第40話 打ち上げと嘗ての……
『お疲れ様でした〜!』
その言葉とともにコップとコップがぶつかり合う音が響き渡る。
今、俺たちは無事?コラボ配信を終えた記念としてカッパ寿司で打ち上げをしている。
「いやぁ、後半からエイジさんの話ばかりでしたけど、なんとか成功に終わりましたね」
「……ん。初めてのコラボ……緊張した」
「二人ともお疲れ様。今日は俺の奢りだから、たくさん食べていいからね」
「ほんと!やった〜!さっすがエイジさん!」
「……ん。いっぱい食べる……ありがとうエイジ」
二人は俺の奢りだと思うと、遠慮を知らないのか次々と回っていく皿を取っていき、寿司を食べていく。
……こんなこと言ったけど俺の財布、大丈夫かな……?
「エイジさん。今日はお疲れ様でした」
優雅にコップを持ちながら俺に言ってくる。
それに対して俺は、水の入ったコップを栞菜さんのコップにぶつける。
「栞菜さんもお疲れ様でした。コラボ配信、とても良かったですよ」
「あ、あはは……最後はエイジさんの話になってしまいましたけど……そう言ってくれると嬉しいです」
……まぁ配信動画を見る限り、俺のことで視聴者も盛り上がったらしいからこれはこれでいいのかな……?
「……エイジさん。ありがとうございました」
「えっ、何がですか?」
突然のお礼の言葉に俺は思わず聞き返してしまう。
「コラボ配信の機会を与えてくれた事です。私の夢の一つが叶えられました」
「夢、だったんですか?」
「はい。いつか3人で配信に出る……みんなそれぞれ有名になってからコラボ配信をするという私の夢を……貴方は叶えてくれました」
赤みがかった頬をした妖艶な雰囲気をした栞菜さんの姿に思わずドキッとしてしまう。
「私、とても嬉しいんです。紗耶香と凛明でコラボ配信を出来たことが……だから改めてお礼をいいます。本当に、ありがとうございました」
「そ、そんな……俺はただ、きっかけを作っただけですよ。コラボ配信が出来たのも、人気になったのも、栞菜さんが……みんなが頑張った成果なんですから」
「……ふふ。相変わらず貴方は、変わりませんね」
目を細めたと思うと、そのまま皿の上にある寿司を口に運んだ。
その一つ一つの仕草がいつもより大人っぽくてドキドキしてしまう。
(な、なんだ……?今日の栞菜さん、凄い色気があるぞ……?)
「……はい、エイジさん」
「えっ……?栞菜さん?」
「ふふっ、一度エイジさんにやってみたかったんですよ。あーんを」
あ、あーん……?器用に箸で寿司をこちら向けてそんなこと言うんだから戸惑ってしまう。
「はいエイジさん。あーん」
「あ、あーん……」
栞菜さんの寿司が俺の口に入る。ふむ……エビのぷりぷりの食感がシャリにと合わさって美味しいな。
「じゃあエイジさん。私にもあーんをしてください」
「えっ……?」
「はい、あーん……」
大人っぽく髪をかきあげながら口を開けてこちらを待っている。
少し動揺しながらも栞菜さんと同じく箸で寿司を挟んでから彼女の口に入れた。
「……これは、サーモンですか……ふふっ美味しいです」
「そ、そうですか……」
……や、やばい。今の栞菜さん、妙に一つ一つの仕草が大人っぽいから顔を合わせられない。
そう思い前を見ようとして……二人がこちらに向けて寿司を向けてきた。
「え、エイジさん。その……口、開けてください……」
「……ん。私も、あーんする……初めてだから、受け取ってね?」
……紗耶香、別に頬を赤らめてまでやることじゃないんだぞ?それと凛明。とんでもないこと口走るんじゃありませんよ。
そんなことを思い、口を開けようとして……急に横から物凄い力で引っ張られた。
「むぐぅっ!?」
い、息が苦しい……。必死に目だけを上にあげるとそこには俺のことを抱きしめている栞菜さんがいた。
「ちょ、栞菜さん?エイジさんのこと離してくださいよ。あ、あーんが出来ないじゃないですか……」
「………いや」
「……私も、エイジにあーんしたい」
「……いや」
……ん?なんか栞菜さんの息が酒臭いような……。
「……って栞菜さん!もしかして酒飲んでるんですか!?」
「……なるほど……だから積極的……様子が違う」
「ん〜な〜に二人とも〜?私はべつに〜お酒なんて〜のんでないよ〜?」
すると、今度は栞菜さんの声が子供っぽい物に変貌した。
あぁ……なるほど。彼女、どうやら相当酒には弱いらしいね……。
「エイジさーん。えへへ〜エイジさ〜ん♪」
ぎゅう……と俺を抱きしめる力が強くなる。
く、苦しい……苦しい、けど……。
「もう!いい加減エイジさんを離してくださいよ栞菜さん!凛明、手伝って!二人を引き離すよ!」
「……ん……分かった……栞菜、エイジから離れて」
「あぁ!またエイジさんとわたしをはなそうとしてるぅ!!きょうはぜったい、ぜっーたいにはなさいよぉ!」
店の中だってのに相変わらずのわちゃわちゃしてしまう。
でも俺は何故だか注意する気にはなれなかった。
だって……3人の顔がとても幸せそうに見えたから。
◇
「いやぁ満腹満腹。エイジさん、ごちです!」
「……美味しかった……ありがとうエイジ」
「あ、あはは……ご満足そうで何よりだよ二人とも……」
栞菜さんを背負いながら俺は空になった財布を見て言う。
正直、もう少し限度ってものを感じて欲しかった感はある……。
「………お、お前!」
すると後ろから突然、懐かしくも聞きたくない声が俺の耳に入ってくる。
振り返るとそこには……。
「……なんで、貴方がここに……?」
ボロボロになった服を着た嘗ての上司……目黒茂がその場にいたのであった。
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