第94話 ある日の朝


朝、俺はいつの通りに玄関の前まで行って凛明のことを見送ろうする。

ちなみに紗耶香は今日は急いで学校に行った。どうやら修学旅行らしく、嬉しそうにしてたと同時に悲しそうにしていたのが記憶に新しい。


「しばらくエイジさんに会えない……」とか言って落ち込んでいたが……。

結構な凹み具合だったので、電話してくれればいつでも出るよ?とか言ったら、なんとか持ち直していた。


だからしばらく紗耶香がいない生活が始まるわけだが……それを聞いた凛明は悪そうな顔をしていたのを今でも覚えている。


「この前の仕返しに部屋を荒らす」とか物騒なことを口にしていたが、いつも通りのことなのでとりあえず放っておくことにしたが……紗耶香、君は凛明に一体なにをしたんだ?相当怒ってたぞあの子。


「……エイジ?」


「っと悪い悪い。はい、お弁当な」


ふむ、考えすぎていたみたいだ。彼女に自身が作ったお弁当を渡していく。

それを受け取って凛明は何か決意を込めたような表情をして……。


「……今日こそ絶対に食べる……エイジのお弁当……」


「い、いや。気持ちは嬉しいがそこまで気を張らなくても……」


あまりの気迫に少し苦笑交じりに彼女にそう助言する。しかし、俺の言葉が頭に入っていないのか、彼女の気配は未だに変わりそうにない。


「ほら、そんな考え込んでると学校に遅れるぞ。早く行ってきなさい」


「……むぅ。それは確かにそう……エイジ、いつもの頂戴」


「はいはい」


そんな彼女と会話して、整えたであろう凛明の銀色の髪に手を乗せて、ゆっくりと動かす。

それに対して凛明は気持ちよさそうに目を閉じていた。どうやらなでなではお気に召したようだ。


「……ん。もう大丈夫。じゃあ栞菜にはよろしく伝えといて」


「あぁ。そうさせてもらうよ」


栞菜さん、昨日夕ご飯を食べた後にもう一度ゲームに没頭してしまったせいで、今日は少し体調を崩してお休みしている。

どうやら昨日のゲーム……昨日配信でやってた新作に夢中してしまったようだ。あはは……あの人も羽目を外すこともあるんだなと実感した。


「……じゃあ、行ってくる」


「いってらっしゃい。気をつけろよ」


さまになった制服姿の凛明が最後にこちらに向けて手を振って、玄関の扉をゆっくりと開けた。

すると、そこには紗耶香とは違うもう一人、メガネをした黒髪の女子高校生の姿が映っており……。


「凛明ちゃん!おはよう!」


「……春香、おはよう……来てくれたんだ」


「うん!凛明ちゃんの近くに家があったから、ここまで来ちゃった!」


「……そう。ありがとう……じゃあ行こう」


彼女達の会話がここまで鮮明に聞こえてきてる。不思議と、どちらの声色も嬉しそうなのはきっと気のせいではないのであろう。


(……あの子が凛明が言ってた春香ちゃんか?)


どこにでもいるような不思議と女の子……それが印象だったが、凛明の友達ということもあってかその子のことをじっと見てしまった。


そのせいなのだろうか、彼女もチラッとだが俺の方を見てきて……。


「……え?」


……そんな、力のない声が漏れたのが聞こえたような気がした。

彼女の目がこちらを見て離さない。驚愕という大きな感情がその目から宿っている。


「……春香?」


「ッ!ご、ごめんね凛明ちゃん。行こっか!」


だがそれも、凛明の声によりまるで何事もなかったかのような振る舞いをして、そのまま二人は学校に向かっていくべく、家からあとを去っていった。


「……なんだったんだ?」


俺はというと急にこちらをじっと見てきた彼女に変な疑問を抱いて、そのまま扉を開いたまま、首を傾げていた。

もしかして知人の子どもだったのか?いやそれにしては誰かに似てたなんて思わなかったし……。


「……考えてても仕方ないよな。ていうか早く栞菜さんのこと看病しないと」


疑問を抱きながらも、彼女の看病の方が大事だと思った俺は、そのまま玄関の扉を締めるのだった。





登校の日。私にとってはまだ学校に行ってそこまで日が経ってない朝。

そんな私にも一緒に登校してくれる友達が出来た。


前まで友達なんか出来なくていいと思ってたが……これはこれで中々にいい気分。


そう思ってたが……隣にいる春香の様子が少しおかしい気がする。


「……春香?」


「な、なに?」


「……大丈夫?少しぼーっとしてる」


「う、ううん!大丈夫!気にしないで!……いや、でもちょっと聞きたいことあるかも」


すると、ぼーっとしていた表情が急に真剣なものへと変わった。何故かとてつもない気迫を感じた私はそれに少し驚いてしまう。


「ねぇ凛明ちゃん。さっきの男の人なんだけど」


「……エイジのこと?」


「…………その人って凛明ちゃんのお父さん?」


その名前を聞いて表情が歪んだものに変わったような気がするが、一瞬で普段通りの表情……のようなものへと変わって聞いてくる。


「お父さん?……いや、エイジはそういう存在じゃない。確かに色々お世話されてるけど……数ヶ月前に来た。いまは私の家族」


「そ、そうなんだ……へぇ……ふぅん……」


「?」


少し様子の変に思いながらも、凛明は春香とともに自分達の学校に行くのであった。




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