第11話
冒険者ギルドの裏は広場になっていて、冒険者のために実技講習などが行われる。
俺はそこで、両親と向かい合っていた。
いや、親子としてではない。
銀等勲章持ち二人と、それに対して生意気な発言をした冒険者見習いとして向かい合っているのだ。
俺は、父さんと母さんの実力を理解していたつもりだった。
けれど、前世の記憶が蘇って、俺は一気に強くなった。今更、両親を恐れる必要はない……そう思っていたのに。
剣を構えた二人と対峙すると、鳥肌が立った。
強い。
小僧では理解が及ばない、達人の気配。
前世の記憶があるからこそ、二人の恐ろしさが分かる。
だが。勝てる。勝たねばならない。
銀等二人に勝てないようでは、最強の魔法師になるなんて、到底無理な話だ。
「俺らレベルの速度だと、気を抜くと町を戦いに巻き込んじまう。ギルドの敷地から出たら場外負けってルールでどうだ?」
「ああ。それでいいぜ」
俺は父さんの提案に頷く。
「さぁて。私からいこうかしら?」
「いいや、俺からだ。男同士の殴り合いじゃなきゃ伝わらないこともあるぜ」
「あらあら。お父さんったら。成長したレオニスと思いっきり戦いたいだけでしょ? ズルいわ。私だって戦いたいのに」
「じゃあ、まず俺たちで戦って、勝ったほうがレオニスとやるってのはどうだ?」
「ふふ。お父さんと長いこと戦ってないし、それもいいかもね」
二人は見つめ合い、決闘しようかと語り合う。
よその家なら離婚の危機かと慌てるところだが、俺の両親はこれでもイチャついているのだ。
夫婦仲がいいのは結構。けれど今は俺を見ろ。
「二人で戦って、それから俺と? 舐めるなよ。万全な状態で二人がかりで来い!」
闘気を放って威圧。
すると二人は弾けたように俺を凝視した。
「おいおい……強くなったとは思っていたが、まさかこんな気配を出せるなんてな」
「僧侶が最強だなんて、頭が変になったのかと思ったけど、どうやら根拠がありそうね。いいわ。レオニスの望み通り、二人がかりで戦ってあげる」
父さんと母さんは剣を構える。
それを見て、ギャラリーの冒険者たちは湧き上がる。
「おいおい! 本気でローランとセシルを同時に相手しようってのか!? 息子なんだから、あの二人の化物っぷりは分かってるんだろ!? 反抗期にしたって、反抗しすぎだぜ!」
「ああ。ローランとセシル、どちらか片方でもヤバいのに、二人同時なんて正気とは思えねぇ……」
どうやらこの町の冒険者には、父さんと母さんの実力が知れ渡っているらしい。
我がことのように誇らしくなる。そして同時に、誰に喧嘩を売ってしまったのかを再確認した。
カールの魔法剣にも、学校の教師たちにも感じなかった、圧倒的な威圧感。
ぶっちゃけ、二人同時にと言ってしまったのを少し後悔している。
それでも――。
「かかってこい」
俺はそう言ってやった。
瞬間、父さんと母さんは前屈姿勢になり、それから一直線に……向かってこなかった。
これだけ挑発したのに。
向こうは二人がかりなのに。
ハッキリと俺を警戒している。
凄いな。
もし二人が突進していたら、そこで終わっていたかもしれない。
それを動物的な勘で踏みとどまったのだ。
「おいおい、レオニス。僧侶の強さを見せてくれるんだろ? だったら隠さず見せろよ」
「レオニスから動いてくれないと、お母さんたちは何時間でも待つわよ? でもそれじゃ、僧侶が強いって証明にならないわねぇ」
「いいぜ。その挑発、乗ってやるよ」
黒騎士六体を具現化。
突如として現れたそれらに、さすがの二人も目を丸くする。だが、それは一瞬のこと。俺が黒騎士を走らせたときには、隙は消え去り、臨戦態勢を取り戻していた。
それぞれに三体ずつ。三方向からの斬撃。
すると両親は凄まじい速度で回転し、黒騎士に剣を叩きつけ、六体全てを押し返してしまった。
嘘だろ。
黒騎士が少しも反応できなかった。
「うお、嘘だろ! 今の斬撃で傷一つつかねぇのか!?」
「私たちの剣、かなりの名剣なんだけど!?」
父さんと母さんも驚いている。今ので黒騎士を斬れなかったのがショックだったらしい。
そうだ。俺は僧侶だ。剣術で勝てなくとも、防御や回復の力で勝てればいいのだ。
自信を失う必要はない。
このまま攻め続ける。
何度吹っ飛ばされても、黒騎士を立ち向かわせる。
繰り返していると、黒騎士の動きがよくなってきたような気が……気のせいじゃない。
俺の結界とマナの同調率が上がっている?
両親は二人とも焦りの色を濃くしていた。
このまま押し切れる、か?
「お母さん、こうなったらアレをやるぞ!」
「ええ、分かったわ!」
両親の剣から魔力を感じる。生粋の剣士の二人が魔法を使うのか。
違う。
魔法は術式によって様々な現象を引き起こす技だ。
これは魔力を使っているが別系統の技術。
俺では解析不能。
おそらくは、剣を極めた者だけが使えるという魔剣スキル。
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