第65話 選択
「……本気なの?」
一瞬だけ動揺してしまい、喉が詰まってしまったが、なんとか正気を保ちつつ、彼女に聞く。
「はい……こんな覚悟で配信をやるのが間違いだと気付かされました」
「……後悔はない?」
寂しそうに笑みを浮かべる彼女に確認をこめて聞いてみるが、意思が固いのか、弱々しくもゆっくりと頷いた。
「栞菜さん達には話した?」
「いえ……言うタイミングもなかったですし、迷いもしましたから……」
「……そうか」
「…エイジさんは、引き止めないんですね」
弱々しい雰囲気を纏いながら、そんなことを聞いてくる。
「…俺も、どんな形であれやめた身だからね。あまり強気にはいえないよ」
「そういえばそうでした……エイジさんもやめたんですね…なら、お揃い、だね」
「……」
にししといつもどおりを演じようと笑顔にさせているが……それでも心の底では深い感情を隠してることを俺は知っている。
(……やめた身だからこそ……分かることもある)
「……ごめんなさいエイジさん…少しだけ、こうさせて」
肩に彼女の頭が乗せられる。そして伝わってくる……彼女の薄っすらと聞こえてくる嗚咽と身体の震え。
「…分かった。少しだけな」
「……ありがとうございます」
そしてそのまま身体の重心を全て俺の身体に乗せていき、時間が経てばスゥ……と息を立てて寝てしまった。
「…少しだけって言ったんだけど」
彼女が気づかれない程度に身体を動かして、寝やすいように掛け布団を掛けて横にさせる。
俺は、彼女が食べ終わったであろうご飯を食器に乗せて、そのまま自分の部屋から出ていく。
「………あんなこと言ったけど」
……だめだな。どうしても自分と重ねてしまう。
高校に無事合格して、落ち着いたらまた配信者をやろうとした時期もあった。
でも、その同時期にクラスにいた配信者を問題を起こした事件が耳に入り……配信をするのを躊躇してしまった。
それで、どんどん時間が経つにつれて……俺は配信という行為の楽しさを忘れてしまった。宗治と真中に……配信の重荷を背負わさせてしまった。
「だめだろ……後悔させたら……」
もし、もしこのままいけば……彼女も俺と同じ道をたどってしまう。
配信という行為が怖いものだと認識して、栞菜さんや凛明達の配信を見る度にやめてしまった後悔に襲われてしまう。
やりたくてもやれない……そんな思いをさせてしまう。
「……ごめん紗耶香。俺は……君に俺と同じ道を歩んで欲しくない」
だって彼女の配信は―――。
そう決めたら、後は行動するだけだ。
そうして俺は片手でスマホを取り出し、ある人物にDMを送ってから、リビングに戻るのであった。
◇
翌日、会社に出かけるべく着替え終え、家から出ていこうとする。
「……エイジ」
「?凛明…?」
昨日と同じように不安そうな表情に変え、彼女がこちらを見ていた。
「……紗耶香…大丈夫……?今日、休んでるから……心配で……」
「……大丈夫だ。凛明が悪いわけじゃないよ。ただの体調不良だ」
今日、紗耶香は気分が悪くなったらしく学校を休んでいる。
今は栞菜さんが一晩中面倒見るということで、紗耶香の部屋で看病をしている……んだけど、大丈夫かな……?
「凛明も面倒みておいで。そっちのほうが紗耶香も嬉しいと思うから」
「………うん……昨日のこと……謝ってくる……」
そう言って、彼女は猛スピードで2階へと上がっていった。
凛明のその様子を見守ってから、俺も靴に履き替えて玄関のドアを開けていく。
「……行きますか」
◇
歩いて数十分経過して、待ち合わせ場所に着いた。どうやら相手の都合上、あまりバレるのはよろしくないと考えているらしい。
彼女らの家……別荘のインターホンを鳴らす。流石に別荘にお邪魔するのは緊張するな……。
そしてしばらく経ち……特徴的な赤い髪をした女性が玄関のドアから現れた。
「……ほんとに来たんだね」
「えぇ。意外と近くにあることには驚きましたよ……あと、写真をSNSに投稿する時は気をつけてくださいね」
「ハハッ。写真一つで特定させてら何も言えないよ。私も気をつけることにするよ……さっ、入って入って」
彼女の言葉に甘え、別荘に中にお邪魔する。そしてその赤髪の女……カレンの後についていく。
「驚いた?こんなドデカイ家に住んでるなんてさ」
「まぁ少しは驚きましたよ。身近に知り合いが住んでるなんて思いもしませんでしたから」
「そこなの?ん〜君の感性は少々特殊なようだね……まぁいいや」
そして、おそらく待ち合い室の扉なのだろう。その扉を開き……三人の人物が席に座って俺のことを待っていた。
「ようこそ、エイジさん……私たち、
――そこには、今話題のvチューバーの四人が勢揃いしていた。
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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
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