第97話 忠告
「……ん。やっぱり予想通り……今日の春香のお弁当は絶品……とてもよい」
「そ、それならよかったよ……」
あははと苦笑気味に春香は今日起こった出来事について思い出していた。
現在、学校の授業が一通り終わり、今は昼休みになっていたこともあり、二人はいつもの屋上でお弁当を食べていた。
春香が苦笑していたのは、散々自分たちに何かとちょっかいをかけてきたパリピについてだ。
朝の時間にて自分のことを見向きもしない凛明に対して気に食わないと感じた彼女はその後も二人に嫌がらせをしていた。
ある時は教科書やノートなどの授業に必要なものを奪ったり、こちらに向けて紙屑のようなゴミを飛ばしたり、凛明を呼び寄せては暴力も振ろうとした。
しかし、春香の教科書を一緒に使ったり、ゴミに当たらないように避けたり、さらに彼女たちを拳で分からせたりしたりなど……凛明は悉くパリピ達のいじめに対して難なく対処していた。
その有様には圭介含めてクラス全員が驚愕したのと同時にその徹底ぶりに凛明のことを引いたりもしていた。
「ね、ねぇ凛明ちゃん?ほんとに大丈夫なの?あれだけ陰湿ないじめされちゃって……」
少し不安そうに聞く春香。自分だったらあんないじめをされ続けたら精神がおかしくなると確信していた彼女は心の中で凛明のことを心配していたのだ。
しかし、春香の思いとは裏腹に凛明は特に気にした様子はなく……。
「……特に何も?」
「ほ、ほんとに……?」
「……でも、相手にするのはめんどくさい……なんとかならないかと感じることはある」
「そ、そうなんだね……」
……ほんとに気にしてない様にしている凛明を見て、春香は改めて彼女の図太さ……及び心の強さに感服する。
そんな凛明は春香のお弁当を食べ終えて、次に自分の家族である彼が作ってくれたお弁当箱を開ける。
「おぉ……!」と弁当の中身を見て今日も目を輝かせる凛明は早速と言わんばかりに、その中のおかずを一口食べた。
「………むふふ。やはりエイジのご飯は美味しい……最高」
「……エイジ」
その名前を聞き、春香の様子が変わる。凛明は食べているのに夢中なのか、その変化に気づきはしない。
「……ねぇ凛明ちゃん。そのエイジさんってもしかしてだけど、昔配信とかやってなかった?」
「………知ってるの?」
彼女の言葉を見た凛明は少し驚いていた。
まさか自分の身内以外で彼が配信をしていた事実を知っていた人物がいるとは思わなかったのだ。
「うん。私も昔、一度その人の動画を見たことあるから」
「ッ!……そうなんだ……エイジのファン?」
心の中で少し嬉しそうに聞く凛明だが、春香の表情は明るいものではなく、何故か曇っていた。
「…………どう、なんだろうね……分かんないや」
「?春香??」
どうしてそんな顔をするのだろうか?感情に疎い凛明にも伝わってくる……強い敵意のようなもの。
それについて春香に聞き出そうとすると、屋上の扉が開かれる音がした。
そっちを見ると、金髪をした男……圭介の姿が見えた。
彼も誰かがいるとは……それも凛明がいるとは思わず、気まずそうに顔を逸らす。
「………だれ?」
「っ!?て、てめぇ!人の名前もろくに覚えられないのか!?」
だが、凛明のその言葉に過剰に反応してしまう。春香もその対応には苦笑してしまい、二人を見守る。
「なんでここにいやがる?」
「………ここでお弁当を食べてた……理由なんてそれだけ」
「へっ、そうかよ」
「……貴方はなんで?」
「別になんでもいいだろ。てめぇに教える義理なんかねぇよ」
ぶっきらぼうに言い放ち、少し移動したと思ったらその場で寝転がり、目を閉じる。
春香はそれを見てここで授業をサボってるんだと察する。
しかし凛明は彼女のように察せるようなわけがなく……。
「……なんでそこで寝転がってるの?汚い身体がさらに汚れるよ?」
「……」ピキッ
「……変な人」
「……てめぇ……あとでぜってぇにぶっ飛ばす」
額に血管が浮き出て、怒りを露わにする。まさかただ寝るために横になったのに、ここまで言われるとは思わないではないか。
さらにそれが自分の一番嫌いな人物に言われるとくれば尚更怒りが湧いてくる。
その様子を察知した春香は少し慌てて凛明の腕を掴みだす。
「い、いこう凛明ちゃん!く、葛原さんの邪魔になったらいけないから!」
「……ま、待って……まだお弁当食べきれてない……!」
「………おい、皇。お前は少し待て」
だが、圭介の言葉が慌ててお弁当を食べようとしている凛明の足を止める。
「………なに?」
「少し話したいことがある。ちょうどいい機会だ」
「…………………………………えぇ……」
「て、てめぇ……!なんだその反応は!?」
あまりに嫌そうな顔をするので彼はつい起き上がり、彼女に怒鳴ってしまう。
その間、二人にさせた方がいいと感じた春香は凛明に声をかける。
「え、えっと……じゃあ私先に教室に戻っているからまた後でね」
「………私も行ったらだめ?」
「そ、それは……葛原さんが可哀想だから」
今度また美味しいもの作ってあげるからと言うと、凛明は渋々頷いた。
凛明と会話を終えて、春香は屋上から出ていった。
圭介と二人きりとなり、凛明は少しめんどくさそうに彼に話しかける。
「………それでなに?」
「一つだけ……いや二つか。忠告でもしとこうと思ってな」
「………いらない……そんなの……時間の無駄」
「あの派手なパリピとメガネ女のことだとしてもか?」
「……春香がなに?」
パッチリとした目が鋭くなり、圭介の事を睨む。だが、彼はそんなものには臆さず、そのまま語る。
「まず、あれ以上あのパリピ女を刺激するな。どうなるか分からんぞ」
「……別に、私には関係ない」
「分かってねぇな。あいつは人を陥れるためならなんだってやる。たとえば、事実のない捏造を広げたりとか、な」
「………」
「……いいか。この学校の奴らは必ず何かしら闇や秘密を抱えてる。それを握ってるのがあのパリピ女だ。そんで」
二つ目の忠告をついでのように凛明に言い放つ。
「あのメガネ女も、何かしら秘密を抱えてる。これ以上深く関わるのはやめておけ」
「…………それは、私が決めること……貴方には関係ない」
「は、そうかよ。忠告はしたからな」
「………」
そんな気まずい空間は凛明がエイジのお弁当を食べて、屋上から出ていくことで終わりを迎えたのだった。
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