第8話

「は、反則だ! 僧侶ってのは人が戦っている後ろから支援するのが普通だろう! 結界を攻撃に使うなんて、想像できるわけがない。お前は俺に不意打ちしたのと同じだ! 恥を知れ!」


「どういう理屈だ? 防御結界は俺の力だ。魔法剣に頼っているお前のほうが、よほど恥知らずだし反則だと思うんだが?」


「うるさい黙れ! お前ら、見てないで俺に加勢しろ! なんのためにお前たちに物をやったり飯を奢ってると思ってるんだ!」


 カールは取り巻きたちに怒鳴る。


「え、俺ら全員でレオニスと戦うんっすか? それはさすがに卑怯……っていうか、レオニスに稽古をつけてやるって名目がなくなるんじゃ……」


「そんなのはどうでもいい! 俺がやられっぱなしでもいいのか!?」


 やられたってのは認めるのか。

 取り巻きたちは渋々という表情で木剣を構え、俺を取り囲み、向かってきた。

 俺は左右の剣で全ての攻撃を受け止める。そして全員に打撃を見舞い、骨折させ、同時に回復魔法をかけた。傷を残すことなく激痛だけを与えるという、実に拷問向きの技である。


 俺が一番ムカついているのはカールだが、俺が傷ついて倒れる様を見て笑っていたこいつらも少しは痛めつけておかないとな。


「ぐ、あっ! 駄目だ、こんなの勝てるわけがない……逃げろぉ!」


「に、逃げるな! こいつの攻撃は痛いだけで少しも傷がつかないじゃないか。お前たちが攻撃し続ければレオニスだっていつかは疲れて動けなくなる。そうしたら俺がトドメを刺してやるから、逃げないで戦い続けろ!」


「ふざけんな! 俺らを盾にするつもりかよ! 傷がつかないだって? 骨折したあと治ったんだよ! そんなことも気づかないのか!? レオニスは攻撃しながら回復魔法をかけて、徹底的に拷問するつもりだ! つきあってられるか!」


 取り巻きたちは一斉に逃げ出してしまった。

 俺はそれを追いかけてどうにかしようとまでは思わない。

 あいつらなんかよりもカールだ。

 入学以来、何ヶ月も痛めつけられた恨み、ここでキッチリ清算する。


 根に持つなんて人間として器が小さい? 復讐はなにも生み出さない?

 そうかもしれない。けれどカールに『お礼』をしないまま学校を去ったら、俺はなにかにつけて「あのときやっておけばよかった」と思い出す羽目になる。

 十年とか経ってからいきなり復讐されてもカールだって困るだろう。

 だから数ヶ月分の恨みを今日一日で晴らすのは、お互いのためだ。俺の優しさと思ってもらいたいくらいだ。


「さあ、かかってこいカール。まさか一対一じゃ怖くて戦えないなんて言わないよな? 一度剣を落としたくせに、勝手に続行したのはお前なんだ」


「お前如きが怖いわけないだろう!」


 向かってくるカールの胸部に木剣を叩きつける。肋骨が砕ける音がする。しかしすぐに回復。カールは激痛に顔を歪めながら吹っ飛んでいく。


「痛いっ! 痛いぃぃぃっ!」


「大げさだな。すぐに回復させたんだから、痛みは一瞬だろう。ほら、立て。まだ終わらせないぞ」


「もう許してくれ……」


「は?」


「もう気が済んだだろ……? 俺にこんな痛い思いをさせたんだ。十分だろ? なあ? もうやめてくれよ……」


「十分なわけあるか。俺だって、やめてくれって何度も言ったよな? お前、やめたか? やめなかったよな? 今なら気持ちが分かる。圧倒的な力で弱者をいたぶるのは、結構な快感だ。ハマらないよう気をつけなきゃな」


「や、やめろ……近づくな……あぎゃああああっ!」


 木剣で腕の骨を折ってやった。三秒待ってから回復。次は足の骨。また三秒してから回復。


「いだいぃぃぃぃぃっ! いだいよぉぉぉぉぉっ!」


 カールは小さな子供みたいに泣きわめきながら転げ回る。


「なにあれ、ダッサ」


 見ていた女子生徒がプッと吹き出す。

 カールはこれまでだって、別に尊敬されていたわけではない。けれど魔法剣が恐ろしくて誰も逆らえなかった。しかしカールが無様を晒しすぎて、聞こえるように馬鹿にする者が出てしまった。


「お前たち、なにをしてるんだっ!」


 そう叫んだのは生徒ではなく教師。

 騒ぎを聞きつけて、教師たちがやって来たのだ。その中には校長もいた。


「校長先生……! こいつが、レオニスが俺を虐めるんです! やめてって言ってるのに、何度も殴ってくるんです!」


 カールは校長に泣きつく。

 分かっていたけど、こいつ、本当に恥知らずなんだな。


「虐めるって……魔法剣を持っている君を……?」


「はい! 魔法剣を叩き落として、無防備になった俺を殴るんです! 酷いでしょう!?」


「いや、酷いというか……レオニスがいくら一年生で一番強いといっても、そんなこと可能なのか? そもそも魔法剣と打ち合ったら木剣が耐えられない……待て、レオニス。左手に持っているその剣はなんだ? 木剣以外の剣の所持は、校則で禁じられている。知らないとは言わせないぞ!」


 校長が叫ぶ。


「それはまずカールに言うべきでは?」


「か、彼はいいんだ! 特別に許可しているのだから……!」


「なぜ特別扱いするのですか? カールはその魔法剣でほかの生徒を威圧し、まるで君主のように振る舞っています。それに魔法剣が自動的に動くせいで、カールの実力は一向に向上しない。全員にとって悪い結果にしかならないと思うのですが?」


「うるさい! 学校の決定に生徒が口を挟むな! 退学にするぞ!」


「まあ、別に退学にしてくれても構いませんけど。とにかく俺は、カールに魔法剣で散々いたぶられたんです。ここで復讐してスッキリしたいのです。邪魔をしないでいただきたい」


「そんなリンチまがいの行い、見過ごせるわけがないだろう!」


「へえ。俺がカールにリンチされていたのは見過ごしたのに?」


「あ、あれは生徒同士の鍛錬だったと聞いている……放課後に鍛錬するのはいいことだ」


「なるほど。では俺が今からカールにするのも鍛錬です。手出し無用」


「駄目だ! そもそも、お前の左手にある剣を認めてない! まずそれを捨てろ!」


「では、木剣だけなら鍛錬していいわけですね」


 俺は結界で作った剣を消す。


「そういう話ではない……ん? 剣をどこに隠した? いきなり消えたように見えたが……」


 校長は不思議そうな顔をする。


「左手の剣は、防御結界で作ったものなので、出し入れは自由自在です。透明なまま使うこともできます」


 俺は改めて透明剣を作って、地面に溝を掘って見せた。


「な……防御結界をそんなふうに使うなんて聞いたことがない……前代未聞の才能だ……いや、それはそれとして、リンチは許さん! 先生方、レオニスを止めるぞ!」


 校長の合図で、教師たちが俺に飛びかかろうと動く。


「許されなくても決行します」

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