第132話 ほんの少しの甘味と思い出を
数日が経ち、今日は少しだけ外出中だ。それもただのお出かけではない。
俺は隣で楽しそうに歩いている彼女……栞菜さんを見る。
「随分と楽しそうにしていますね?」
「それはそうですよ。だって久しぶりのエイジさんとのデートですもの。つい浮き足になってしまいますよ」
グラサンを掛け、できるだけ人から目立たない服装をしているにも関わらず、楽しそうな表情をしているのが手に取るようにわかる。
失礼だけど、大人っぽい色気は感じ取れず、逆に幼い子供のような可愛らしさを醸し出している栞菜さんは俺の手をにぎにぎと感触を楽しみながら握りしめて、ニコニコと笑っている。
「今日はどこに行くんですか?」
そんな彼女に聞いてみると、栞菜さんは上機嫌のまま答えてくれる。
「まだ決まっていませんけど、今日は街でも周ろうかなって思ってます。たまにはのんびりとしたいので」
そう言いながら、彼女はどこか別の所に視線を向ける。俺も栞菜さんが見ている方向を見ると、そこには初めて彼女と街を散策した時に入った喫茶店が目に入った。
「覚えていますかエイジさん?あの喫茶店で私たちの生活が始まったんですよ」
「はい。あの時の栞菜さん、無茶振りで凄く困惑したのを覚えています」
「そ、そこまで強引なことはしてないですよ?……ただちょっとお引越ししませんかって言っただけで……」
「それが凄い無茶振りだって言ってるんですけどね……」
目を逸らしている栞菜さんに言い放つ。いやあの後大変だったんだからね?元々契約していたアパート突然売り払っちゃってその後俺の荷物の片付けしないといけなくてわざわざアパートまで行って……今考えたらいい思い出だけど。
そんな喫茶店を見ていると、高い建物に設置してある巨大なテレビ……大型ビジョンから広告が流れてくる。
見ると、姿が映ってないものの、栞菜さんのゲームプレイ映像が見えてくる。
そこには、ゲーム実況者兼プロゲーマーのKANNAという文字がデカデカと書かれていた。
「あれって……」
「あぁ、何年か前に大会に出た時のものですね。懐かしいなぁ」
「……そういえば栞菜さん、他の配信者とコラボとか大会とかに出なかったんですか?」
「あー……私、実は他人の人とコラボとかお祭り事はあまり……あの映像に映ってるのも、運営さんからどうしてもって言われて出演したものなんですよね」
あはは……と苦笑する栞菜さん。だから栞菜さんの周りには有名人とか寄ってこなかったのか。少し納得する。
「……なんだかエイジさんが来たことでほんとの意味で私の時間が動き始めた気がするんです」
ぎゅっと離さまいと俺の手ごと腕を彼女の身体に密着する。
えへへ……と嬉しそうに笑みを浮かべており、胸の感触が気になるもののそれを見て微笑ましくなる。
「エイジさん♪」
「ん?なんです……!?」
突如として引っ張られる感覚に陥り……頬に何か温かく柔らかい感触が感じた。
「……えへへ。キス、しちゃました」
栞菜さんは俺から離れ……いや、離れていない。俺の腕にぎゅっとくっつく。
よく見ると耳も赤くなっており……俺は少しだけ動揺してしまった。
「これからも、ずっと一緒にいましょうね?エイジさんがいると、毎日が楽しくて仕方ないんですから」
「……………大袈裟ですよ」
少し全身が熱くなるのを感じる……栞菜さんがくっつぎなのが影響なのかな?
冷たくなっている手を頬に当てながら、俺は栞菜さんとの街を回るのであった。
◇
空がすっかりと暗くなり、足も少し疲れを感じている。
それなのに、栞菜さんは終始ニコニコだ。
「エイジさんエイジさん。今日のご飯はなんですか?昨日はシチューでしたよね?」
「そうですね……紗耶香と凛明が何か作ってくれると思いますよ。俺も分かりません」
「そうなんですか?なんだか最近二人の女子力が上がってきてるような……私はいまだに上達できる気がしません」
「あはは……得意不得意ありますよ」
栞菜さんの家事能力は……まぁ、ある意味才能だよな。
すると、家が見えてきた。やっと休める……まだ家事だったり動画編集とかしないといけないけど……。
だが、家の前で誰かがいるのが見える。茶髪のポニーテール……なんだかそわそわしているような……。
その人がこちらを……というより栞菜さんを見るとこちらに向かってくる。
「栞菜!!」
「……え?き、恭子?どうしてここに?」
「伝えたいことがあって……!貴方の——」
「——お父さんとお母さん、見つかったって!!」
「……………えっ?」
この瞬間、俺は思い知らされることになる。
今まで霧のように隠されていた彼女の……栞菜さんの過去を。
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また、こちらの作品の方も見てくださると嬉しいです。
《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
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