第9話

 俺は六体の黒騎士を作り、教師たちの行く手を阻んだ。


「なんだ、これは……まさか、これも防御結界だというのか!?」


「その通り。俺が防御結界で作った黒騎士です。見た目が格好いいだけでなく、かなり強いですよ。堕落した先生たちでは、勝てないでしょう」


「堕落!? 名門中の名門、ロクシャール剣術学校の指導者たる私たちがいつ堕落したというのだ! 聞き捨てならん! 黒騎士だと? どうせ見た目だけだろう!」


 校長たちは黒騎士の壁を強行突破しようとする。

 が、できない。

 教師は十人ほどいて、黒騎士のほぼ倍だが、一歩も進めずにいる。


「さて。これで邪魔が入らない。さあ、カール、続きをやろう」


「く、来るなぁっ! お前は無抵抗の人間を痛めつけるのか!? こんな大勢の前で!」


「抵抗できなくなった俺を何度も痛めつけたお前が言うのか。だが、そうだな、一理ある。抵抗しない奴をいたぶるのはつまらないし、恰好が悪い。なら、こうしよう」


 俺はカールの魔法剣に指先で触れる。

 そして術式に干渉した。

 この魔法剣は、持ち主が敵と認識した相手を自働で攻撃する設定になっている。それを『カールが気絶しようと、レオニスを攻撃し続ける』に書き換えた。


「な、なんだ!? 俺は攻撃を命じていない! なんで動くんだ!? くっ、剣を捨てたいのに動かせない……!」


 そう。今のカールには自分の指を動かす自由さえない。

 魔法剣に支配され、自動的に俺を襲うだけの機械だ。

 俺は襲われているわけだから、当然、反撃する。

 骨を折っては回復させ、流血させては回復させ、歯を折っては回復させる。


「い、嫌だぁ……もう立ち上がりたくないのに……助けて……パパ、ママぁ!」


 カールは失禁しながら泣きわめく。

 ざまぁみろという感じだ。

 さて、この辺で勘弁してやるか。


「魔法剣をもとに戻した。これで自由に動けるぞ。土下座して謝れ。それで許してやろう」


「う……うぅ……ごめんなさい……今まで虐めてごめんなひゃい……ゆるじでくだざい……」


 カールは地面に額を擦りつけた。

 うむ。実にいい光景だ。これを見たかったのだ。

 ああ、スッキリした。

 この学校でやるべきことは終わった。

 家に帰ろう。


「ま、待って、レオニスくん!」


 女子の一人が俺に声をかけてきた。


「私、ずっとカールが気にくわなかったの。やっつけてくれて、スカッとしたわ! 本当はカールよりレオニスくんのほうが強いって、私は分かってたわ。ねえ、友達になってくれない?」


 彼女は一年生女子の中心的存在で、カールに次ぐ地位にいる。

 そんな彼女が俺に媚びを売る様子を見て、ほかの生徒も俺に声をかけてきた。


「俺もカールが嫌いだったんだ! レオニスより弱いくせに、魔法剣で実力を誤魔化して、本当に卑怯な奴だぜ!」


「レオニスが虐められてるのを見て、心を痛めてたんだ……復讐できてよかったな!」


「なあ、俺とも友達になってくれよ!」


 そんな声が無数に聞こえてくる。

 俺は大きなため息をついた。


「そういう温かい言葉を、どうして虐められているときに言ってくれなかったんだ? 俺がカールに痛めつけられているとき、お前らはずっと無視していたよな? なのに俺が優勢になった途端、友達になってだと? それで俺が喜ぶと思っているのか?」


 羞恥心という概念を思い出したのか、生徒たちは黙った。

 しかし、まだ黙ってくれない奴もいた。校長である。


「レオニスくん! 君の素晴らしい実力、見せてもらった! 君が卒業して活躍してくれたら、ロクシャール剣術学校の評判はますます上がる! ああ、確かに思い返してみると、カールくんの行いには行き過ぎた部分があったかもしれない。カールくんは私が指導しておくから、どうか仲直りしてくれないだろうか」


 校長は、カールの父親からの寄付金と、俺を使って宣伝するのを天秤にかけ、俺のほうに傾いたらしい。

 ニコニコと揉み手をしながら歩み寄ってくる。


「卒業? 俺がどうしてこの学校に残らなきゃいけないんですか? 教師が雁首揃えて俺の黒騎士を一体も倒せない。生徒にはやる気がなく、経営陣は金のことばかり。先人たちのおかげで、まだ名門校というイメージが残っていますが、きっとあと数年もすれば内情が知れ渡りますよ。ロクシャール剣術学校の卒業生というのが、逆に悪名になる。卒業なんかしたくありませんね」


「な、な……!」


 校長は怒りの余り言葉を忘れたようで、顔を真っ赤にして固まっている。

 正気を取り戻すまで待つ義務もないので、俺は学校をあとにした。

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