第3話 試行錯誤スタート
剣術学校は全寮制で、許可なく外泊するのは禁じられている。
しかし俺はそんな校則を無視して、今日から山ごもりする。
満足できるまで下山するつもりはない。
つまり授業もサボる。
俺は魔法師としての成長を望んでいる。よって剣術学校の授業は時間の無駄だ。
いや、剣士の視点から見ても、あそこに居続ける意味がない気がする。
俺は幼い頃から、父さんと母さんに鍛えてもらっていた。あの時間のほうが、よほど有意義だった。
ロクシャール剣術学校は、かつてハイレベルな学校だったのだろう。その頃のブランドイメージで、今でも名門校として扱われている。
だが実際は、カールのような奴が野放しにされる無法地帯。教師たちにやる気はなく、授業のレベルが高いとは言い難い。
いつからああなったのか知らないが、あれでは当然、卒業生の実力が下がる。何年も続けていれば、ロクシャール剣術学校の評判は地の底まで沈むだろう。
俺の両親の耳に届いていないだけで、すでに問題視している人も大勢いるはずだ。
あの学校を卒業するつもりは全くない。
この山で魔法を鍛え、その成果をカールで実証したら退学する。
父さんと母さんは驚くだろうけど、最終的には納得してくれると思う。
「さて。まずは前世のおさらいから始めるか」
俺は森の中を歩き、獲物を探す。
やがて熊型のモンスターと遭遇した。全長は三メートルほど。殴り甲斐がありそうだ。
熊は俺に腕を振り下ろしてくる。が、当たらない。防御結界に阻まれ、何度やっても俺に触れることさえできないのだ。
そして俺は深く腰を落とし、拳を握りしめる。
拳を防御結界で包む。硬く、硬く。
両親に鍛えてもらった肉体。渾身の力を込めて正拳を突き出した。
熊は吹っ飛び、血を吐いてのたうち回り、すぐに動かなくなった。
一撃必殺。
肉体を防御結界で包んで、攻撃に使う。
これは前世からあった発想で、魔道具を使って実際に試したこともある。だから、こういう結果になるのは分かっていた。
それでも俺は感動している。
「感覚が全然違う……やはり自分の魔力で魔法を使うと、満足度が段違いだ! 俺はずっとこれを味わいたかったんだ……ほかの魔法師はみんなこうだったんだな。くそ、ズルい! けれど俺も今日からこっち側だ!」
自分の魔力で作った防御結界。それは当然、魔道具で作ったものより融通が利く。
たんに自分の周りを覆うのではなく、もっと自由自在に形を変えられるのではないか?
「剣を、作ってみるか」
前世で魔法剣を何本も作った。
今世では幼い頃から剣に触れてきた。
剣のイメージが魂に刻まれているといっても過言ではない。
両手で剣を構える姿勢をとり、細長い防御結界を作って握る。
形を整え、柄を作り、刃を作る。
そして色をつける。
理想の格好いい剣を具現化させる。
「うぉぉ……なんだこれ格好よすぎるぞ……!」
感動した。
切れ味を試したい。
すぐ近くに手頃な岩があった。
振り下ろす。
サクッ。
信じがたいほどよく斬れた。
「刃の強度と薄さを両立させるイメージをしたけど、まさかここまで上手くいくとは……僧侶のギフトは想像以上に凄いな!」
次は、剣から色を抜いてみる。
真の達人なら剣が透明だろうと、俺の手首の動きなどから太刀筋を見切る。が、そこまでの達人は少ない。透明な剣は、強力な武器になるはずだ。
「……握っている感触はあるのに、目には映らない。不思議だ。でも確かにこの手の中にある」
また岩に振り下ろす。
違和感。
さっきより切れ味が鈍っている。気のせいではない。
俺は刃の形を変えたつもりはない。つもりはないのだが……確かめようにも透明だから見えない。
ああ、そうか。
魔法はイメージが大切。そして透明なものに対してイメージがぼやけるのは当然。
剣の刃は繊細だ。わずかな歪みが切れ味を大きく変えてしまう。
俺の想像力では、理想の透明な剣をイメージできないらしい。残念だが、そうと分かったのは収穫だ。今後の参考にしよう。
さて。
続いて、炎魔法を試す。
攻撃魔法の知識は、前世で蓄えている。自力で使うことはできなかったが、魔道具に術式を何度も刻んだ。そこらの魔法師より、ずっと深く理解しているという自負がある。
「出た! 俺の魔力が炎に変換されてる! けれど勢いがないな」
俺の手のひらから出る炎は、一メートルほどしか伸びてくれない。
全く出せないよりはマシだが、この程度の火力だとモンスターを相手取るには心許ない。
僧侶系の魔法に関しては自分でも驚くほどの才能だけど、それ以外は人並みのようだ。
人並みの才能。
結構だ。前世はそれさえなかったのだから。
「結界で剣を作れた。それが形あるものなら、術式を刻んで魔道具に改造できるんじゃないか?」
我ながら滅茶苦茶な発想だと思う。
けれど思いついた以上は試さないと気が済まない。
結界で作った剣を握った感触。本物と同じだった。いける気がする。
剣を形成。今度は握らず、空中に浮かばせる。それに炎魔法の術式を付与。
発射。
木に深々と突き刺さる。そして炎が一気に解き放たれ爆発。木の幹は内側から爆ぜ、へし折れた。
俺に攻撃魔法の才能はそれほどない。けれど防御結界と、前世の知識を組み合わせれば、こうして擬似的な攻撃魔法になる。
思っていた以上に僧侶系の魔法は応用が利きそうだ。
「防御結界を柔らかくしたどうなるんだろう」
防御結界を丸くする。それを柔らかくする。手で押すと変形した。
枕に丁度いいんじゃないか?
試しに寝てみよう。
おお、素晴らしい。しかし、もう少し硬いほうが俺好みだな。微調整。
せっかくだから布団も作ってみよう。
素晴らしい。
まさか山ごもりで温かい布団が手に入るとは思わなかった。
ちゃんと色もつける。雰囲気が出てきた。
周りを四角い壁で囲ってみよう。小屋みたいになった。これはもう野宿ではない。
僧侶は小屋さえ作れるのだ。僧侶のギフトがあって本当によかった。
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