第137話 娘想いの夫婦


「……それじゃ、私は仕事に行ってくるわね。お父さん、栞菜のことよろしくね」


「うん。お母さんも気をつけて」


「お母さん、いってらっしゃーい!」


栞菜さん……栞菜の元気な声に反応するように恭子さんは彼女に手を振ってから扉を閉めて仕事へと向かっていった。

ちなみに俺と恭子さんはお互いお父さん、お母さん呼びにした。夫婦という信憑性を高めるためということらしい。


「……お父さん。ほんとに今日はずっと家にいてくれるの?」


「あぁ。休暇を貰ったからね。しばらくは栞菜と一緒にいられるよ」


すると、栞菜の表情が明るくなる。それが嬉しくもあり……同時に心が痛くなった。


「じゃあじゃああそぼ!」


そう言いながら、栞菜は俺の手を引っ張る。昔の栞菜って強引だなぁ……と思いながらも、俺は彼女と一緒に玄関から部屋に向かっていく。

このアパートは2LDKなため、部屋がもう一つある。その中に入っていくと……ぬいぐるみなどが置いている可愛らしい部屋が目に入った。


「これは?」


「あ、これ?ここに来る時にお母さんがくれたの!すんごく可愛いし、お母さんが私にくれたものだから大事にしてるんだー!」


そう言って、栞菜は少しだけボロボロになっているクマのぬいぐるみを抱く。

おそらく、栞菜の親が彼女のために用意したものなのだろう。とても子供思いの優しい人たちだってことが伝わった。


「……栞菜ってさ。どうして病院に入ってたか覚えてる?」


少しだけ探りを込めて聞いてみる。すると栞菜は首を横に振って答える。


「よくわかんない。気づいたらお布団の上に眠ってて、お母さんとお父さん……あと紗耶香ちゃんも凛明ちゃんがいたの」


「……お父さんとお母さんのことはどう思ってるんだ?」


「?なんでそんなこと聞くの??」


「栞菜が俺たちのことをどう思ってるか気になったんだ」


「そうなんだ……お母さんはね、とっても優しいよ!毎日私の頭撫でてくれてー抱きしめてくれるの!でも怒ると凄く怖いんだー」


栞菜のお母さんか……娘想いの優しい人だったんだろうな。今話を聞いただけでも大切にしてることが分かる。


「お父さんもね、優しいんだけどとってもかっこいいの!私が泣いてる時にいつも助けてくれる王子様みたいな人!」


お父さんは……とても強い人なんだろうな。泣いてる時に手を差し伸べてくれる、か。確かに栞菜よ言った通り、王子様みたいで素敵な人なのだろう。


「私、大人になったらお父さんと結婚するの!」


「……そうか、じゃあちゃんと成長しないとな」


そう言って栞菜の頭を撫でる。普段の彼女が言ったのなら少しだけ動揺するが、純粋な彼女を見て、俺はどこか母性というのを感じた。

そっか……栞菜のお父さんはこんな気持ちで彼女のことを見ていたんだな。だけど、それを加味しても……今の俺には違和感を感じざるを得なかった。


「あ、今日はお父さんと遊ぶんだった!もーお父さんが変なこと聞くからー!」


「あはは、ごめんごめん。今日は一日中お父さんと遊ぼうな」


「うん!」


そうして俺たちは色々な遊びをすることにした。

お人形遊びだったり、おままごとだったり……5歳児がやる遊びのようなもので俺は困惑しながらも、なんとか彼女と遊ぶことができた。


(……ゲームはやらないんだな)


この時の栞菜はまだ……少しだけ寂しい気持ちを感じたのはきっと気のせいではないのであろう。

そうして遊び終わった頃には夕方になっており、栞菜はスヤスヤと眠りその時の俺も疲れ果てていた。


「……子供の世話って大変なんだな」


少しだけ親の気持ちが分かった気がし、同時に子を育てる親の偉大さを感じつつある俺なのであった。




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