第111話 私は貴方を見捨てない


その言葉に明らかに身体をビクリと動かせ、動揺を見せる春香。


「……最近、春香に避けられてる気がする。私、そういうことに疎いから分からない……何か嫌なことがあれば謝る。ごめん」


「そ、そうじゃないよ凛明ちゃん!!凛明ちゃんは別に悪いことなんか……!」


「……じゃあ、なんで最近私のこと避けてるの?」


「そ、それは……」


凛明がそう聞くと、春香は理由が言えないのか、口を閉ざして黙秘を貫く。

そんな彼女の様子を観察しつつも、凛明は自分の思いを口にする。


「……私は、知りたい。春香のことについて……でも、人には言えないことがあるから、強要はしない」


「……」


「……でも。もし少しでも言ってもいいって気持ちがあるなら……私に話して欲しい。協力できるかもしれないし」


「……ごめんね凛明ちゃん……これは、私が抱える問題なの……それに、言ったとしても…………」


春香は何かに怯える様に凛明に伝える。それを見て察したのだろう、凛明は彼女の腕をそっと離す。


「………そう。分かった……これ以上は何も聞かない」


「あっ……」


「……余計なことをした……ごめん。時間を無駄にして」


最後に、凛明は滅多に見ない悲しそうな表情を浮かべてから教室から後を去ろうとドアの方に向かう。


その時、春香の脳裏には凛明との思い出の数々が浮かび上がった。


自分のお弁当を美味しそうに食べている姿に、勉強を教えてくれる姿……そして、自分のことを友達だと言ってくれた彼女の姿を。


「……ま、待って!」


春香の声が教室中に響き渡る。

吹奏楽部の楽器による演奏が響く中でも、凛明は彼女の声しか聞こえなかったのか、後ろを振り返った。


「……ねぇ、凛明ちゃん……誰にも言えない秘密があったら……どうすればいいと思う?」


その言葉からは彼女の心の底からの叫びが聞こえた気がした。

凛明は彼女の方に振り返ってから、自身の考えを伝える。


「……信頼している人に伝えればいいと思う」


「で、でも……それでもしキモがられたら?その人に嫌われたりとかしたら?……凛明ちゃんはそう考えたりしないの?」


今にも泣きそうな春香。きっとそれは今の彼女の本当の気持ちでもあるのだろう。

嫌われたくない、一人になりたくないと言う……そんな、当たり前の気持ちが。


「……これは持論だけど………もしお互いを本当に信頼しているなら、どんなことを言っても受け入れてくれると思う」


「そ、そんなの……!嘘だよ……」


「……じゃあ、春香に私の秘密を教える」


「えっ?」


突如として凛明がそう発言をし、春香は呆気に取られる。


「……私はある人のことが好き。その人は、私に毎日美味しいお弁当を作ってくれる。一緒に私のモーニングルーティンに付き合ってくれる……私の歌を、綺麗だって言ってくれる」


「……え、えぇ!?そ、その人ってまさか……!」


「……ん。エイジ。どれくらい好きかって言うと、犯したいほど……でも、それやるとエイジに怒られる…‥がっくし」


「え、えぇ……」


突然の想い人の発言に、それもまさかのエイジ本人という事実に春香は戸惑いを覚えていた。


「……春香。さっきの聞いて、どう思った?」


「え?……す、凄い驚いたよ……びっくりした」


「……きもいとか、私のこと嫌とかならない?」


「そ、そんなこと思うわけないよ!!……あ」


「……ん。それと同じ」


そう言って凛明は彼女の手を包む様にしっかりと握った。


「……春香。私は、春香にどんな秘密があろうと、嫌ったりしない。見捨てない……絶対に」


「り、凛明ちゃん……」


「……だから、もしよかったら……春香の事情を知りたい……我が儘かもだけど」


……あぁ、敵わないなぁ……。

春香はそんな凛明の言葉に涙が零れ落ちそうであった。

数十日前まで他人だったのに……そんな自分のためにここまでしてくれる彼女の優しさに……何かが崩壊しそうになったのだ。


「……り、凛明ちゃん……私は……」


春香が何かを呟こうとした時、教室のドアが突然開かれる。


「……あ?なんでここに無口がいるのよ?」


「……うわ、金髪パリピ女子」


そこには、凛明が最も嫌う中の一人、パリピが目の前にいた。




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