第10話
俺の実家は
父さんと母さんは、冒険者の収入だけで家を買ったのだ。その事実だけで、二人がやり手の冒険者だと分かる。
実績を積んだ冒険者は、仲間からもギルドからも一目置かれる。その中でも特に優秀であるとギルドに判断されると、勲章が与えられる。
その勲章は偽造防止の技術が盛り込まれていて、簡単には偽物を作れない。
冒険者ギルドは横の繋がりが強く、モンスターの分布や、犯罪者の潜伏情報などの情報が素早く共有される。
が、冒険者一人一人の実績までは、さすがに共有しきれない。
だからAという町でいくら仕事をして信用を得ても、Bという町に引っ越せば一からやり直しだ。
しかし勲章持ちは違う。
勲章を見せれば、どこの町のギルドでも一目置かれ、難度と報酬が高い仕事を斡旋してもらえる。
俺の両親は二人とも銀等勲章を持っている。冒険者ギルドの勲章の中では最下級だが、それでも勲章があるのとないのでは大違いだ。
父さんと母さんは、剣のみで勲章を得て、家を買い、俺を産んで育ててくれた。そんな二人を俺は尊敬している。
だからこそ、二人が勧めてくれた剣術学校を辞めることにしたと告げるのは、心苦しいものがある。
とはいえ、なにも言わないというのは更に不義理だ。繰り返すが、俺は両親を尊敬している。これからも家族でいたい。俺の選択を理解してもらいたいのだ。
俺は実家の前まで来て、しかし引き返して安宿に一泊することにした。
父さんも母さんも、いわゆる脳筋だ。
言葉だけで決着をつけるのは、おそらく無理。肉体言語が必要になる。
今日はもう日が暮れる。
明日の朝、改めて来たほうがいい。
と、自分に言い訳し、一晩かけて心の準備をした俺は、今度こそ実家の呼び鈴を鳴らした。
なのに留守だった。
俺は肩すかしされた気分になりつつ、きっと二人は冒険者ギルドだろうと当たりをつける。
予想は当たった。
父さんと母さんは受付嬢と話している。
仕事を受けて立ち去ったあとじゃなくてよかった。面倒な仕事だと何日も家に帰ってこなかったりするからな。
それにしても、なにか揉めてるような雰囲気だ。どうしたんだろう?
「父さん、母さん」
「ん? おお、レオニス! 丁度よかった! お前、学校でなにがあったんだ!?」
「素行不良かつ、著しい実力不足により、レオニス・バルカムという生徒を退学処分とした。冒険者ギルドはこの者に仕事を斡旋する際は警戒すべし……という手紙がロクシャール剣術学校からギルドに届いたらしいの!」
父さんと母さんは青ざめた顔で叫ぶ。
くそ、校長の仕業だな。
両親に告げてから正式に退学しようと思ったのに、学校側から退学処分を下してきやがった。
まあ、手間が省けたと思っておこう。
「順を追って説明するよ。ロクシャール剣術学校は、みんなが思ってるような名門校からはほど遠い場所だった――」
木剣しか所持を認められないはずの校内で、親の金で手に入れた魔法剣を振り回すカールという生徒。
俺はそのカールに虐めの標的にされた。
ほかの生徒は誰も助けてくれない。
それどころか教師でさえ見て見ぬ振り。
カールの親からの寄付金に目が眩み、校内の風紀など二の次になっていた。
だから俺は実力をつけ、魔法剣を持つカールを正面から倒した。徹底的に虐めのお礼をしてやった。
そして校長に直接、学校が如何に末期的な状況かを語り、卒業するつもりなどないと言ってやった。
「――というのが昨日までの出来事だ」
「そんな……ロクシャール剣術学校は父さんと母さんにとって憧れの学校だったんだぜ……?」
「実力者よりも、金持ちが優遇されるなんて……信じられないわ」
父さんと母さんは唖然としている。
周りで聞いていた冒険者たちも、ほとんどが似たような反応だ。
「あの学校の卒業生って、王都とか、そういうデカいところに行っちゃうからな。地元の学校なのに、あんまり卒業生と絡む機会がないんだよなぁ」
「いや。あそこを卒業したっていう若い奴と仕事したことあるぜ。ぶっちゃけ大して強くなかった。いくら名門校でも、卒業しただけじゃ強くなれないんだなって拍子抜けしたもんだ」
「いや、それはおかしい。ワシは十数年前、卒業したての者と仕事をした。凄まじい達人だったぞ」
「すると、最近になって急に学校のレベルが下がったのか」
「そう言えば、あそこの校長って何年か前に変わったんだよな。そのせいじゃないか?」
冒険者たちの証言で、ピースが埋まっていく。
「つまり、レオニスは素行不良でも実力不足でもないんだな?」
父さんが真剣な眼差しで言う。
「カールを大勢の前でボコったし、校長に暴言を吐いたから、素行不良ではあるかも。だけど実力不足ってのはありえない。俺は最終的に、あの学校で一番強くなった。生徒だけじゃない。教師だって、束になっても俺に触れることさえできない。あの学校で学ぶことはなんにもない。俺は僧侶として覚醒したから」
「教師が束になっても? お前、それはちょっと話を盛ってないか……それに僧侶として覚醒ってどういうことだ!? お前は剣士になるんだろう!?」
「そのつもりだったけど、気が変わった。ギフトを活かして僧侶系魔法の練習をしたら、もの凄く強くなれた。父さんと母さんには悪いけど、僧侶こそ最強の攻撃職だ」
俺がそう口にした瞬間、父さんと母さんの額に血管が浮き上がった。
「僧侶が最強の攻撃職……? はは、なにを言ってるんだレオニス。僧侶がパーティーにいたら頼りになるのは認めるが、攻撃職ってことはないだろ」
「そうよレオニス。最強の攻撃職は剣士。これは今も昔も変わらない。だって剣士が一番格好いいから!」
うーむ。実に予想通りの反応だ。
けれど、ここで引くわけには行かない。俺はこれから僧侶のギフトを最大限に活用して生きていく。その生き方を両親に認めてもらいたい。それには僧侶系魔法が如何に強いか、この二人に身をもって味わってもらうのが手っ取り早い。
あと、冒険者たちにも俺の強さを見せつけておくべきだろう。
そうすればロクシャール剣術学校が主張する『著しい実力不足』とやらが真っ赤な嘘だと、大勢に知らしめることができるから。
「俺は主張を撤回しない」
「おもしれぇ……そこまで言うなら、僧侶の強さとやらを見せてもらおうじゃねぇか」
「受付嬢さん。ギルドの訓練場を借りるわよ。うふふ……レオニス、久しぶりに稽古をつけてあげる……」
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