第119話 絶望の中に芽生える希望


「春香……!」


凛明は声を上げる。普通ならば助けてくれた友達に対する歓喜なものであったが、彼女の声は悲壮感に溢れていた。


「いや、ほんとに凄いね。友達のためなら自分のことなんて顧みないその姿勢。見習いたいわ。ま、そんなの無理なんだろうけど」


「……パリピさん。凛明ちゃんを……解放してください。その代わり……私が凛明ちゃんの代わりになりますから」


「ッ!だめ春香!今すぐにここから逃げて!……お願いパリピ!春香には何もしないで!悪いのは全部私だから!」


凛明はパリピに向かって声を荒げる。自分はどうなってもいい、でも春香だけは……と。その反応を見たパリピは……嘲笑うような表情で凛明を見下していた。


「あっはは!そうよその反応!私はそれを見たかったの!!今までずっと気に食わなかったわ、私のこと見向きもしないあんたのその性格……ほんっっとにうざったらしかった。でも、これを見れただねでもいい収穫だわ。ざまぁないね!キャハッ♪」


まるで自分が仕返しされた分を倍返しに返すように凛明を見下して醜い笑い声を上げるパリピ。


「……はぁ、笑い疲れた。まぁいいわ。見逃してあげる」


「ッ!ほんと……?」


「えぇ、ほんとよ。ただし……」


パリピは春香に近づき……渾身の腹パンを彼女にお見舞いした。


「うっ……!?」


「私が満足したらね」


「春香!!」


春香は苦しそうにパリピに殴られた腹部を抑え咳を上げている。

そんな春香をパリピはメガネを吹き飛ばしてから乱れた髪を強引に掴んだ。


「とりあえずあんた殴ってストレス発散するわ。あんたもムカついたのよね、私に反抗するような真似するからね」


「はぁ……はぁ………りあ、ちゃん」


「ッ!!やめてパリピ!……お願い……やめて、ください………春香を……傷つけないで……ください」


「……じゃあさ、友達思いの凛明ちゃんに質問でーす。凛明ちゃんは〜……友達と家族、どっちが大事でしょうか?」


「……な、なに言って」


「いやね、さっき言ったでしょ?私裏の人と繋がってるんだよね〜その中に……身体を売ることに専門の人とも繋がってるんだよねぇ」


「……やめて」


「どうする?確か凛明ちゃんの保護者?って二人とも女性でしょ?一人は高校2年生でもう一人は立派な大人の女性……その二人を引き換えにこのメガネを助けてあげてもいいよ?」


……選べるはずがなかった。

栞菜と紗耶香を売る……きっと凛明と春香を助けるためなら承諾してくれるだろう。


でも、そんな裏切るようなこと……なにより二人が一生消えない傷を背負って生きていくことに我慢ならなかった。


「……わ、私は……大丈夫、だよ」


「ッ!?は、はるか……?」


「こ、こんな暴力に……私、負けないから……だから、少しだけ待っててね?凛明ちゃんは……私が、助け出す……から」


「はぁ……あんたは黙ってなさい……よ!」


「うっ……あがっ……ごほっごぼっ……!」


「………も、もういい……やめて……やめて……!」


何度も殴られ、蹴られていく春香の事を見て凛明の視界が歪んでいく。


どうすることもできなかった。

唯一の友達と家族のように育ってきた二人を売るような真似……凛明にはできなかった。


(……私が……私が犠牲になれば)


思考は、それしかなかった。

自分が犠牲になれば3人は助かる。そうすれば……だが、無意識に考えてしまった。


(……だれか……だれか助けて……)


「………エイジ」


瞬間、建物が揺れるような感覚に陥った。

いきなりの出来事にパリピも含めて、3人はわけが分からない状況に陥った。


「な、なに!?」


パリピは状況を確かめるべく、急いでその倉庫から出ていった。


「な、なにが……?」


「り、りあ、ちゃん……」


「ッ!?春香!!!」


……いや、今はそんなことはどうでもいい。

このチャンスを逃せば……。


「……助けに、きたよ?」


「……ばか」


凛明と春香は行動に移した。

そのボロボロな身体で、事前に用意していた金属切断工具を手錠のチェーン部分に当てる。


「じかん、かかるけど……なんとかするから……まってて……!」


「………うん」


でも一体なにが起きた……?

凛明はそんな事を思いながら、扉の方に視線を向けるのであった。





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