第108話 勉強会


2階から自身の仕事道具及びパソコンを片手で持ち、リビングの扉を開ける。


(……やってるね)


見ると、机に座ってそれぞれ勉強道具を用意して集中して勉強をしている姿が映った。


凛明も俺が用意したお菓子を食べながらも可愛らしいシャーペンを持って問題と向き合っている。


「あ、凛明ちゃん。ここなんだけど……」


「……これは、この公式を使って……」


それに彼女が春香ちゃんに勉強を教えてる姿も見えた。

中々に新鮮な姿を見ながらも、俺も自身のやることをするべくダイニングテーブルにある椅子に座ってパソコンを開く。


(やっぱり、あの5人……新世代ルーキーの伸び率が凄いな)


今まで編集してきた動画を一通り見ていると、vチューバーの切り取りの再生数が圧倒的に多かった。


その中には紗耶香こと天晴あおいの姿もあり、最近の配信だと何故かリゲルさんと筋トレという中々に面白そうなことをしている。


表情は……アバター越しだから分からないけど、凄い苦しそうにしてる紗耶香が想像できた。


それに苦笑しつつも、今日送られてきた配信の切り取りをするべく、俺もカチャカチャとキーボードを打っていくのだった。





「えっと……ここは……」


「……エイジ……エイジ」


「……ん?」


しばらく編集作業をしていると凛明の声が聞こえてきた。

時計を見ると……もうこんな時間か。


凛明たちが大体15時くらいに来て2時間、針は17時を示していた。


「……春香、洗い物してくれてる」


「えっ、うそ」


見るとまだ洗いきれてなかった食器を洗ってくれてる春香ちゃんの姿があった。

流石に焦りを覚えて俺は机に立ち上がり、台所に向かう。


「ごめんね春香ちゃん!あとは俺がやるよ」


「……いえ、もうすぐで終わるのでこのままやっちゃいますよ」


「え、うそ……」


よく見るともう洗い物の食器が無くなりそうになっていた。


あれ?少し早くない??

そんなことに驚いてると、春香ちゃんが最後の一枚を拭いて、そこにはとても綺麗な食器の数々が並んでいた。


「はい、終わりました。では私は時間が遅いのでそろそろ帰らせていただきますね」


「あ、うん。なんだかごめんね。ありがとう春香ちゃん」


俺が彼女にお礼を言うと、カバンを持ち始めて帰ろうとする彼女の歩みが止まる。


なんだ?何かあったか?


そんなことを思っていると、彼女は眼鏡を外してこちらを振り返って俺の方を向いてくる。


「………覚えて、いませんか?」


「えっ?」


急にそんな言葉が吐かれる。

思ってもなかった言葉に頭の中で混乱していると、春香ちゃんは再び眼鏡をつける。


「……いえ、なんでもありません。では失礼します」


「あ、うん……またね」


「はい。凛明ちゃん!また明日ね!」


「……ん」


それぞれ俺たちに挨拶をしてから、春香ちゃんはリビングから出ていき、玄関のドアが開く音がした。


「……エイジ……何かあったの?……エイジ?」


「………」


さっきは困惑して気づかなかったけど……俺は、その顔に見覚えがあった。


でもどこで会ったのかが思い出せない……なんだ?なんでこんな頭の中がしっくりしない?


「……エイジ……………前見て」


「えっ?………あ」


「………え、エイジさぁん……か、書き終わりました……こ、これでどうかお許しを……」


そこにはぷるぷると手を震わせて50枚くらいの紙を俺に渡してくる栞菜さんの姿があった。


「ただいま〜。あれ?なんで玄関のドア空いてるの?ってあれ?栞菜さん??どうしてそんな死にそうな表情をしてるのですか?」


すると、学校帰りであろう紗耶香の声がした。


「……と、とにかく考え事してる暇ないな。それに夕飯も作らないといけないし」


一気に忙しくなったのを感じ、俺は頭の中にあった疑問を片隅に置いて、栞菜さんの反省文を受け取って確認したり、夕飯の準備をするのであった。


「あ、そういえば凛明。さっきメガネの女の子見かけたよ。もしかしてあれが春香ちゃんって子?」


「……紗耶香には黙秘する。教えない」


「えぇ。どうしてそんな冷たい態度取るんだよぉ……」


尚、またまた凛明が紗耶香にいじられそうになったのは別の話。



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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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