第62話 様子が変……?



「はい、エイジさん。あーん♡」


……俺は今、とてつもなく違和感を覚えている。いや、目の前にいる栞菜さんや凛明もその一人なのだろう。


その原因とは……勿論、紗耶香ちゃんのことだ。


俺の見間違いじゃなければ、目をハートに変え、俺に向かってあーんをしてくる……今までならこんなことなかったはずなのに一体何があったんだ……?


「ね、ねぇ紗耶香……少しエイジさんに近づきすぎじゃない?エイジさんも困ってるわよ?」


困惑という感情が大きい中でも、栞菜さんはなんとか紗耶香を説得し始めるが……。


「えっ?そんなことないですよ。きっと栞菜さんの気のせいですって〜」


俺の腕にくっつきながら紗耶香は栞菜さんの言葉をものともしない。いつもならここで喧嘩でもするのだが……何故か、彼女から出る不思議な圧が彼女達を圧倒している。


「さ、紗耶香?流石そこまでくっつかれると俺も食べにくいんだが……」


「……迷惑、でしたか?」


「え、いやそういうことじゃなくて……」


こ、今度はなんだ?少しくっつきすぎて食べにくいから離れて欲しいと頼んだだけなのに……どうしてここまで様子がおかしいんだ??


「わ、分かってます。私がエイジさんと一緒にいてはだめって……で、でも私もここに住んでいる一人なんです!だから!……見捨てないで……」


「……わ、分かった。くっついたままでもいいからとりあえず朝食でも食べようか」


「……ほんと?私、迷惑じゃない?」


「あ、あぁ。迷惑じゃないから大丈夫だぞ」


「…ほっ、よかった……私、エイジさんに嫌われたら……なにするか分からないから」


ゾクッ!?彼女のその言葉に寒気を覚えてしまう。


そんな俺の様子などお構いなしに身体全身を使ってぎゅう……と力強く抱きしめてくる。


「……エイジ……ほんとに、なにがあったの?」


「わ、わからん……」


昨日の深夜、天晴あおいの動画を見て寝落ちしてしまい、朝起きたらこんな状態だ。


朝っぱなからおはよう♡と普段の数倍色っぽく言われ、今朝食を食べるまでずっとくっついている。


だから何故ここまで豹変してしまったのかが分からない……。


「……エイジさん。凛明のことより私のことを見て」


「えっ?うおっ!?」


俺の顔を無理やり手で紗耶香の方に向けられる。そこにはぷくぅといじけたように頬を膨らませている姿があったが……なぜだが、今の紗耶香の姿を見た時、違和感しか感じなかった。


「いい?これから私と一緒にいるときは私だけを見て?私もエイジさんのことずっとずっと…ずぅっっと見て、そして考えますから……いいですね?」


「……は、はい」


「……にしし。よろしいです」


……今の彼女を刺激するのはまずい。紗耶香に気づかれないように二人に向き合ってから頷き、なんとか紗耶香が学校に行くまでの間をやり過ごすのであった。





「……ふぅ……あれは一体……どうしたんだ…?」


紗耶香はそのまま学校に行って数時間後、俺はソファに座りこんで彼女のことを考えていた。


……配信について話すのは……今の彼女にとってはまずいな。最近、彼女の動画が更新されてないし……原因は配信と考えるべきなのか?


前兆は……あったといえばあった。それが明白になったのが、あの旅行の時に彼女が話してくれた悩みだ。


もしかしたら、紗耶香にとって大きな悩みだったのかもしれないな……すぐに配信を見たほうがいいか?今なら時間もあるし……。


「……お疲れ様ですエイジさん……あまり身体を酷使してはだめですよ?」


「あっ、栞菜さん。わざわざありがとうございます」


彼女からお茶の入ったコップを貰い、一口だけ口に含む。


……うん、やっぱり落ち着くにはこれが一番だよな。


「……紗耶香のこと、ですよね」


「はい。突然、あんな風に急変してちゃって。俺にもなにがなんだか……何か知ってるんですか?」


「……詳しいことは分からないのですが……一つ、エイジさんにお教えするべきことが」


すると、栞菜さんが真剣な表情に変貌する。そんな彼女の姿を見て、俺も不思議と緊張感が増した気がした。


「……一体それって?」


「………私たちの、生い立ちについてです」


「ッ!……生い立ち、ですか……」


……ここで、初めて栞菜さんの言葉から聞かれるのか……三人の、生い立ちについてが。


「……私たちは三人は……という、親に捨てられた、もしくは親のいない子供だったんです」


「……か、栞菜さんたちが?」


……いや、思えば不思議な話ではない。そもそも俺が来るまで、この部屋は前の家事代行の人がしてくれたんだ……何故三人の親がこないのなんて、納得が出来る話しじゃないか。


「……その中でも、紗耶香少し複雑で」


「?紗耶香が??」


……なんだ?なんでこんな胸騒ぎがする?


そんな嫌な予感は……彼女の言葉によって見事に的中することとなった。




「紗耶香の両親は……数年前のある事故で亡くなっています」




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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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