第92話 友達


「あ、あの皇さん?そんなにがっつかなくてもまだあるから……」


現在、凛明とメガネはエイジが作ってくれた弁当の残骸を掃除した後、教室から移動して屋上でメガネのお弁当を食べている。


そして凛明はそのあまりに多いお弁当を……夢中になって食い散らかしている。


「……美味しい……お弁当ってこんな美味しかったんだ……感動……」


「そ、それならよかった……よ?」


元々、パリピとその仲間の分に作ったはずなのだが、凛明はそれを軽々と食っていた。

そんな華奢な身体のどこに入るんだ……と少し凛明の暴食ぶりに驚きつつ、メガネも自身の分のお弁当を食べる。


「……ん。ご馳走様」


「えっ!は、早くない……?」


まだ自分、食べ始めたばかりなんだけど……と絶句しているが、本当だ。彼女に渡したはずのお弁当が全て空になってることに目を見開いてしまう。


「……この弁当、美味しかった……また食べたいくらい……」


「そ、そうなんだ……また食べる?」


「……いいの?あ、でも……エイジの弁当も捨てがたい……」


ん〜……と腕を組んで悩む凛明。その様子を見ながらも、自身の分の弁当を食べるメガネ。


「……ん、決めた。どっちも食べる」


「え、どっちも食べるの?」


「……エイジ……私の弁当作ってくれた人のも……きっと美味しいはず……なのにあのパリピ女……邪魔しやがって……」


彼女の顔を思い出してるのか、ぷるぷると拳を握って怒りを露わにしている凛明。

それを見たメガネは罪悪感を湧いてしまう。


そう思うのも無理はない。自分が誤った対応をしたせいで、凛明の弁当を台無しにしてしまったのだから。


「ごめんなさい皇さん。私のせいで……」


謝るメガネだが、それを聞いた凛明は気にしてなさそうに首を振る。


「……貴方は悪くない、巻き込まれただけ。それに私にお弁当をくれた。よって悪い事はしてない」


「で、でも……」


それでも自身のせいでと自分を責めるが、それを見た凛明は再び口を動かす。


「……じゃあこれから私のためにお弁当作って……それでチャラ」


「……そんなことでいいの?」


「ん……貴方にお願い出来る最大限のこと」


凛明がそう言うと、メガネは目をパチパチッと瞬きをした後、ぷふっと面白そうに吹き出した。

凛明はその反応に意味がわからないのか、首を傾げるが、それでも彼女の笑いは止まらない。


「ご、ごめんね。まさかご飯をねだってくるとは思わなくて」


「……?特に変じゃない事だと思うけど」


「皇さんがおかしいってわけじゃないよ。ふふっ、分かった。じゃあお弁当作ってくるね?」


「……自分で作るの?」


「うん。流石にこの量をお母さんに頼るのは良くないって思ったからね」


「……凄い」


ぎこちない会話が嘘の様にすらすらと進んでいく。凛明にとってもメガネにとっても久しぶりの他愛のない会話はとても居心地の良いものであった。


そんな会話をしているうちに学校のチャイムが鳴った。どうやらお昼休みの時間は終わりを迎えたようだ。


「……そろそろ行かなきゃ」


凛明はお弁当ありがとうと彼女に伝え、その場を後にしようとする。


「ま、待って」


「?」


だが突然、メガネは凛明の歩みを止めるように声をかける。

凛明は振り向き、彼女の方に顔を向いた。


「……皇さん。ほんとに……ほんとにごめんなさい」


「?なんのこと??」


ほんとに彼女の言いたいことが分からない。自分に悪いことをしたのだろうか、弁当の件はもう関係ないと思われるし…。


「……あの人…‥パリピさんに目をつけられて、いじめられてやっと分かったの……皇さんの気持ち」


メガネの言葉に凛明は納得する。そうか、最近は毎日が楽しくて忘れていた。自身が不登校したことやいじめられていたことを。


「見捨てられて、やっと分かったの……私が皇さんにしたこと」


「……別に、その件は気にしてない。それなら私も同犯。貴方のこと、知らなかった」


「でも今日助けてくれたよ。皇さんは凄いよ……」


そう言って表情が曇るメガネを見て、凛明は特に気にしないように呟く。


「……強いて言うことがあるなら……私は貴方が凄いと思う」


「え?」


凛明の言葉に思わず言葉を失ってしまうと言ってるかのように呆気に取られるメガネ。そのまま凛明は続ける。


「あの時、貴方は言い返した。あのパリピに」


「そ、それは……本当に無理だったからで」


「ん。だとしても誰かに言い返すことは力……私はあの時、何も言えなかった」


思い出されるあのときの自分。何を言われても言い返さずただ黙ったまま。人にされるがまま、言われるがままの自分……今もあまり変わらないが、何も言い返すことが出来なかったせいで、取り返しのつかないことになった。


「……だから貴方は凄い。一人なのに、彼女に言い返した……でも一人は辛い」


「あ……」


「だから……えと、こういう時……なんて言うの?その……」


凛明は少し恥ずかしそうにメガネに近づいて、彼女に向けて手を差し出す。


「……私、力になる。貴方の……


「ッ!?」


「えと、ご飯分けてもらったお礼。それにこれからも貴方に頼る。それに……貴方と話してて楽しかった……だから……友達」


彼女にしては珍しい早口。頬も少し赤くなっている。しかし、そんな彼女の様子に今のメガネが気づくはずもなく……その差し出された手を握りしめる。


「……いいの?こんな私で?まだ会って間もないのに、貴方のこと、見捨てようとしたのに」


「……構わない。私は貴方と友達になりたい……だめ?」


「う、ううん!そんなことない!なる!皇さんの友達になる!!」


その言葉を聞けてほっと息を吐く凛明。よかった……これでもし断られたらまたショックで学校に行けなくなる所だった。

心の底から安心する凛明。


「……ならお互い、敬語なし。少し距離感が遠い」


「そ、そうかな……私、これでも普通に話してるつもりだけど」


「……なら下の名前で呼んで。私、皇凛明……凛明って呼んで」


「う、うん!よろしくね皇……凛明ちゃん!私は一ノ瀬春香いちのせはるか!」


その表情はとても明るく、先程いじめを受けていたものとは思えない笑顔であった。そして彼女の名前を聞いて、凛明は思ってしまった。


(……名前、夢奪莉愛娥音じゃないんだ)


そういえば私も変な名前をつけられてたような……そんなことを考えながら、凛明とメガネ……春香は一緒に教室へと戻るのであった。



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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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