第120話 腰抜けの男


「……な、なにが起きてるんだ?」


俺は自分の足の感覚が無くなるまで走り去り、春香ちゃんのスマホに映っていたであろう目的地についたのだが……。


「オラァ!!死ねや狐組!!こちとらこの時を待ってたんだよ!!」


「不意打ちとはぁいい度胸じゃねえかあぁ?これでも喰らっとけ!!」


そこはまさに阿鼻叫喚の嵐。廃墟の周りには多くの人たちの争いが繰り広げられていた。

また、建物にも火が回っているせいで地獄絵図と言っても過言ではなかった。


(な、なんでここにヤクザの人たちが……?いや、そんなこと考えてる暇じゃない!)


「二人とも……!」


俺は覚悟を決めてその戦場の中へと向かおうとするが……一人の男が俺の目の前に立ち塞がった。


制服……?高校生か?その子が俺の方をずっと見てきており、俺が横を通り過ぎた時。


「おい、待て」


腕を掴まれ、声をかけられた。振り解こうとすふが、力強く握りしめてきており中々離してくれない。


「この先は危険だぜおっさん。一体なにをしようとしてるんだ?」


「……きみこそ、一体こんな時間に何をしてるのかな?」


「俺は少し野暮用なんでな。偶然ここに立ち寄ったんだよ。そしたらこんな有様だ。もう無茶苦茶だ」


「……そっか。じゃあ俺は急いでるから」


再び振り解こうとする。しかし、先ほどよりも強い力で思わず顔を顰めてしまう。まだ話があるのか?


「だから待てって。なにしようとしてるのか教えてくれてもいいだろ?」


「……あの建物の中に二人の女の子がいるんだ。その子たちを助けないと」


「警察に任せねぇのか?たかがおっさん一人が行ったって変わらねぇよ。抗争に巻き込まれて死ぬぞ?」


………確かにこの子の言ってる事はご尤もだ。栞菜さんに警察は呼ばせてあるが……普通なら俺が出しゃばるなんてしない方がいいのは確かだ。でも……。


「それでも行かなきゃいけないんだ。お願いだ、この先に行かせてくれ」


「……あんた、自分の命捨てる覚悟があるのか?」


すると、顔つきが変わり鋭い目つきが俺に襲いかかる。正直本物のヤクザみたいで凄く怖いが……そんなものに臆する余裕なんてなかった。


「捨てる覚悟なんてあるわけないよ」


「……腰抜けだな」


「そうだよ。だって、絶対に生きて帰るんだから」


凛明にはたくさんご飯食べさせなきゃいけないし、春香ちゃんとは、一度話したいことがあるからね。


「……は、そうかよ」


すると、金髪の高校生の手が俺の手が離れていく。


「その廃墟の横に倉庫みたいなものあんだろ?凛明はそっちにいるから行ってこい」


「ッ!凛明のこと知ってるのか!?」


「……まぁ、少しな。ほら、さっさと行け」


彼のことが気になったが、俺は彼の言葉に甘えてできるだけ抗争に巻き込まれないようにその子が示してくれた倉庫らしき場所へと向かっていった。


(二人とも、待っててくれよ!)





「……あいつ、俺のこと腰抜けとか言いやがったが」


……ご尤もだ。さっきの男と比べたら俺は腰抜け以下だな。


「坊ちゃん。敵から援軍が来ました。おそらく例の女のせいかと」


「そうか……チッ、めんどくせぇ女だこと」


この機会に不意打ちにあのパリピ女を潰そうと考えていたが……どうやらそうはいかないらしいな。


あの女に弱みを握られ、散々奴の命令をこなしていったが……あいつの言葉で少しだけ目が覚めた。


『………最後まで人の言いなりの貴方に心配されるほど、私はやわじゃない………』


「……は、上等じゃねぇか凛明。だったら証明してやるよ」


制服のボタンを外し、その中に着ていた極道と書かれたシャツと首に刻まれた刺青が見えるようにする。


「俺が、言いなりだけじゃねぇ男だってことよ」


因縁のある狐組とあのパリピ女を潰すために、俺はその戦場へと足を運んだ。





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