第83話 久しぶりの……


あれからみんなのコラボ動画をすることが多く、中々休む時間が取れずにいた。

その過程で家のこともほったらかし……及びある人の事をほったらかしにしてしまったのだ。そのせいで……。


「………」


「……あの、栞菜さん?そんないじけないでくださいよ」


腕を組んで子供の様に頬を膨らましてこちらに視線を向けない彼女の対応に困っていた。


「……エイジさんが他の女の所に……」


「いや、別に俺はどこにもいきませんよ……」


俺は何か女遊びをしたとでも思われてるのか?


「最近、私のこと雑に扱ってませんか?」


「えっと……身に覚えのないのですが、その忙しくて栞菜さんのことを気にしてやれなかったのは悪かったとは思ってますが……」


「ぶーぶーいいもーん!私はゲームで遊んでいますからー!」


そう言って俺のことなんか無視してテレビをつけてゲームを起動してしまった。

いじけ方が子供っぽくて少し笑ってしまいそうになったのは内緒だ。


「……ってあれ。これってこの前の……」


栞菜さんと初めてデートした時に買った某任天堂のゲームだ。

それにビクッと反応を示して、彼女は少しだけこっちを振り向いてきた。


「……覚えてたんですね」


「忘れるわけないでしょ。俺もその場にいたんですから」


「……ふーん」


そのままゲームを起動する。聞いたことのあるような壮大なBGMだ。不思議と少年心を思い出しそうだ。


「………一緒に見ますか?」


「えっ?」


夢中で画面を見ていると、まだいじけている栞菜さんにそう声を掛けられる。いやどんだけ根に持ってるんだこの人……。


「そ、そこに居られると邪魔なだけですし……気にして集中出来ませんので……なので……隣で一緒に……」


「……それなら、遠慮なく」


彼女の誘いに肯定を示し、俺は空いているソファへと座る。

栞菜さんはこっちを向いたと思ったら少し驚いたような顔をしていた。


「な、なんですか?」


「い、いえ……まさか本当に見てくれるとは思わなかったので……」


「嫌なんですか?」


「そ、そんなこと一言も言ってないです!!」


ぷいっと画面の方に向いてしまった。ただ自然と彼女の口元が緩んだような気がしたのはきっと気のせいではないのであろう。


「約束しましたからね。一緒にゲームを語り合いましょうって」


「……そ、そんな事も覚えてたんですね」


ふーん……と何故か嬉しそうな気持ちを彼女から感じ取って、栞菜さんはゲームを始めた。


そう言えば何気に栞菜さんとこうしてゲームをするには久しぶりな気がする……。

そんなことを思いながら、彼女のゲームを見送るのであった。





「……今日はここまでにしましょうか」


時間をみて栞菜さんがゲームを終わらせるのか、テレビの画面を落とした。もう2時間もやってたのか……やっぱ時間を忘れてしまうもんだな。


「……エイジさん。今日はありがとうございました。その……いじけた私と付き合っていただいて」


「あはは……俺も悪いところがありましたから。それよりもゲーム、とても面白かったです。時間を忘れそうになりました」


「あ……ふふ。そう思ってくれると嬉しいです」


彼女の破顔した笑顔を見て俺は思わず自身の口元の笑みが緩んだのがわかった。


「……やっぱり栞菜さんには笑顔が一番ですね」


「……へ?」


「え?」


……あ、やべ。声に出てた。


「すみません栞菜さん、今のは忘れ……なんでそんな顔を赤くしてるんです?」


「と、と、突然エイジさんからそんなこと言われた困りますよ!?は、反応も出来ない……ふにゅう」


頬に手を当てて、顔を真っ赤にさせている乙女らしさ全開の栞菜さん。そんな彼女の姿を見て、俺は思わずこう思ってしまった。


(……栞菜さんって……意外に初心なんだな……)


それだけ心の中で感想を呟いて、俺はそんな彼女との時間を楽しんだのであった。





「……よし。これくらいにしようか。お疲れ凛明」


栞菜さんと一緒にゲームをして数時間後、今度は凛明から声を掛けられた。どうやら新しい新曲を予行練習も兼ねて歌いたいらしく、それに俺も参加させられた。


「……ん。どうだった……私の歌……」


「そうだな……」


普通の人から聞けば、よかったと答えるだろうが……。


「……いいとは思うが、本調子が出なかった感じがするな」


「……やっぱり」


はぁ……とらしくもないため息が吐いた。心あたりでもあるのか?



「どうしたんだ?最近元気がないように見えるぞ?」


「……そう見える?」


その彼女に問いに対して頷く。いつもよりも0.3mmぐらい視線を落としてるように見える……ここまで変化を見破るとついに俺も末期が来たのではないのか……?



「……エイジに隠し事…できないね」


すると、意を決したのか、凛明は先程の様子とは違って意思を固めるかのようにこちらに視線を飛ばしてくる。


「……エイジ」


「な、なんだ?」


「………私、そろそろ行こうと思うの」


そして、彼女から驚くべき言葉が俺の耳に響いた。



「……学校に」



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