第76話 隠された狂気


真紅に染まった髪をした女性の後ろ姿が目に入った。

ブランコをぎぃ……と音を立てながら揺らしており、座っている。


そんな彼女の姿を見てから俺はそこに向かう。


「遅くなりました」


そう声をかけると、俺の方にゆっくりと首をこちらに向けてきた。

その表情は……な何故だか少し険しい気がする。


「来てくれたんだ。こんな暗い時に悪いね」


だが、その表情は一瞬で爽やかなものに変わり、ブランコから降りて顔をこちらに向けてきた。


「あおいの配信、見させてもらったよ。久しぶりに彼女の声を聞けて嬉しかったよ……にしても、凄いね」


「何がですか?」


「いやね。私たちって少しの間一緒に過ごしてきたでしょ?だからね、少しだけ分かるんだけど、あの子ってやると決めたら絶対曲げない子なんだよね」


「……えぇ。そうですね」


「なのにきみはあおいの……紗耶香の選択を捻じ曲げた。これほど驚いたものはないよ。それほど彼女にとってエイジという人間は大きかったのかな?」


「そうだと嬉しいです」


隙を見せないかのようなこちらを見やる。何か勝負をしていないはずなのに、その雰囲気は不思議とトゲトゲしく……敵意のあるものに近かった。


「どうしたんですか?そんな敵意をむき出しにして」


「……そんな風に見えたかい?」


「はい。とても」


「あはは。これはこれは失敬。失礼な真似をしたね……いや、これぐらいの方がいいのかもね」


そう言いながら、彼女は俺にスマホを見せてくる。その画面はSNSに載っている紗耶香の……あおいについてのツイートのことばかりであった。


「……これ。どういうこと?」


「何がですか?」


「とぼけないでくれよ。このツイート……デマだよね?」


そこには『天晴あおいの引退の危機』や『アンチ増大!?天晴あおい、人気ガタ落ちか?』などのツイートが載っていた。


「どうしてこんなデマ情報を流した?前者はともかく後者はもう悪質なアンチとしか言いようがないよ?」


「……さぁ、なんのことだか」


俺はシラを切る。そんな様子に腹を立てたのか、その細い腕で胸ぐらを掴んできた。


「もし紗耶香に危害を加えてみろ……生きたことを後悔させてやる……!」


その気配は赤鬼と見間違えても可笑しくなく、普通の人が見れば恐怖で身体が硬直するだろう。


「……彼女の、紗耶香の過去を調べて、知ってみて思ったんです……


「ッ!?」


俺の様子が急変したことで、彼女が即座に胸ぐらから手を離して距離を取る。


「だから、配信の引退という選択を思い留まらせるために、武器が必要だったんです……真実というなの武器を」


「……それが、あのツイート数かい」


彼女のファンからの応援ツイートなどの数々。それが実際、紗耶香の心を変化させたのは事実だ。


「でも、今あるものじゃあ足りなかった。だから、彼らを過激に反応させるために……あのツイートをしました」


「………心を不安定にさせてから、一気に追い討ちをかける……心理戦でよく使われるものだね」


「それが聞きたかったんですか?随分と暇なんですね」


そんなわけないだろ……と珍しく頭を乱暴にかきなから批判の籠った目をしている。


「もしこれが彼女に知ったらどうするの?それで責任取れるの?もっと方法があったんじゃないか。私たちも協力だって」

「そんなもの、一時的なものに過ぎません」

「……」


「……配信に限っての話しではありませんが、一度それに恐怖という感情を抱くと再度やろうとはしません。当たり前ですよね。だってやるのが怖いんですから……俺はそれで一度失敗しました」


配信という道から逃げたことで、俺はその行為を出来なくなってしまった。

だから彼女にはそんな思いを……後悔をしてほしくなかった。


「もしこの行いがバレて紗耶香に嫌われようとも構いません。彼女がそれで……後悔しないなら」


「…‥狂ってるよ、きみ」


「そうかもしれませんね。俺は、善人者ではないので」


会社の人たちや、宗治や真中、俺の配信を見てきた人たちだって……今までたくさんの人たちを裏切ってきた。

そんな俺が善人者と言われる資格はない。


「……はぁ。私はとんでもない狂った人物と関わってしまったようだね……でも、約束は約束だよ」


「?」


「あの時、約束したじゃないか。紗耶香の過去を教える代わりに、私の配信の編集をやると……加えて」


指をこちらにさしながら耳を疑うような発言が言い放たれた。



「きみの会社エーブルに、私たち新時代ルーキーを加入させてもらうよ」




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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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