第77話 幕を閉じた波乱
「……皆さんがエーブルに?」
カレンさんの言葉を聞いて俺は疑問を抱くしかなかった。
どうして
「勘違いしないでおくれよ。これは君のためじゃない……紗耶香のためだ」
目をギリっと普通の人なら泣いて逃げるであろうその視線を俺に向けてくる。それを聞いて俺は……妙に納得した気持ちになる。
「……俺が紗耶香に何かしないために監視でもするのですね」
「頭が回るじゃないか。勿論、それが大きな理由だよ。3人も承諾している」
「……何か他に理由があるのですか?」
先ほどの彼女の理由からそう捉えてしまうが。
「なに、簡単なことだよ。私たちもそろそろ組織に所属しようかなって思ってね」
「組織に……?」
「個人勢って言うのは傍から見ればとても自由にやれるいいものなのかもしれない。でもリスクもある……アカウント削除という致命的なリスクが」
「……なるほど」
たまにあるのだが、組織に所属していないユーチューバーなどの配信者のアカウントが突然削除されてしまうことがあるのだ。
何か副業として働くならいいかもしれないが、配信を生活の中心として回している彼女らからしたら致命的なものなのだろう。
「それに、突如として現れた大物ばかりが集まる会社……そんなデッカい波に乗らないのは勿体無いでしょ?」
「それで、エーブルの加入に……」
……そのためには宗治たちと話さなければいけないけど……。
「分かりました。その加入の件、その他諸々前向きに検討したいと思います」
「………利口な判断で助かるよ。元配信者さん」
そう言いながら、公園から去るように俺から背を向けて歩くカレンさん。
「正直なところ、私は君のことを警戒している……過去最大限にとも言ってもいいね」
「……無理もありません。紗耶香のためとはいえ、俺は非人道的な行動をしたのですから」
「当然だね。だからこれからも君の行動には注目させてもらう……でも」
首だけがこちらを向いており……表情は不思議と緩んでいるように見えた。
「きみがあの子の為に行動したのも事実……彼女を再び配信者としての道に歩ませたのも事実だよ。それに関しては、礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「………こちらこそ情報の提供、感謝いたします」
そしてそんなやり取りを最後に、緋村カレンは自身の家に帰るべく、この公園から後を去っていった。
◇
あれから数週間が経った。
宗治と真中は四人の加入について話した時、とてつもない驚愕を受けたのを今でも印象に残っている。
貴方の人脈はどうなってるのよ……!!と真中から問い詰められた時もあったが、俺から言わせれば紗耶香たちの人脈が凄いとしか言いようがないのだが……。
また、その紗耶香についてだが、頻度は低くなったものの今でも配信者として活動をしている。
あの配信の彼女の告白で心を打たれた人も多く、今でもファンは継続的に増え続けていた。
その急激な伸びには栞菜さん達も目を見開いており、そのうち登録者が300万行くのでは……?とか言われていた。
まぁ、当の本人は「これ以上増えても何も出来ないよぉお!!」と何故か嬉しがっている様子はなく、プレッシャーに押しつぶされそうになっていたとか。
「……これが、今の彼女たちの様子だな」
編集をしながら、数週間で起きた出来事を思い返していた。
『私がいない間に大変なことになってたんですね……何も出来なかった自分が情けないです』
電話越しで前の会社の後輩であり、今はリアナとして活動している人物……結奈ちゃんがため息をついている。
「仕方ないよ。色々と忙しいんでしょ今は?」
『はい……宗治さんと真中さんから頼まれた大型企画について色々と考えていて……』
「……順調なのか?」
『はい!そこは何も心配しなくてもいいですよ!先輩もギャフンと言わせる企画を立てていますので!』
結奈ちゃんも結奈ちゃんで色々と忙しいみたいだ。
でもその声は活き活きとしており、楽しそうにも見えた。
しばらくすると、コンコンッと自身のドアを叩く音が聞こえてきた。
誰か俺に用があるのだろうか……?
「じゃあそろそろ電話をきるね」
『あ、はい。分かりました。おやすみなさい先輩』
「うん、おやすみ」
そうして、彼女との通話を切った後に俺は椅子から立ち上がってから、扉の前まで移動する。
そしてその扉を開けてみると……枕を両手に持った紗耶香が目の前にはいた。
「紗耶香?」
「あの、エイジさん……少しだけお話ししませんか?」
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