第134話 退行
「……栞菜、気を失って寝ているそうよ。今は安静にしているから大丈夫だって」
「そうですか……ありがとうございます」
栞菜さんが倒れた後、俺と恭子さんという人は警察に事情を聞かれた後、彼女が眠っている病院に急いで行った。
恭子さんが言った通り、栞菜さんの身体に特に異常はないらしい。そう身体はだが……。
「……精神的な異常は何か起こるかもしれないって言ってたわ」
恭子さんの表情が曇る。それを見て俺も伝染するように表情が暗くなるのがわかった。
「……そういえば貴方は?栞菜さんのこと知り合いですか?」
このままではよくないと思い、彼女に聞く。すると、思い出したかのように恭子さんは咳払いをしてから答える。
「そういえばまだ自己紹介がまだだったわね。私は
「……貴方が」
そうか。俺が栞菜さんに雇われる前に家事を代行していた人か。確か家庭に余裕が無くなって辞めたとか言ってたよな……。
「そういう貴方は……確か、小島祐介さんでしたか?」
「えっ?そうですけど……なんで名前を?」
「栞菜から連絡して色々聞いたわ。ある程度は理解してるつもりだから言わなくてもいいわ」
「そうですか……」
……いつもなら栞菜さん一体他人の個人情報漏らしてんだとか思ったりするのだが、今はそんな気すら湧かない。
「知りたいんでしょ?栞菜のこと」
「……はい。正直に言えば、何が起きたか分からないんです」
突然連れて来られて、栞菜さんの両親は見つかり亡くなってて、今に至る。
それまで俺は呆然とするしかなかったのだ。そんな俺の様子を見て察したのだろう。恭子さんが椅子に座ってから話し始める。
「栞菜が孤児だってことは……知ってるわよね」
「はい。本人から聞きました。でも経緯までは……」
「……栞菜はね、親に置いていかれた子なの」
「置いて、行かれた?」
捨てられたのではなく置いていかれた?
「彼女の家庭は幸せそのものだったそうよ。毎日和気藹々としていて、少なくとも栞菜のことを大事にしてたのよ……でも、ある事件に巻き込まれちゃってね」
「事件……?それは?」
「聞いたことない?20年前に巷で有名になっていた無差別殺害よ」
20年前……確か、それって通り魔が起こしていた事件だったよな。
俺も母さん達から何度も一人で帰るなって言われたのを覚えてる。
「今はその犯人も捕まって、事件自体は終わったわ……でも、それで栞菜のお父さんとお母さん、行方不明になっちゃったの」
「……そんなことが」
……だから、置いていかないでか。
稀に聞く栞菜さんの寝言……あれはお父さんとお母さんのことを言ってたのか……。
「私もこれを聞かされた時はびっくりしたわ。それで栞菜達から離れて彼女の両親を探していたの」
知らなかった事実がどんどん頭の中に入っており、口が塞がらず俺自身も混乱してるのが分かった。
そんなことを考えてると、遠くからドタバタと足音が聞こえてくる。
「エイジさん!!」
「エイジ……!」
「紗耶香、凛明?」
「私が呼んでおいたわ。彼女たちも知っておいた方がいいでしょ?」
いつの間に……少し唖然としながらも、息を切らしながら紗耶香と凛明が俺の裾を掴んでくる。
「エイジさん、栞菜さん!栞菜さんは大丈夫なんですか!?」
「……病気?それとも事故?」
いつもと違い、二人の焦りが見える。落ち着かせるように宥めていると恭子さんと病室から出てきたお医者さんが話しているのが聞こえてきた。
話し終えたのか、恭子さんはお礼を言ってお医者さんは去って行った。
「……3人とも。これからもしかしたらショッキングなことになるかもしれないけど、あんまり動揺しないであげてね」
意味深なことを言う恭子さんに疑問を持ちつつ、俺たちは頷く。
そして栞菜さんが入っている病室を開けると……そこには起きて窓の方を眺めている栞菜さんの姿があった。
唖然としながら見ていると、こちらに振り返り……こてんと頭を傾げて俺に向けて言い放つ。
「………お父さん?」
……その衝撃的な言葉を。
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