第131話 バイト


「………ん。今日は待ちに待った春香のお手伝い。頑張ろうエイジ」


「それはいいんだが……なんでこんな可愛いエプロンを?」


「……ん。客映えにいいと思って私が準備した」


「俺まで着る必要あったかこれ?」


現在俺たちは、はるちゃんのお手伝いの元彼女の働いている場所にいるんだが、俺と凛明は可愛いエプロンを着ている。

凛明が春香からバイトのお手伝いをお願いされた時、いつもやる歌の練習をやめてすぐに彼女の元に向かったのだ。俺を強引に連れて。


……なんだか人使いが荒くなってないか?


「突然でごめんなさい。でもどうしても人が足りなくて、今日オーナーが休みだって……」


そんなことを考えてると、目の前にいるはるちゃんが話し出す。

一応話を聞いたところ、彼女が働いているガールズバーはそこそこ人気があるらしい。


「それはいいけど、俺たちは何をすればいいの?何も聞かされてないから分からないけど」


「裕介さんには、オーナーの代わり……つまりお客様におつまみとかを出して欲しいんです。出すものは予め私が用意してますから大丈夫です」


「えっと……確かガールズバーって基本女性しかいないんだよね?男の俺が働いても大丈夫?」


「……ん。そこは問題ない。オーナーの人も男。それに、その人から許可も貰ってる……心配ない」


「……なんで凛明が知ってるんだ?」


「……私もたまに働いてるから……お金もらってる、ブイブイ」


おいおい初耳だぞ?俺そんなこと聞いてないんだが……あぁ、だからたまに凛明の帰る時間が遅かったりしてたのか……納得。


「凛明ちゃんだけでは人が足らなくて……なので裕介さん、今日はよろしくお願いします。時間は10時までで閉店しますから」


「……分かった。今日はしっかりと頑張らせてもらうよ」


彼女も生活があるから、あまり休むわけにもいかないらしいからね。

そうして俺たちは春香ちゃんのお手伝いをするのであった。





店が開店されて客が少しずつだが、入り始めている。

やっぱり女性がメインのスタッフだからなのか、殆どが男の客だ。中には危険なおじさんみたいなのもいたような……。


そんな中でも俺ははるちゃんにサポートして貰いながらもなんとかやっていけている。

まぁ俺の可愛らしいエプロン姿を見て笑い出した輩もいたけど……ちょっと怒りが湧いたのは秘密だ。


そんな中、凛明はというと……。


「凛明ちゃん凛明ちゃ〜ん。もっとおじさんと話そうよ〜寂しくて死んじゃうよ〜」


「………ん。貴方とお話しすることなんかない。とっととお金払って店から出てって」


「くぅっ!?久しぶりなのに相変わらずの塩対応!でもそれがいい!凛明ちゃんサイコー!」


……このように、物凄い塩対応かつ冷たい態度で接客していた。

普通なら、クレームか何か来そうなのだが……彼女の容姿と相まって客からとてつもなく好評らしい。


「凄いですよね凛明ちゃん。簡単に人の心を掴むんですから。私なんてやっと楽しくお客様とお話し出来るようになったんですから」


「い、いや……あれに関しては凛明が特殊すぎる気がするんだけど」


はるちゃんの言葉に俺はお客におつまみを出しながら答える。


「あ、春香ちゃん。最近コンタクトに変えたかい?メガネ姿もいいけど、そっちもいいね〜」


「あ、蓮美さん覚えててくれたんですか?そうなんですよ。前のメガネ壊れちゃって、せっかくだからコンタクトに挑戦してみたんです!少し不安だったんですけど、蓮見さんかそう言ってくれると自信持てます」


蓮見さんという人と仲良く談話しているはるちゃんも見て、この子も大概じゃないなと思ってしまう。


「おうオーナーさん!少し写真撮らせてくれよ!その姿撮っておきてぇ!」


「えっ?いやその、勘弁してください……」


……尚、俺はこのバイトが終わるまでずっとエプロンのことをいじられていた気がしてならない。


バイトが終わった時に俺は決意した。

……今度手伝うときは無難な格好で行こうということを。そして今こちらにブイブイとしている凛明には絶対に任せないことを。




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