第6話

 防御結界というのは普通、四角い板だったり、球状だったりと、シンプルな形をしている。

 凝った形状にしたところで防御力が増すわけではないし、咄嗟に出せなくなるから、デメリットしかない。


 ところが俺は普通ではなかった。

 僧侶のギフトと、前世で培った技術。それを組み合わせたら、結界の形や色を変えるのも、鋼鉄より硬くするのも、枕のように柔らかくするのも、自由自在になった。


 自由自在ならば、色んなものを作らねば損だろう。

 というわけで、格好いい鎧を作ってみた。

 自分で装着するのではない。

 動く鎧リビングメイルとして操り、戦力にするのだ。


「よし。素晴らしく格好いい鎧ができたぞ。黒騎士って感じだ。まずは右足を出し、次に左足を……」


 なんとか歩かせるのに成功。

 しかし遅い。

 剣を振らせてみる。杖をついた老人でも避けられるような剣速だった。

 防御結界で作った鎧を動かすのという行為に俺が慣れていないというのもある。が、これを練習するくらいなら、ほかの技を磨くほうが有意義な時間の使い方な気がする。


 それでも、この黒騎士を動かしたいなぁ。だって凄く格好いいじゃん。

 こうなったら俺が着て……違う、そうじゃない。着てしまったら、この格好いい姿が見えないじゃないか。俺は黒騎士になりたいんじゃない。黒騎士が動いているところを見たいんだ!


 しかし……仮に上達して素早く動かせるようになったとしても、俺はそこに集中力の全てを注いでいるわけだ。戦いの場に、無防備この上ない状態で立つわけだ。もはや自殺である。


 自立行動してくれるのが一番いいが、それは無茶な話か。

 いや待てよ。

 前世の記憶が蘇ってきた。


 かつて俺は魔道具を作るため、他人が作った魔道具を調べていた。実物が手に入るならそうしたし、手に入らなくても可能な限り情報を集めた。

 そのうちの一つが『動く死体を作る』のを目的とした魔道具。人工的に作った魂モドキを死体に入れて動かす。掃除洗濯くらいならやってくれる。

 実際に試したから性能は確かだ。

 ちなみに前世の俺は探究心の化身のような奴だったけど、さすがにテストのために善良な市民を死体に変えたりしない。ちゃんと戦場から拾ってきた死体で試した。


 今思い出しても、あれは凄い魔道具だった。

 なにせこの俺がコピーしようとして、コピーできなかったのだから。

 魂モドキの構造は理解できても、その材料が分からなかった。

 けれど今なら分かる。

 マナを材料にしていたのだ。


 俺の周りにはマナが漂っている。

 それを少々拝借して、黒騎士に憑依させるのはどうだろうか。

 死者に対する冒涜?

 そういう側面は否定しきれない。しかし使い終わったらちゃんと大気中に返せば許されると思う。許して頂きたい!


「許しを請うのはともかく……本当にできるのか……?」


 できる、はず。

 六人の幽霊を浄化したことで、マナを意識できるようになった。

 幽霊をマナの中に送れたのだから、取り出すことだってできるはず。


 マナを摘まむ……この辺が摘まみやすそうだ……できた!

 そして魂モドキを思い出しながら、少々イジらせてもらう。

 黒騎士に注入。

 さあ、いけるか?


「歩け!」


 歩いたぁっ!

 俺が操るのとは段違いにスムーズな動き。

 自分の子供が立ち上がったときはこういう気分なのだろうか。感動的だ。

 次は剣を振らせてみよう。声に出さなくても念じるだけでやってくれるはず……できた!

 綺麗な太刀筋だ。父さんと母さんに厳しく指導されてきた俺から見ても文句のつけようがない。


 さて。調子に乗って黒騎士を増やしてみよう。

 丁度、この辺に摘まみやすそうに固まっているマナが五つ……。

 そういえば、さっきのマナも俺に摘まんで欲しそうにウロウロしていたな。

 合わせると六つ。

 俺が浄化した幽霊は六人。


「もしかして君ら、さっきの幽霊なのか?」


 問いかけると、マナが頷くように上下に動いた。

 黒騎士も頷いている。

 なんと。幽霊の恩返しか。

 そういうことなら、黒騎士を更に五体作って、憑依させちゃおう。


「よし、みんな。俺についてこい。そしてモンスターが現れたら攻撃しろ!」


 黒騎士たちは命令を聞いてくれた。

 俺を守るように歩き、モンスターが出た瞬間、剣を振り下ろして真っ二つにする。


「これは新鮮な気分だな。まるで王様にでもなったかのようだ。わははは」


 俺は高笑いをあげ、邪悪な王様を演じてみた。

 なおマナたちは、黒騎士を消したあとも、俺の周りをふわふわしていた。

 自分の意思で幽霊生活を続行するなら、それは個人の自由だ。

 どうぞどうぞ。末永くよろしくお願いします。

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