込めて素朴な二文を送り、良太は両のこめかみをもんだ。長いようで短く、また短いようで長いログのスクリーンショットを撮り、さっそく怜音に送付する。


 良太:最後の最後でミスした。

    koshokosho_3とはこれで切れちゃうかも。

 

 実際、最後に送ったメッセージには答えてもくれない。

 怜音のほうはスクリーンショットを眺めてメモを取っていたのだろう、しばらくの間を置いてから返信があった。

 

 怜音:大丈夫。

    仮にいま切れたとしても特定しちゃえばそうもいってられないよ。


 良太:だといいけど。

    それで?

    どうやって特定する気なの?

 

 怜音:簡単だよ。

    昔やったのと同じこと。

    足で稼ぐ。


 ああ、そういうこと? と良太は呆れて顎をあげた。怜音が欲しいと言っていたのは白宮のウカガイ様は小学校の頃から同じなのか、ウカガイ様にはいつ誰がなるのか――より正確に言えば、koshokosho_3は、


 良太:もしかして僕に小学校を回れって言ってる?


 怜音:ご明察。

    むしろ他にどういう方法があるのか聞きたいね。

    ウカガイ様の話を口頭で聞くのは難しい。

    koshokosho_3の話も同じでしょ?

    だったら勝手に調べるしかない。

    こっちで用意するのは各クラスの名簿だけでいいんだから。


 良太:僕は名簿をもって小学校を回って

    何を調べればいいのさ。


 怜音:卒業アルバムとか文集とか。

    姓名が分かればなんでもいいよ。

    学校はたいてい保存してるだろうし。


 つまり怜音は、名簿と名前をつきあわせてみろと言っているのだ。白宮のウカガイ様を知っているクラスの人間を小学校のアルバムなどから探せ――と。


 そこまで分かったが、ここは東京だ。

 良太は頭を掻きながら文章を作っていく。


 良太:やろうとしてることは分かるんだけどさ。

    東京にいくつ学校があると思ってる?


 怜音:良太よ。

    東京にビビってはいかんぞ。

    

 良太:は?


 怜音:良太のクラスの半分くらいが外部生でしょ?

    んでkoshokosho_3は地元の生まれ育ち。

    白宮が誰でも入れるレベルだったら困るけど

    小学校の頃から勉強ができて受験してってなると多くない。

    しかも同級生だからね年代まで分かってる。

    あとはいま君が見ている板をタプタプして小学校を探すだけ。


 板――? ああ、スマホか。と良太は苦笑する。

 調べたい資料は多くない。たった四年前に作られただから廃棄されている可能性も低いだろう。

 

 良太:それだってそんなに少なくはないと思うんだけど。


 怜音:田舎育ちの健脚を見せつけるいい機会だね。

 

 良太:理由はどうするのさ。

    アルバムやら文集やらなんて簡単に見せてくれなそうだけど。


 怜音:この白宮の紋所もんどころが目に入らぬか!


 と、徳川家康の家紋――三つ葉葵の紋が入った印籠のイラストが続いた。怜音の祖母が愛好していた時代劇の小道具だ。たしか水戸黄門。水戸か。


 良太:それ茨城の人だよ。


 怜音:だまらっしゃい。

    こっちだって協力してるんだから

    足くらい使わんかい。


 ははー、と良太は苦笑しながら送った。

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