第84話 決意


「……学校?」


「ん……そろそろ私も行くべきだと思った」


その顔色からは恐怖のものは何も感じない。寧ろ……少し楽しそうにしてる?


「……エイジには隠せないから言う……私、少し楽しみなの」


「それはまた、どうしてだ?」


学校に行くのが怖くて今まで行ってたんじゃないのか?でも彼女曰くどうやら別の思念があるらしく、俺は彼女の話に耳を傾けるべく、話を聞く。


「……このときを待ってた。私が……


「あ……」


ま、まさか……そういうことなのか……?


「……あのとき、エイジが私の歌を認めてくれたときから……私にあった学校に対する恐怖の感情は無くなってた……でもそれと同時に湧いたのが……怒り」


ぎゅっと小さな拳を握りしめる姿に俺は思わず息を呑んでしまう。それほどまでに彼女の迫力は今までの中で一番激しいものであった。


「私が人気になったとき、奴らがどう私に接するのか……醜いと蔑んできた私の歌が綺麗と言われた奴らの反応がどんなものなのか……それが、凄く凄く楽しみなの」


ふふふっと彼女らしからぬ不敵な笑みを浮かべており、何故かそこには気品の良さを感じてしまう自分がいる。


「………これが、私の学校に行く……半分の理由」


「……半分?」


「ん。それも楽しみだけど……もう栞菜達に迷惑を掛けたくないのが大きな理由」


だが、その迫力ある気迫もその言葉により一気に発散され、今の彼女は少し申し訳無さを感じているのか、顔が少し気まずいものであった。


「……栞菜達、私が不登校になるの、心配になってた……口では言わないけど今だってそう……心配してる」


「……そうか」


そういえば二人に少し相談されたこともあったな……凛明の学校のことについて。二人も彼女のことを心配していたのだろう。


「ん。だから……もう二人に……エイジに迷惑かけたくないから、学校に行く……」


……この子もこの子で色々と考えたんだな。そんな思いから、俺は彼女の頭に自身の手を乗せる。


「ん……エイジ?」


「なら、まずは二人に相談しないとな。きっと喜ぶと思うし、安心すると思うから」


「……そのつもり……あ、あの……エイジ」


「ん?なんだ?」


「そ、その……いざ二人に言うのは恥ずかしいから……言う時に、私と一緒にいてほしい……だめ?」


「ははっ。なんだそれ」


急に的はずれなことを言い出して思わず彼女に対して笑ってしまう。ただ、凛明はその姿がよくなかったのか、俺の身体にぽかぽかと叩いてくる。


「いてっいてててて!?」


「……笑うのだめ……禁止」


「わ、悪かったって!もう笑わないからやめてくれ!?」


その後、しばらく怒りが収まらなかったのか、凛明の猛攻は数時間に渡って続いた。俺も彼女もその時にはへとへとになり、顔を見合わせて笑いあった。


その時の彼女の笑顔は……酷く輝いて見えたのは内緒の話だ。





「……ほんとなの凛明!?」


夜、夕食にて。紗耶香の声が家中に響き渡る。それに対して凛明はコクっといつもよりしっかりと頷いている。


「ん……そろそろ学校に行こうかなって…思った……だから二人に報告しようと思った」


「偉い!偉いよ凛明!!流石私の妹!!」


椅子から立ち上がり、そのまま凛明に抱きつく紗耶香。そこには嬉しさが漂わせていたが、凛明は少し嫌そうに離れたがっていた。


「……そう。あなたが決めたことなのね」


「……ごめん栞菜……色々、迷惑かけちゃって」


「いいえ。そんな言葉、いらないわ……あなたの口から聞けて、私は嬉しいわ」


栞菜さんも安心したのか、自然と頬が緩んでいた。それに対して彼女はうぅ……と恥ずかしそうに目を逸らしている。


「これでやっと二人で登校出来るね!私、ずっと暇だったんだから!」


「……暑苦しいのいや……紗耶香めんどい」


「ちょっとまってよ。なんで私そんな態度取られなきゃいけないの!?何も悪いことしてないよね!?」


「……存在自体が暑苦しい……よって離れるべき」


「あーそう……そんなに言うならくっついてやる!おれおれ〜!」


「うぅ……やめてぇ……離れてぇ……あ、暑い……」


彼女の非常に激しい包容に凛明は嫌そうにしてるが、今の彼女を止められるわけもなく、そのまま紗耶香の人形のように扱われた。


「……エイジさん……ありがとうございました」


栞菜さんがそんな二人を見守りながら、こちらにお礼を言ってくるが……。


「俺は別になにもしていませんよ。凛明が決めたことです」


「でも、あなたがいなければ、きっと彼女は学校に行こうだなんて言わなかったと思います。これも全部エイジさんのおかげです」


「……それは、違うと思いますよ」


俺も彼女たちの賑やかな光景を見守りながら、口を動かす。


「凛明が、学校に行こうと思ったのは、二人に迷惑をかけないためと言っていました。俺はただきっかけを与えたに過ぎません」


「……そうなんですね……ふふっ凛明らしいです……でも」


今度はこちらの方に見て来る。その表情はとても穏やかで……綺麗な笑顔であった。


「それでも、エイジさんが来てくれたから、今の彼女は学校に行く決断が出来たんです。改めて……ありがとうございました」


「……はい、どういたしまして」


そんな言葉を交わしながら、俺は栞菜さんと一緒にその光景を見守るのであった。



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