第139話 数日ぶりの帰宅


「ねぇねぇお母さん。今日はどこに行くの?お買い物?」


翌日、俺たちは栞菜と二人を合わせるために、恭子さんの車で彼女たちがいる家に向かっている。


「お買い物はまた今度ね。今日は貴方にお友達と会わせたいの」


「お友達?」


「覚えていない?ほら、紗耶香ちゃんと凛明ちゃんよ」


「さやかちゃん……りあちゃん……病院にいた二人?」


「そうそう、よく覚えてたわね」


「うん!二人ともすっごく可愛い!お人形さんみたいだった!」


目をキラキラしてはしゃぐ栞菜を見て、昔はお人形とか好きだったんだなと無難に思ってしまった。


「……着いたみたいね。栞菜、親しき人にも礼儀ありよ。失礼のないようにね」


「はぁーい」


窓の外を見ると、そこには前まで四人で住んでいた家が……自宅が映ってる。

だが、栞菜は特に気にした素ぶりなど見せずに車のドアを開けて目を輝かせてその家を見る。


「……やっぱりだめね」


「えぇ。ですが、仕方ないと思います」


恭子さんと少しだけ会話をしてから俺たちも車から降りる。

そんな簡単に記憶が戻るわけないよな……。そんなことを考えながら俺は家のインターホンを鳴らす。


しばらくすると玄関のドアが開いて……そこには紗耶香の姿があった。


「……エイジさん……それに、恭子さんも……」


「数日ぶりか?今は凛明と紗耶香だけか?」


「はい。さっきまで宗治さんと真中さんがいましたけど、事情を説明したら帰ってくれました……それと」


紗耶香の視線が栞菜に向けられる。栞菜は笑顔を浮かべたまま、彼女にお辞儀をして挨拶をする。


「こんにちは、さやかちゃん!」


「……こ、こんにちは……栞菜さん」


色々と思うところはあるのか、表情が曇りながらも、栞菜に挨拶をする。


「……とにかく上がろっか。紗耶香、凛明を呼んできてくれ」


「は、はい!」


紗耶香はそのまま2階に上がって凛明を呼びに行った。

その間に俺たち3人は上がっていく。


「……少しだけ懐かしいわ」


「えぇ。俺も少しだけそう感じます」


まだ数日しか家にいなかったのに……時間の流れが早くなったのかな?

そう感じながら、俺はリビングの扉を開けていく。

いつもより緊張してるが、栞菜はその部屋を見て再び目をキラキラしている。


「すごい……!これが大きなお家だね……!」


……ほんとは貴方の家なんですよ?ただ、そう言うことが出来ずに、彼女に相槌を打つ。


「………エイジ」


すると、背後から声がした。振り返ると、紗耶香とタオルを首にかけている凛明の姿があった。


「悪い、配信の途中だったか?」


「……ん、大丈夫。練習をしてただけ……それよりも……」


凛明も栞菜の方を向く。彼女は未だに二人のことに気づいてないのか、呆然としながら家を見て回ってるが、恭子さんが声をかける。


「ほら栞菜、お友達が来たわよ。挨拶しなさい」


「えっ?……あ、りあちゃん!こんにちは!」


「………こんにちは、栞菜」


いつも通りに表情が変わらずに挨拶してるように見えるが、少しだけ眉が動いてる。やっぱり凛明も動揺してるのか……。



「二人ともごめんなさいね。今日は栞菜と一緒に遊んでくれないかしら?」


「それはいいですけど……何で遊べばいいんですか?その、考えた方がいいですよね?」


「………この日のために色々準備したけど……少し不安」


「いつも貴方たちが栞菜と一緒にやってることでいいわよ。あんま気を負わないで遊んであげて」


「それならまぁ……」


「……ん。じゃあ早速遊ぶべき。栞菜、行こう。私たちの部屋に案内する」


「いいの?わぁ、楽しみ!」


そう言って、二人は栞菜の手を繋ぎながらリビングから出て行き、2階へと上がって行った。


「それじゃ、私たちも私たちでゆっくりしましょうか」


「はい……栞菜さん、元に戻るといいのですが……」


「……今は二人を信じましょう。きっと大丈夫よ」


少し不安な気持ちを抱きながらも、俺は久しぶりにこの家でゆっくりとするのであった。




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