第100話 来訪


翌日、俺は朝早くに起きて事前に家事や動画編集などをしてから、芦田兄妹が住んでいるマンションへと赴いていた。


「悪い色々と。少し面倒なことになってな」


「……なんで私たちの部屋に居候しているかは敢えて聞かないでおくわ」


「どうやら祐介は色々と大変な生活を送っているようだね」


ジト目で睨め付けている真中と少し苦笑気味にこちらを見ている宗治の姿が映る。

いやほんとに事情が事情だから……言い訳にすぎないか?


「……ほんとにすまん。迷惑をかけるつもりはなかったんだ」


「分かってるわよ。貴方にも事情があるってことぐらい。でもそのうち話しなさいよ?」


「……あぁ」


……うちの友達ができたやつで助かった。もうこの機会に真中と宗治には話しておくべきなのか?


「とりあえず一つだけ余った部屋があるからそこに祐介の荷物とか置いといたよ」


「了解。なら俺はうちの両親に連絡……」


……もう来ているみたいですね。スマホのホーム画面に「待ってるわね〜♪」というとてもおばさんが使うような文書じゃ……んんっ、これ以上はよそう。


「じゃあ二人とも、今日はほんとにお願いします」


「何度言わなくたっていいわよ。安心しなさい、ちゃんと合わせてあげるから」


「そんな心配しなくてもいいさ、他の誰でもない友のためだからね」


「……ありがとう」


二人の優しさを噛み締めつつ、俺は自分の両親を迎えるために、部屋から出ていくのであった。


「……?栞菜さん??」


一瞬、真中の口から彼女の名前が聞こえたような気がするが、その時の俺は親を迎えていくことしか考えておらず、それに耳を傾ける余裕などなかった。





「……なんでいないんだ?」


電車で来たとか言ってたけど、一体どこにいるんだ?

とりあえず俺はマンションから出て近くにある駅に着いたんだが……それらしい姿がなくて非常に困惑している状況だ。


もしかして駅を間違えた?……いや、この駅で待ってるって母さんのメールに書かれてあったから間違いはないはずなんだけど……。


「……とりあえず近くの自動販売機でなにか買うか」


外で待つのも寒いしな。そう思い、俺は駅の中にある自動販売機の所に移動してなにかを買おうと思ったんだが……そこで見たくもない光景を見てしまう。


「あら見てみなさいよお父さん。ここのマスコットなのかしら?とっても可愛らしいわね」


「……そうだな」


「まだ祐介が来ないんだから、その間にここに来た記念として写真でも撮らない?」


「……そうだな」


「そうと決まれば早速撮りましょ。ほら、早く並んで並んで。撮るわよ、はい、チーズ」パシャ


そこには可愛らしいペンギンのマスコットと一緒に写真を撮ろうとしている親の姿が……何故か自撮りだし。


「……」


それを見た俺は……その場で回れ右をして真中たちのマンションに帰ろうとした。

いや仕方ないと思う。あんな気まずい所に俺が行けるわけがない。


心の中で自分に言い訳してから帰ろうとして……なぜかとてつもない力で誰かが掴んでくるような感覚に陥る。


「あらぁ祐介。こんなところで会うなんて奇遇ね。お母さん、貴方に会えて嬉しいわぁ」


「……ドウモ。ソレジャアオレハココデ」


「待ちなさいよ、再会の記念として一緒に写真でも撮らない?」


「……それをお断りすることってできますか?」


「う〜ん……無理ね♪」


……どうやらそれは不可能みたいです。

奥を見るとチラチラとこちらの光景を見ている親父の姿も映っていく。しかもなんだか凄く嬉しそうにしてるような……。


「折角の機会だもの。もちろん、付き合ってくれるわようね。祐介?」


「…………よろこんでお付き合いさせてもらいます」


そうして、親との感動の再会を果たした……わけでもなく、母さんからとてつもない圧を肌に感じながら、俺は二人とマスコットとのツーショットを撮られる羽目になるのであった。


……そのせいで二時間遅れることになったのは秘密だ。



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