第72話 差し伸べてくれる優しい手
紗耶香を探すべく、俺は家に出て外をあちらこちら走り回っていた。
まだ遠くには行ってないはずだけど……にしてもほんとにどこに行ったんだ?
「外も暗いから近くにいるといいんだけど……」
愚痴を言っても仕方ないな。
俺は疲れ切った身体を奮起してから彼女を探しに家中に走り回ったのだった。
◇
……なんで、あんな事言っちゃったんだろ。
暗くなった空の下で、私は公園によくあるブランコに乗ってさっきのことを思い出してしまう。
栞菜さんはただ、私を思って言ってくれただけだ。それなのに自分の気持ちに素直になれないから勝手に当たり散らかしちゃって……。
「……だめだなぁ私って……どうして誰かに迷惑掛けちゃうんだろ」
栞菜さんだけじゃない……凛明や結奈ちゃん、真中さんに宗治さん……あの四人にだって……。
「でも、一番迷惑掛けちゃってるのって……」
……エイジさんだ。突如私たちの家に来た私の……私たちのために頑張ってくれるとても優しい人。
あの家の住んでいた頃に、栞菜さんが勧めてくれた配信者。
その時の私は余裕がなかった。だってそうだ。家族を失い、カレン達と離れ離れになってしまった……弱い私は経済的にも精神的にも心に傷を負ってしまっていたんだから。
でも偶然、彼の配信が私の目に映った。最初はほんの出来心だったのだ。でも、時間が経ち、見て行くうちに……私の心は満たされていった気がした。
経験したことがない気持ちに私は戸惑ったけど…悪い気はしなかった。だから彼の配信にチャットを送ってみた。スパチャでもないただの応援メッセージ。
でも彼は……私のそのコメントを拾って答えてくれた。ありがとうって。これからも見てくれると嬉しいって言ってくれた。
エイジさんにとってはほんの些細な出来事だったかもしれないけど、私にとってそれはかけがえのない大事な思い出となった。
この時だろうか、私が……あの人のファンなったのは。
だからこそ彼の配信が無くなった時は辛かったし、家に来てくれた時はとても嬉しかった。
……でもそれと同時に不安が湧き出てしまった。
もし何もない私を見られたら……それで家族みたいに見捨てられたら?
想像もしたくない。だから私は羞恥心というものを捨てて、色々なことを彼にした。
迷惑になっているのは自覚している。でも天晴あおいがない今、彼が私を見てくれるのはこれくらいしか……。
……嫌いだ。こんな醜く自分勝手な自分が……私はだいっきらいだ。
「あぁ?おう嬢ちゃん。ここでなにしてんだ??」
誰かが話しかけてきた。その声がした方向を見てみると、おそらく染めたであろう金髪に開けた肌から厳つい虎のような入れ墨が入ったものが若干見えた。
やばい……あんまり関わらない方がいいかもしれない。そう思ってブランコから降りてその場から離れようとする。
「まぁまぁそんな冷たい態度取るなよお嬢ちゃん。俺さみしいぜ」
「……離してくれませんか?」
ぎりっとその男の事を睨みつけるが、特に怯んだ様子が見えない。それにこの人……力が強い…!
「奥でお兄さんとお話でもしようぜ。大丈夫時間は無駄にはしないからよ」
「いや!離して!!」
強引に引き剥がそうとするけど、びくともしない。もしかしたらこれは天罰かもしれない。
たくさんの人に迷惑をかけた私の……。
……でも、もしこんな私でも救ってくれる人はいるのだろうか。こんなどうしようもない私を当たり前に手を差し伸べてくれる人は……。
そう思った瞬間、公園内にサイレンの音が響き渡った。
「チッ!こんなときに……!」
男は私のことを投げ捨ててどこかに逃げるようにその場から去っていった。
警察?でも公園の周りには誰にも……。
「ふぅ……な、なんとか去っていった。流石に裏社会の人と喧嘩なんてごめんだからね」
……あぁ、そうだ。私、なんで勘違いをしていたんだろう。
いるじゃないか……何も取り柄のない私でも、当たり前に手を差し伸べて……救ってくれる人が。
「大丈夫か紗耶香。怪我はないか?」
「……エイジ、さん」
私の目の前にいたのはいつものように笑ってこちらを見ているエイジさんがいたのだった。
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