第103話 配信者と親


「ん〜!やっぱり朝のサバ料理は美味しいわね〜。これじゃないと」


「……少し腕を上げたか……祐介?」


「二人に手伝ってもらっただけだよ。でもまぁ、ご飯を作る機会は多くなったかもな」


今俺達は、ご飯を作り終えて今日の朝食を食べている所だ。

にしても美味いな今日のご飯……二人とも、昔よりも料理の腕が上がってないか?


「当たり前よ。こちとらご飯を作る配信もやってんのよ。いやでも技術が上がるわよ」


「まぁ真中の場合は料理は料理でも、花嫁修行の一環」

「宗治兄ぃ?」

「……あ、あはは」


真中のとてつもない威圧が宗治に襲いかかるが……お前、そんなんだから真中にバカ兄貴とか言われるんじゃないか?


「……ん。いつもと違うけどこれはこれで美味しい……祐介、おかわり」


「そうですね。なんだか新鮮な気分です。あ、祐介さん。私もいいですか?」


「……二人とも、遠慮というものがないんですね」


相変わらずの逞しい胃袋をしていらっしゃる模様でなによりだよ。


「まぁいいじゃない。私、ご飯をたくさん食べてる子って好きよ。可愛いもの」


「………ゆ、祐介……私も食べる……」


「いや真中。そんな無理をしなくても……」


「じゃあ僕もおかわりを頼もうかな祐介」


「お前はのそれはもう遊んでるだけだろ宗治。はぁ……ちょっと待ってろ」


とりあえず四人の茶碗をお盆に乗せてから、キッチンに向かってご飯を入れていく。

その間も、みんなの会話が聞こえてくる。


「そういえば真中ちゃんと宗治ちゃんは今も配信者を生業にしてるのね」


「はい。今は少し会社を運営して中々余裕はありませんが、とても充実した生活を送っています」


「そうなの……なんだか凄いわね。会社を運営するなんて……でも」


手を頬に置いて少し不安そうにして呟く。


「大丈夫?配信者なんて。あまり生活が安定しないんじゃないの?」


その言葉に、俺を含むみんなの動きが止まった。それでも母は話し続ける。


「確かに、それで大物になった人だっているわよ?でもネットで炎上したり、住所が特定されそうになったり、中々自由に過ごせないんじゃないの?」


「……確かにそうですが、それでも僕達は配信をすることを楽しんでいます。ですのであまりご心配なさらず」


いつも通り爽やかに、しかし確かな意思が籠もった宗治の言葉が部屋に響き渡る。


「僕達……ということは、そこにいるお二人も?」


「はい。私はゲーム配信を。隣りにいる凛明は歌を配信しております」


「まぁ!それはそれは立派ねぇ。なんだかかっこいいわ」


本当に本心から言ってるのか、母さんの表情は妙に明るい気がする。

俺はその間、ご飯を茶碗にのせ、みんなのテーブルに乗せていく。


「………祐介」


すると、今まで無言だった親父の声が俺の耳に響いてきた。

そちらに視線を向けると、親父は無表情のまま言い放つ。


「……うちに戻ってこい」


「………は?」


その言葉に、俺は理解が追いつかずそのまま身体が硬直してしまう。

隣にいた栞菜さんと凛明もそれは同様であった。


「な、なんでそんな急に」


「……生活が安定しないのだろう?なら安定するまでうちで生活していけ」


「いや、いやいや……急にそんなこと言われても困るんだけど」


「でも、貴方仕事はあるの?それに真中ちゃん達にお世話になるのも悪いからねぇ……」


「わ、私たちは別に負担では……」


「でも言ってたじゃない。生活に余裕がないって。そこに祐介のお世話も必要でしょ?そのうち身体を壊しちゃうわよ?」


「そ、それは……」


その言葉に真中の言葉が詰まってしまう。そのまま母さんの視線が俺に向けられる。


「私達は別に、配信者をしていることを否定するつもりはないわよ。でもそれを生業にしている人に実の息子を任せられるかって言ったら……少し話が変わってくるわ」


「………詳しくは分からんが、配信者は収益が安定しないとは聞いている。そこに祐介の世話……生活は苦しいだろう」


「そうね。だから祐介。わたしたちも元に――」


「――だめ」


ぎゅっと凛明の身体が俺の腕に伝わってくるのが感じた。見ると、凛明が俺の腕に抱きしめていた。


「……お願い……エイジを取らないで……私たち、頑張るから……だから」


彼女は……震えていた。目もいつも以上に悲壮感に満ちていたのが目に見えて分かった。


「でもね凛明ちゃん。私たちも祐介の意思を尊重してあげたいつもりよ。でも他人に迷惑を掛けるのはだめじゃない。栞菜さんもそう思うわよね?」


「……確かに、お母様の言っていることは事実です……でも」


栞菜さんの表情はいつもどおりであった。しかし、それは確かな強さが示されており……それがとても逞しくも見えた。


「祐介さんは……エイジさんは、私達にとってもう切っても切り離せない存在です。彼がいるから、私達は楽しく配信を……こうして、今の生活を送れるのです」


「……一つよろしいですか?」


すると、宗治が手を上げて声を発してきた。


「ここは一つ、祐介に聞いてみるのが一番いいのではないですか?」


「……それでは貴方がたの負担に」


その父の言葉を遮るように宗治は首を横に振る。


「僕は……彼がいたからこそ、今こうして暮らしていけるのです。だから彼がいて生活が厳しくなったと思ったことはありません。それに、まだ本人の意見を聞いておりません。本当に息子さんのことが大事なら、彼の意見を尊重することだと思いますが」


「……それもそうね……祐介、貴方はどうしたいの?」


その言葉に対して、俺はしばらく間を開いてから、口を動かした。


「俺は――」





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