第12話


 父さんと母さんの剣の切っ先が触れ合う。その瞬間、二人の魔力が融合し、閃光となって解き放たれた。

 閃光は俺の黒騎士たちに襲い掛かり、またしても押し返す。否、これはもう吹っ飛ばしたというべき飛距離だ。


「はあ!? これでも破壊できないのかよ!」


「硬いとかそういうレベルじゃないわ! 私たちのスターライトブレードはベヒモスだって一刀両断にするのに!」


 いや、ベヒモスは無理だろ。最強クラスのモンスターだぞ。前世の俺だって魔道具を駆使しても一対一じゃベヒモスを倒せなかった。


「お母さん、黒騎士を倒すのは無理っぽいぜ。悔しいが諦めて、レオニスを直接狙おう!」


「そうね! ギルドには高性能ポーションが備蓄してあるから、致命傷を負っても助かるし……レオニス覚悟してね! できるだけ痛くないようにするから!」


 さすが銀等の冒険者。気持ちの切り替えが早い。

 というかポーションがあるからって、実の息子に致命傷を負わせる覚悟を決めるとか、思考の流れが戦闘に特化しすぎてるぜ。


 父さんと母さんは俺に向かってきた。

 回避に集中すれば黒騎士たちの隙間を抜けるなんていつでもできたのか。恐ろしい二人だ。


 左右から斬撃が来る。

 同時ではなく、意図的にタイミングを変えている。

 完全に同時なら防ぎきれない。しかしズレているから時間差で両方を弾いて、体勢を崩してやり、反撃に繋げられる――そんな欲が出てくる絶妙のタイミングだった。

 誘いに乗って二人と剣を交えたりしたら、もうそれでアウトだ。

 俺如きが剣士として、、、、、二人と戦ったら、一秒も保たない。


 ここは距離を取るのが無難。父さんと母さんも、俺がそうすると思っているだろう。だからこそ俺は動かない。

 結界で剣を二本作り、それぞれ両手に持つ。


 ――それで俺たちの剣を受けようってのかよ!


 ――いい度胸ね!


 一瞬にも満たない時間で、両親がそんな台詞を発したわけじゃない。ただ視線がそう語っていたのだ。

 二人は迷いなく、俺の胴体目がけて剣を突き出してきた。

 だが、届かない。


 防御結界だ。


 俺が変則的な使い方ばかりしているから、二人とも失念していたのだろう。

 しかし僧侶とは本来、回復と防御のスペシャリストである。

 貫くつもりで放った刺突が止まってしまい、父さんと母さんはハッキリと動揺を浮かべる。

 そのわずかの隙を狙う。二人の背後から、黒騎士六体を襲い掛からせる。

 が。


「「甘い!」」


 父さんと母さんは防御結界を蹴飛ばし、その反動で俺から遠ざかる。と同時に、黒騎士へと向き直って剣で薙ぎ、六体全てを吹っ飛ばした。


「相変わらず硬ぇな! けれどレオニスの魔力で作ってるなら、レオニスが疲れ果てれば消えるんだろ?」


「我慢比べといきましょう。お母さんたち、何時間でも付き合うわよ」


 そう。俺の防御結界が破られるとしたら、それは強力な一撃ではなく、持久戦によってだ。

 何百、何千という敵を相手に戦い続け、俺が限界を迎えたとき、防御結界は消滅する。

 それをたった二人でやるつもりだ。

 無謀、ではない。

 なぜなら千の雑兵よりも、俺の両親のほうが遙かに強大な戦力だから。前世でもこんな剣士と会ったことがない。

 この二人はなんなのだろう? なぜこんなに強い? 銀等でこれなら、その上の連中はどうなっている?

 分からない。が、この二人の子である事実が、心底から誇らしい。

 もう細かいことはどうでもいい。俺はこの二人を超えて行きたい。


 ゆえに二人を見習う。

 夫婦の力を合わせた魔剣。あれには感動した。力を合わせる。いい言葉だ。俺もみんなの力を合わせるぞ。


 ――合体。


 六体の黒騎士を構成していた結界を一カ所に集め、巨大な黒騎士に作り替える。そこに六つのマナを憑依させた。

 さすがは生前も生後もパーティーを組んでいただけはある。両腕と両足、胴体に頭部と、すぐに役割分担して巨大黒騎士を動かした。


 剣を振り下ろす。ただそれだけのことなのに、まるで空そのものが落下してきたかのような威圧感が生まれる。

 地面が爆ぜ、クレーターが掘られた。

 直撃を受けたら人間などひとたまりもない。

 だが当然、直撃を受ける父さんと母さんではない。

 舞い上がる土砂に紛れて空中から俺に迫る。


 俺は三本目の剣を作って発射。狙いは母さん。足場がない空中では、どんな剣豪だって自力での回避行動は不可能。それを見た父さんは、自分の剣を母さんの剣にぶつけた。反動で互いが逆方向に飛ぶ。おかげで母さんに剣が突き刺さらなかった。が、二人とも、予定外の場所に予定外の姿勢で着地してしまう。


 俺にとっては予定通り。

 姿勢を崩している父さんに、まずは右手の剣を振り下ろす。もちろん防がれた。これも予定通り。左手の剣で薙ぐ。父さんの両手首を、切断。


 背後から圧。

 母さんだ。

 父さんと違って着地後に体勢を整えてから俺に向かってきた。つまり万全。強敵。それでも今の俺なら、一対一なら、勝負になるはず。


 俺は振り返る。

 母の刃が手加減なしに振り下ろされた。俺は咄嗟に二本の剣を交差。間に合った。防御。両腕が軋む。骨折。回復魔法。痛い痛い痛いッ。防御には成功しているのに。こっちの剣が普通の代物だったら俺ごと真っ二つになっていた。どういう力してやがる。


 膠着状態だ。けれど悪くない。例えば、巨大黒騎士でもう一撃を放ち、俺ごと母さんを吹っ飛ばす。そして俺だけ回復魔法で蘇って立ち上がれば――。そう考えている最中、巨大黒騎士が勝手に分解されて消えてしまった。しまった。六体合体は無茶だった。体を維持できるのは短時間だけらしい。


「お母さん、やれ!」


 父さんが後ろから俺に体当たりしてきた。

 間髪入れず、母さんの剣。

 もちろん防御結界で止めた。が、力が強すぎる。結界ごと俺の体が浮き上がる。

 次の瞬間、凄まじい猛攻が俺の防御結界に襲い掛かった。


 俺の両足は地面に戻ったけど、母さんの剣に押され、ジリジリと押されていく。

 なにが狙いだ? 俺の魔力が切れるまで結界を殴るつもりか? 

 いや違う。

 このまま行けば、俺たちはギルドの建物を貫く。その先には当然、町が広がっている。そこは当然、冒険者ギルドではない。


 ギルドの敷地から出たら場外負け。

 町を巻き込まないためのルールを、こんな形で利用されるとは!

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