第42話 まだ知らない事実


あの上司をなんとか追い払った後、俺は凛明を背負って帰宅していた。

家の扉をなんとか開けていると、そこには心配そうにして待っている紗耶香が立っており、俺達を見てこちらに駆け寄ってくる。


「エイジさん!大丈夫ですか!?怪我とかしてませんか!?」


「ただいま紗耶香……俺は大丈夫。それより凛明のことをお願い出来る?」


「ッ!凛明っ!!」


紗耶香に背を向けておぶっている凛明を任せる。その間に俺は靴からスリッパに履き替えていく。


「……ただいま……紗耶香」


「もうっ!心配ばっかさせて!目を離したら急にどこかに行っちゃうんだからびっくりしたじゃないのよ!」


「……ごめん」


「……どうせエイジさんのこと心配で戻ったんでしょ?ったくほんとに……子どものときから何も変わってないんだから」


そう言いながら、紗耶香は凛明のことを優しく抱きしめている。いつもは姉妹喧嘩みたいに騒いでる二人だけど……こうして間近に見てみると、お互い大事にしてるんだなって分かる。


「紗耶香、栞菜さんは?」


「あ、はい。今はリビングにあるソファで寝かせています」


「分かった。じゃあ凛明のこと頼んだ。腰抜かしちゃったらしいから」


「え、エイジ……!」


言わないでとでも言ってるかのように目線で訴えかけてるが、そんなものは軽くスルーして俺はリビングに向かっていく。


「……凛明?」


「あ、あぅ……」


……こっぴどく紗耶香に怒られて、危ない行動はしないで欲しいものだ。あのとき凛明が言ってくれた言葉は嬉しかったけど……やはり、心臓に悪いからね。





リビングの扉を開けると電気はついてるようだけど、いつもよりも暗い。きっと栞菜さんが寝やすいように紗耶香が気を遣ってくれたのだろう。


ソファを見ると、そこには掛け布団を掛けて気持ちよさそうに眠っている栞菜さんの姿があった。


「……今日のコラボ、きっと緊張してたんだろうな」


だったら羽目を外してお酒なんて飲まないと思うし。そう思いながらも、キッチンの方に足を運んで行く。


「そういえば栞菜さん、二日酔いなんてするんだろうか……念の為、水でも用意しておくか」


コップを出して、ペットボトルに入っている水を入れていく。周りが静かだからなのか、いつもよりも水が出る音が響いて、それがまた心地いい。


十分に水を入れた所で、コップを持って彼女の所に向かい、ソファの前にある机に静かにスッとコップを置く。


「……これで、栞菜さんは大丈夫かな……?」


……なんか、子供の寝顔を見ているみたいだな。

彼女の気持ち良さそうに眠っている様子を見てから、今も廊下で説教をしてるであろう紗耶香達の所に行こうとして……ぎゅっと俺の手が静かに掴まれた。


「?栞菜、さん……?」


起きたのだろうか。彼女の方を見ると……どうやらまだ起きてないみたいだ。でもその顔はさっきの気持ちよさそうな様子とは真逆で……苦しそうだった。


「……おかあ、さん……おとう、さん……一人に、しないで」


「ッ!?」


その声はいつもの大人っぽい声とは違い……幼子の声でも聞いてるような感覚に陥った。


「さみしい……くるしいよぉ……」


その幼気な姿に思わず顔を顰めてしまい、無意識に伸ばしてる彼女の手を掴んでしまう。


すると、ビクッと身体を震わせたものの栞菜さんは少しだけ目を開いて、虚ろな瞳で俺のことを凝視してくる。起きたのか?


「……えいじさぁん」


すると、彼女の顔が薄っすらと笑みを浮かべた。だがまだ寝ぼけているのか、俺の手をスリスリと自信の顔に擦り付けている。


「えへへ……あったかい……気持ちいい……」


「……」


その様子を見た俺は……ただただ彼女の頭を撫でることしかできなかった。


「……えい、じ……さん………………」


その言葉を最後に栞菜さんは、スゥ…スゥ…と心地よさそうにしながら再び眠っていった。


「……栞菜さん」


……ここに来て大体一ヶ月は経った気がする。

三人とは仲良く暮らせてたと思う。毎日楽しく配信して、ご飯を作って、たまに騒いだりして……それも本当の家族のように……でも。


「俺はまだ……彼女達のことを何も知らないかもしれない」


三人の過去に一体何があったのか、そもそもどうして彼女達に親がいないのか……栞菜さんがここまで苦しそうにしていた要因はなんなのか……。


呻いていた栞菜さんを見て俺は、そんなことしか考えることしか出来なかった。



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