第79話 "彼女"が笑う朝
朝が来た。
雨雲はもちろん、薄い雲すら避けそうな快晴の青い空だ。
そんな天気の中で起きるのはとても気分がいい……そう思っていた自分がおりました。
「……エイジさん?」
……何故か俺は栞菜さんの方に向かって正座をさせられています。
なんでかは分かりません……でも彼女曰く。
「なんで昨日は紗耶香と一緒に寝たのでしょうか?ご説明をお願い出来ますか?」
……ということらしい。
いつもの時間よりも起きてくるのが遅いと感じた栞菜さんが俺のことを呼びに行ったら、一緒に寝ている姿が見られて、今の状況に至ります。
……前も彼女と寝ていたから許されていると思っていたけど……どうやらそうではないらしい。
「エイジさん。まさかだとは思いますけど……今回みたいに紗耶香と一緒に寝たことがあるのですか?」
「…………スミマセン」
図星を突かれてしまい、思わず片言で栞菜さんに向けて謝ってしまった。
いや仕方ない……とは言えないけど、栞菜さんの許可取ってるとは思うじゃん?
でもそうではなかったのですね……はは。
「……エイジさん?」
「は、はいっ!」
怒気を感じ取ってしまった栞菜さんの声を聞き、背筋が無意識に上がってしまう。
「紗耶香のことがあったのは分かりますが、誰かと一緒に寝る時は私に報告してください……なんだかずるいです」
「ず、ずるい……」
「……栞菜の言う通り……」
すると、にゅっと扉から出てきて話を聞いていた凛明がそんなこと言ってきた。
「り、凛明まで……」
「……今度は私も一緒に寝ることを所望する……」
「それなら私もそうしようかしら。いいですよね、エイジさん?」
「え、えっと……」
こ、これ俺はどう返答すればいいんだ……?
「二人とも〜エイジさんをいじめたらダメですよ〜」
「……紗耶香……生きてたんだ」
「なに私を死なせてるのよ……生きてるに決まってんじゃん。あんたのドロップキックは結構効いたけど……」
手提げバックを持って制服姿の紗耶香がジト目で凛明に答えてから、正座状態の俺に向かって抱きついてきた。
「さ、紗耶香?」
「これは私の特権だよ。凛明にも……栞菜さんにも渡さない、私だけのご褒美なんだから」
「……貴方、前まで情緒が不安定だったのによくそんなこと言えるわね」
「なんとでも言ってください。たとえ栞菜さんが相手でも、これだけは譲れません!……そうですよね、エイジさん?」
「………そうなの……エイジ?」
「それを俺に言われても困るんだけどな……」
……でも、彼女は年相応な笑みを浮かべていた。前の不安定なものとは違う……とてもスッキリとした表情をしていた。
「……本当にありがとうございますエイジさん」
耳元で彼女がそう囁いてくる。紗耶香の方に顔を向けると、とても優しい表情をしていた。
「紗耶香……エイジさんは貴方のものでは……」
「あ、もうこんな時間!学校に行かなきゃ!」
「あっ、こ、こら!人の話を聞きなさい!」
栞菜さんの言葉など軽くスルーして彼女は部屋から出ていくように走っていく。
そのときの彼女に……天晴あおいの面影を重ねてしまった。
(……やっと見つけたんだね……本当にやりたいことが)
「じゃあ、エイジさん!いってきます!!」
「……あぁ。いってらっしゃい」
最後に過去最高の笑顔を俺たちに向けて、彼女は部屋に出て行った。
彼女の波瀾万丈な行動により、栞菜さんも凛明も呆気に取られ……しばらくして笑みを浮かべた。
「……あの子も、やっと笑顔を浮かべてくれるようになったわね」
「ん……元気になってよかった」
彼女たちも心配してたのだろうか、その声色からは安心という感情が感じ取れた。
これでよかったのだろうか…………いや、俺の取った行動がたとえよくないことでも、後悔などしてない。
だって……そのおかげで彼女は天晴あおいとしての自分を確立することが出来て……再び笑顔が戻ってきたんだから。
◇
(はぁ……はぁ……エイジさん……エイジさん……!)
彼女は未来に向かって走っていく。その道は障害はあれど、一方通行。振り返ることはないであろう。
(私、頑張るよ!エイジさんの思いを胸に……みんなの期待に答えられるように……!)
「頑張るから!!」
紗耶香は胸を張って今日も学校に向かって走っていく。
その日の朝は……雲一つもない快晴であったのは言うまでもない。
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