第44話 お待たせ
芦田兄妹との打ち合わせをして数日後。
俺はあの時結奈ちゃんと再会した喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
最近だとここのコーヒーを飲むのが習慣的になってきた。
そんなことを考えてると……どうやら来たようだ。
「すみません先輩、お待たせしました」
「いやそこまで待ってないよ。今来た所だから」
「……その割にはもうコーヒー飲んでるようですけどね」
「あ、あはは……まぁまぁ遠慮なく座ってよ。話したい事があるからさ」
相変わらず毒舌なのか、それとも鋭いのか……いやどっちもだね。
「……それでお話というのは?もしかして動画の事ですか?」
店員に注文しながら、結奈ちゃんは席に座って聞いてくる。
「ううん。動画についてはあれでいいと思うよ。でも最近腕上げた?凄い見やすくなってて面白かったよ」
「えっ……そ、そうですか?」
「うん。テンポ感があって面白いし、前俺が言ってくれたこと守ってくれてるみたいだし……流石の才能だね」
「……そ、そんなこと言っても何も出ませんよ……えへへ」
言葉の割にはとても嬉しそうに顔をニヤけさせている姿に口が緩んでしまう。
相変わらず可愛い後輩だこと。
「あ、でもそれだったら一体なんの用ですか?」
だがそれも束の間。疑問が湧いたように彼女は俺にそのように聞いてくる。
「……結奈ちゃん」
「は、はい……?」
「今回結奈ちゃんを呼んだのは他でもない……前話した事覚えてる?」
俺がそう言うと彼女の表情が驚愕に染まった。そして、こちらに身を乗り出して……。
「も、もう準備が出来たんですか!?」
「う、うん……とりあえず落ち着いて。今から話すから」
彼女の両肩に手を置いて、彼女を座らせる。そうしないと落ち着いて話せやありゃしないからね。
「……結奈ちゃん。これは、俺から一つの提案でもある。だからどう判断するかは君に任せる。でも、これだけは約束する。きみの夢を無駄にしないと」
「……わかりました」
力強く彼女が頷いたのを確認して俺は再び話を再開する。
「近々、俺たちは新しい会社を設立する予定だ」
「か、会社を設立……?そんな大層なことが……」
「会社の名前はエーブル。主に大物の配信者を中心に視聴者のみんなを楽しませるために色々な企画を準備をしたりするつもりだよ」
「き、企画……!それに大物の配信者とのコラボも……!そ、それって勿論私も参加出来るんですよね!!」
すると、彼女の目がキラキラと輝き始めてる。
「うん。結奈ちゃんが会社に入ったらね」
「わぁ!えぇ!どうしよう……!ちょっと楽しみになってきた……!」
……ん?なんかやけに前向きだなこの子。もっとこう、戸惑ったりするかと思ったけど。
「……なんか、随分と前向きに考えてるだね」
「え?そりゃあそうですよ」
すると、彼女は目を細めて口を緩ませてから当たり前のように呟いた。
「だって、先輩が設立した会社なんですよ。楽しみになるし……ワクワクしますよそんなの」
「結奈ちゃん……」
「……ブリティアは辞めます。というより結構前に辞職届を提出したので、今は私、無職なんですよ」
「えっ!?」
そ、そうだったのか……知らなかった。
「だから、先輩」
先ほど注文したカップを持ちながら、少し子供っぽさを醸し出して俺に言い放った。
「私のこと、拾ってくれませんか?貴方の元で働いてみたいんです」
「……調子のいい後輩だこと」
その答えに少し苦笑しながらも俺は手を差し出す。
「こちらの方から願いしたい結奈ちゃん……いや、実況者リアナさん……株式会社エーブルに来てくれないかな?」
「……はい!」
まるで苦しみから解き放たれたように彼女は屈託の笑みを浮かべてくれた。
(……そっか、この子も……苦しんでいたんだな)
自分の夢が徐々に潰されて、思い通りにならなくて……やりたいことも目指したいものも無くなって……それでも彼女は耐えて見せた。
立派だよ結奈ちゃん。君は……自慢の後輩だよ。
「……違いますよ、先輩」
「えっ?」
まるで俺の心の中を呼んだかのように彼女はそう呟いてくる。
「私は、そこまで強くなんかありません。先輩がいなくなって……とても不安な気持ちになりました。会社で自分のやりたいことが出来なくて……先輩に八つ当たりもしてしまいました……そんな私がここまで耐えれたのは……」
「……先輩の、お陰なんですよ?」
「……そっか……ごめんね待たせちゃって」
「ほんとですよ……いつも先輩は、遅いんですよ」
そう言いながら彼女の笑顔を見て俺は思った。
——絶対、この会社を大きくさせると。彼女の……彼女たちの夢と信頼を背負って……。
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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
次の更新予定
2024年9月21日 07:02
会社にクビと宣言された俺が登録者500万人以上の独占欲の高い配信者に拾われる話 近藤玲司 @WTAsho36
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