第85話 学校に行く朝
「……ねぇ、ほんとにやらないとだめ?」
恥ずかしそうにドアの前でスカートを抑えて俯いている凛明がそうしている。
その姿はいつもの私服姿とは違い、とても可愛らしい制服姿であった。
「栞菜さんと紗耶香から要望があったからな。凛明の制服姿が見たいって」
「うぅ……そんなの聞かなくてもいいのに……」
仕方ないであろう。だって今日の二人とも、珍しく俺より早起きしてたしな。
それほど楽しみにしていたということなのだろう。
その期待を無碍にするほど、俺は愚かじゃない。
「いいじゃないか。制服の姿の凛明も似合ってるぞ。恥ずかしがるものじゃないさ」
「そ、そういう問題じゃない……!エイジのバカ、アホ、おたんこなす!」
「なんで俺は罵倒されなきゃいかんのだ?」
ポカポカと昨日みたいに俺の身体を叩いてくる凛明を見てそう思ってしまう……意外と痛いし……。
「エイジさ〜ん!まだなんですかー!」
すると、我慢の限界がきたのか、ドアの奥で紗耶香の声が聞こえてきた。
「うぅ……」
「……諦めろ。もうここまできたら逃げられんぞ」
それを理解したのだろう。彼女の顔は無表情なはずなのに真っ赤に染まっていた。
「こっちも準備できた!入るぞ!」
そして俺も、これ以上は時間の無駄だと思い「ま、待って……!」という彼女の静止の声を無視してリビングの扉を開けた。
「わぁ……!」
扉の奥では目をキラキラとさせている紗耶香と微笑ましい笑みを浮かべて凛明の方をじっと見ている栞菜さんの姿があった。
共通して二人ともとても嬉しそうに彼女の方を見ており……反対に凛明はスカートを両手で抑えて恥ずかしそうに俺の背後に隠れていた。
「ほら、凛明」
「わっ……」
彼女の背中を無理やり押して前に出させた。もう逃げ場はないと悟ったのか、凛明は頬を染めながらも二人の方を見る。
「……ど、どう?」
「めっちゃいい!凄くいいよ凛明!可愛いよ!」
そのあまりの可愛さに紗耶香は少し興奮しており……。
「えぇ。久しぶりに学ラン姿を見てみたけど、相変わらずお人形みたいね」
ふふっと栞菜さんは彼女を見て笑みを深めている。
そんな反応をされて凛明はどうにも出来ずにいた。
出来れば3人のこの賑やかな光景を見てみたい所ではあるが……。
「3人とも、そろそろ朝食にしましょう。あまり時間を掛けると学校に遅れるでしょうし」
「……それもそうですね。凛明の制服姿をもう少し見てみたい気持ちはありますが、仕方ありません。紗耶香、準備をしなさい」
「はぁ〜い。じゃあ凛明は紗耶香お姉ちゃんと一緒にやりましょうね〜?」
「うぅ……調子に乗るなぁ……」
だが、今の凛明の声は紗耶香には届かず、そのまま彼女の懐の中へと飲み込まれてしまう。
そんな光景を見ながら、俺はいつもどおりに朝食の準備をするのであった。
◇
「天気予報によると、今日は雨らしいから傘を忘れずにな」
二人にそう声を掛けるが、心配いらないようだ。可愛らしい傘を持っている。
「ねぇエイジさん。折角ですから写真取りませんか?」
「……そんなことする必要ない。早く学校に」
「そうね……いいじゃないかしら。今日は記念日ですしね」
「……か、栞菜?」
「そうだな……まだ学校までそこまで時間が掛からないわけだしいいかもな」
「え、エイジまで……!」
二人に押されたと言われればそうなのだが、特に写真を撮っても別にいいだろ。
そんなこと思いからか、俺は自身のスマホを彼女らの方向に向ける。
「ほ、本当に今日のみんなおかしい……!こんなことしなくても……!」
「いいの。ほんとに記念日なんだから。綺麗に撮ってくださいよエイジさん」
「わかったよ。それじゃあ撮るぞ」
可愛らしさ全開のポーズをこちらに向けている二人に向けて写真を撮る。うぅ……と今日は頬を染まることが多い凛明もとても微笑ましい。
「は、早く!早く行くっ!」
そんな空間に耐えきれなかったのか、凛明の手が紗耶香の手を強引に引っ張る。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!じゃあ二人とも行ってきます!」
待ってって凛明〜!という紗耶香の声を最後に玄関の扉は閉じて、いつも静寂さが訪れ、それが家の中を支配した。
「……凛明は心配なさそうにしていましたが、大丈夫でしょうか」
栞菜さんが彼女のことを心配そうにしていたが、多分大丈夫だ。
「……あの子は意外にも図太く、そして何倍にもやり返すので大丈夫だと思いますよ」
「?それは、どういうことでしょうか?」
栞菜さんがわけが分からないようにこちらに聞いてくるが……俺はあまり答えないようにリビングへと戻り始める。
「さぁ栞菜さん。俺達は俺達の出来ることをしましょう。凛明なら大丈夫ですから」
「そ、それならいいのですが……」
彼女は心配そうにドアの方を見ているが、多分大丈夫だ。
だって……昨日の凛明、凄い悪い顔してたから。
そして思った……女を相手にすると恐ろしいものなんだって。
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