第100話 来訪
翌日、俺は朝早くに起きて事前に家事や動画編集などをしてから、芦田兄妹が住んでいるマンションへと赴いていた。
「悪い色々と。少し面倒なことになってな」
「……なんで私たちの部屋に居候しているかは敢えて聞かないでおくわ」
「どうやら祐介は色々と大変な生活を送っているようだね」
ジト目で睨め付けている真中と少し苦笑気味にこちらを見ている宗治の姿が映る。
いやほんとに事情が事情だから……言い訳にすぎないか?
「……ほんとにすまん。迷惑をかけるつもりはなかったんだ」
「分かってるわよ。貴方にも事情があるってことぐらい。でもそのうち話しなさいよ?」
「……あぁ」
……うちの友達ができたやつで助かった。もうこの機会に真中と宗治には話しておくべきなのか?
「とりあえず一つだけ余った部屋があるからそこに祐介の荷物とか置いといたよ」
「了解。なら俺はうちの両親に連絡……」
……もう来ているみたいですね。スマホのホーム画面に「待ってるわね〜♪」というとてもおばさんが使うような文書じゃ……んんっ、これ以上はよそう。
「じゃあ二人とも、今日はほんとにお願いします」
「何度言わなくたっていいわよ。安心しなさい、ちゃんと合わせてあげるから」
「そんな心配しなくてもいいさ、他の誰でもない友のためだからね」
「……ありがとう」
二人の優しさを噛み締めつつ、俺は自分の両親を迎えるために、部屋から出ていくのであった。
「……?栞菜さん??」
一瞬、真中の口から彼女の名前が聞こえたような気がするが、その時の俺は親を迎えていくことしか考えておらず、それに耳を傾ける余裕などなかった。
◇
「……なんでいないんだ?」
電車で来たとか言ってたけど、一体どこにいるんだ?
とりあえず俺はマンションから出て近くにある駅に着いたんだが……それらしい姿がなくて非常に困惑している状況だ。
もしかして駅を間違えた?……いや、この駅で待ってるって母さんのメールに書かれてあったから間違いはないはずなんだけど……。
「……とりあえず近くの自動販売機でなにか買うか」
外で待つのも寒いしな。そう思い、俺は駅の中にある自動販売機の所に移動してなにかを買おうと思ったんだが……そこで見たくもない光景を見てしまう。
「あら見てみなさいよお父さん。ここのマスコットなのかしら?とっても可愛らしいわね」
「……そうだな」
「まだ祐介が来ないんだから、その間にここに来た記念として写真でも撮らない?」
「……そうだな」
「そうと決まれば早速撮りましょ。ほら、早く並んで並んで。撮るわよ、はい、チーズ」パシャ
そこには可愛らしいペンギンのマスコットと一緒に写真を撮ろうとしている親の姿が……何故か自撮りだし。
「……」
それを見た俺は……その場で回れ右をして真中たちのマンションに帰ろうとした。
いや仕方ないと思う。あんな気まずい所に俺が行けるわけがない。
心の中で自分に言い訳してから帰ろうとして……なぜかとてつもない力で誰かが掴んでくるような感覚に陥る。
「あらぁ祐介。こんなところで会うなんて奇遇ね。お母さん、貴方に会えて嬉しいわぁ」
「……ドウモ。ソレジャアオレハココデ」
「待ちなさいよ、再会の記念として一緒に写真でも撮らない?」
「……それをお断りすることってできますか?」
「う〜ん……無理ね♪」
……どうやらそれは不可能みたいです。
奥を見るとチラチラとこちらの光景を見ている親父の姿も映っていく。しかもなんだか凄く嬉しそうにしてるような……。
「折角の機会だもの。もちろん、付き合ってくれるわようね。祐介?」
「…………よろこんでお付き合いさせてもらいます」
そうして、親との感動の再会を果たした……わけでもなく、母さんからとてつもない圧を肌に感じながら、俺は二人とマスコットとのツーショットを撮られる羽目になるのであった。
……そのせいで二時間遅れることになったのは秘密だ。
【もし面白いと感じたらフォローや⭐️、❤️をお願いします!!!】
また、こちらの作品の方も見てくださると嬉しいです。
《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
https://kakuyomu.jp/works/16818093076995994125
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます