第105話 テスト勉強


「へぇ……そんなことがあつたんだ」


「……ん。とてつもない修羅場……大変だった」


学校の昼休み。休みが明け、祐介の親が訪問した時のことについて凛明は春香に話していた。


「……真中って人がいるけど、その人、エイジに問い詰めていた。兄の宗治と一緒にそれを止めてて……とにかく凄かった」


曖昧な表現だが、それでも凛明の顔が珍しく顰めているのを見て、規模の大きさを感じて苦笑してしまう春香。


祐介の親が帰った後、事情を聞いた真中は彼に問い詰めていた。

その形相には思わず、兄である宗治も冷や汗をかいてしまうほどで、栞菜や凛明も少し怯えていた。


なんとか宥め、落ち着かせた時には「私が裕介を匿うわよ!!」と言ったことで、今度は栞菜がそれに過剰に反応。

さらに現場が修羅場となり……全員が落ち着くのに数時間はかかった。


「……とにかく、色々と大変だった……お昼ご飯、食べ損ねた……」


「そ、そうなんだ……なんか、色々とあったんだね」


「………ん。悲しかった」


その様子を見た春香はなんとか思い出させるのはやめようと、話題を変える。


「あ、そうそう!もうすぐ期末テストだけど、凛明ちゃん勉強とかしてる?」


「……期末……あぁ、そういえば」


確かにそんなことが書いてあったようななかったような……凛明の頭の中に薄らと思います。


「……勉強は、まだしてない。いつ?」


「確か2週間後とかそこら辺じゃないかな?」


「……まだ余裕はある……でもそろそろやった方がいいのも確か」


思い出したかのように憂鬱な気持ちでため息を吐く凛明。

誰にとってもやりたくはないものであるが、彼女には配信というものがあり、その時間が削がれることに対してストレスを感じていたのだ。


「ねぇ凛明ちゃん。もしよかっなら一緒にお勉強しない?」


「……勉強?」


「うん。私、そこまで頭良くないから。出来れば凛明ちゃんにお勉強教えてくれたら嬉しいんだけど……だめ、かな?」


「……ちょっと待ってて」


凛明は考える。考えて考えて考えまくる。そもそも彼女には友達というものがいない。

だからこういう時の対応には困っていた。


でも、そこには不愉快などのようやマイナスな気持ちは一切なかった。

なら、答えは決まっている。


不安そうにこちらを見ている春香の方を向いて、凛明は頷きながら答える。


「……ん。いいよ……勉強、教える」


「ほんとっ!?ありがとう凛明ちゃん!!」


春香は嬉しそうに凛明の手を取ってぶんぶんと勢いよく上下に動かしている。


「は、春香……抑えて…‥は、激しい……」


凛明は困った様に春香に言うが、どうやら今の彼女には声が届かないようだ。止まる気配がない。


それには凛明も困惑していたが……彼女もまた、無意識に嬉しそうに口元を緩めていた。





「……ご、ごめんね凛明ちゃん。私嬉しくて……聞こえてなかった」


「……ん、大丈夫。特に問題ない」



照れくさそうに謝罪する春香に対して、特に気にしてない様に言う凛明。

どうやらあまり気にしてはいないようだ。


「……でも、場所はどこでやる?学校は……あいつらに邪魔されそうだし」


脳裏にパリピという女の姿が浮かび上がる。

彼女たちの対応には流石にうんざりしているのか、少しだけ眉間にしわを寄せていた。



「……そのことなんだけどね凛明ちゃん、お願いがあるの」


「?お願い??」


表情が真剣なものに変わり、それを見た凛明も緊張感が増してくる。

そんな空気の中、彼女は言い放つ。


「あのね……凛明ちゃんの家で勉強できないかな?」


「………私の家?」


「うん。ここって近くに図書館みたいなお勉強できる場所はないし、私の家は……少し事情があって使えないし……もしよかったらだけど凛明ちゃんの部屋でお勉強出来ないかな〜って」


「……うぅん」


少し迷っていた。多分、部屋には栞菜がいる。そんなところを鉢合わせでもすれば……紗耶香にもバレてめんどくさいことに……。


でも他にいい場所もない……少しだけ顔を顰めてるのを感じながらも、凛明は答える。


「……い、いいよ」


「……ほんとに?なんだか顔が険しそうだけど……」


「……仕方ないこと……仕方ないこと……」


「そ、そうなんだ……なんか、ありがとうね?」


「………ん」


そのためにはエイジこと祐介にこのことを報告しなければ。

そう考えながら、凛明は今日も残りの手作り弁当を春香と食べるのであった。




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