第104話 嵐のように去っていく親


「いや〜それにしてもあの子たち、中々芯があったわね〜。お母さん気に入っちゃったわ、ねぇお父さん?」


「……そうだな」


あの後、なんとか二人を説得して俺は実家に、連れ戻されずには済んだ。

それで何故か朝食を食べ終えて帰ると言い出してしまったので、今は見送るために二人と駅へ向かっているところだ。


「それにしてもいいのか?折角駅でここまで来たのに」


「えぇ。ここに来たのも、貴方の生活状況を知るためだもの。少しだけ周ってもいいけど、お母さんたちも暇じゃないから」


「……そう」


もう少しだけ残っていけばいいのに……相変わらず、破天荒な人だ。


「あら、もしかして少し寂しいって思っちゃった?ならお母さんだけ残ろうかしらねぇ」


「……それなら俺も残る」


「二人ともさっさと帰ってくれ」


ったく、俺をなんだと思ってるんだこの人たち、もう立派な大人だぞこちとら。

少しだけ羞恥心に似た感情を感じつつも、それを出さないようにする。


ここで変に勘付かれたら余計に揶揄われてしまうだろうし。


「というより、あの黒髪の美人さんとっても綺麗だったわねぇ。確かKANNAだったかしら?」


「あ、そうそう凄いゲームが上手いんだよあの人。もう引いちゃうくらい……ん?」


「……スカーレットも良かったぞ。歌も聞いてみたかった」


「ん?ん??」


あれ、おかしいな。なんで二人とも知ってるような反応をしているんだ……?


「それにしても祐介。貴方、栞菜さんの動画に出てるけど迷惑になってないわよね?私いやだわ。実の息子が大物の配信者さんのご迷惑になってるって」


「ちょ、ちょっとまって……え?なんでふたりとも知ってて」


「あら、実の親に隠し事なんてできるとは思わないことね。ねぇお父さん?」


「……そうだな」


「え、えぇ……」


じゃあはじめから全部知っていたのか?にしてもほんとになんで??


「おかしいと思ったのよね〜最近祐介から連絡は来ないし、急に真中ちゃん達んの家にお暇してるって言ってるしねぇ……まさかあの大物の配信者さまのお家に滞在してるとは思わなかったけど」


「………全部知っててあんなことを言ったのか?」


突如疑問が出てきた。それを知ってても尚、二人があそこまで俺を帰らせようとした理由を。


「まぁなにかあるかわからないじゃない?もしかしたら騙されてるかもしれないし、生活だって不安定かもしれないじゃないの?それを確かめたかったの……でも」


後ろを振り返り、帰り道を眺めながら穏やかに答える。


「あの様子なら、大丈夫ね。みんな貴方のことを大切にしようとしてるのが伝わったわ」


「……そうだな」


「……」


二人がそこまでの思いを抱いて言ってるとは思えず、俺は呆気にとられてしまった。

それを理解した瞬間、何故か二人の背中が大きく見え……改めて、親の偉大さが分かった気がした。


「……ま、親の性ってやつよ。や〜ね〜そんな顔しないでよね。息子のことを心配するなんて当然じゃないのよ〜」


あっはっは!と女々しく笑う母さんといつも通り無愛想な態度を取る親父の姿を見てあぁ、ほんとにこの人たちには敵わないんだなと分からせてしまう。


「……ありがとう」

無意識にそんな言葉が出た。でも二人はそれに対して理由が分からなそうに首を傾げる。

……なんだか無駄に羞恥心が湧いてしまい、顔が熱くなるのを感じていしまった。


「……ここで大丈夫よ」


そうしている間にもう駅前まで着いたらしい。愛くるしいマスコットキャラのペンギンちゃんの姿があった。


「もういいのか?もう少し送ってくぞ?」


「いいわよ、遠慮しておくわ。別れを惜しむのもなんだか嫌だしね」


おちゃらけた様子の母の姿が印象すぎてあまり惜しむようには見えないけど……。


「ほら、お父さん。最後くらいしっかり挨拶していきなさい。もうしばらく会えないんだから」


「……そうだな……祐介」


「……なに?」


「……元気でな」


「……親父のほうこそ」


こんなときにも親父はただ一言それだけだ。

でも不思議と……なにか込み上げてくるものが感じたのはきっと気のせいではないのだろう。


「それじゃあね祐介……あぁ、それとね」


「ん?」


母さんが思い出したかのように言い出してくる。


「確かもここに住んでいるんでしょ?会えたらよろしくって伝えといてね」


「あの子?あの子って誰だよ母さん?」


「覚えてないの?よく遊んでたじゃない。ほら可愛らしい女の子――」


母さんが最後まで言い終える前に、アナウンスが聞こえてくる。どうやらもう電車が着いたらしい。


「あらやだ、もうこんな時間。ほらお父さん早く行きましょ。遅れたりしたら嫌だわ」


「……そうだな」


「あ、ちょっと!」


……行っちまった。なんか、嵐のような人達だったな。いきなりこっちに来たり、去ってったり……勝手なことばっか言ったり……でも、会ってきてよかったかもな。


「……今度は一言くらい連絡でもするか」


そう思うとスマホを取り出して……ホーム画面を見て顔を顰めてしまった。

そこには栞菜さんたちの家に同居してることへの説明が書かれてるものであった。


「……さてはあの人たち、勝手に宗治と真中に言いやがったな……」


……前言撤回だ。やっぱり連絡はしなくていいや。

その後の事に少し憂鬱だと思いながら、俺は彼女達の家に向かっていくのであった。




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