第31話 Vtuberとのデート
「……お、お待たせしました……」
今日は昨日言った通り、紗耶香ちゃんとのデートの日だ。
いつものパジャマ姿や制服姿ではなく、少しおしゃれした姿。
全体的に黒いワンピース姿に、小さな肩掛けポーチを掛けている。
「その……ど、どうですか……おしゃれ……頑張りました……」
「………」
……にしてもほんとに可愛いな。確か高校でも凄い数の人に告白とかされてたんだよな?
髪は黒髪の人と違ってたり、少し揶揄ったりすることもあるけど、根は真面目だし、なんだかんだでいい子なんだよな……。
「………あ、あのエイジさん……そんなに見られたら……恥ずかしい……」
「あ、ごめん。凄い可愛かったからついね」
「なっ…!?も、もう!そういうことは人前で言わないでくださいよ!……その…………二人きりの時なら……いっぱい……」
「?」
「……あーもう!さっさと行きますよ!」
俺の反応むしゃくしゃしたのか、紗耶香ちゃんは俺の手を無理矢理掴んで連れて行かれる。
……何故かその時の紗耶香ちゃんの手、すげぇ熱かった気がする。
◇
「……とりあえずどこか回りたい所とかある?」
「……そ、そうですね……私、いっぱいエイジさんと行きたいところがあるんです。今日は付き合って貰いますから、ね?」
未だに頬は赤いが、少しずついつもの紗耶香ちゃんに戻り始めてるのか、にしし……と控えめに口角を上げていた。
まぁ別に時間はいくらでもあるからいいんだけど……ていうかそんなことより。
「なんか、周りの視線が集まってるような……」
主に、紗耶香ちゃんに対する視線が多いけどね。
耳を澄ますと「なにあの美人……」だったり、「おっぱいでけぇ……」言う人が居て、中には見惚れてる人もいた。
栞菜さんと張れるくらいには美形だからねぇ……。
……まぁそのせいもあるのか、俺にくる視線は嫉妬の感情だけだったけど。
「みんなの視線が凄いですねぇ。一体どんな風に見られてるんでしょうか?あ、もしかして……恋人だったりして♪」
「う、うーん……流石にないんじゃないかな?どちらかというと兄妹の方が近い気が……」
「……エイジさんってやっぱり鈍感なんですね」
「えっ……うおわっ!?」
引かれる力が強くなった。よく見ると少しジト目でこちらを見ている紗耶香ちゃんの姿があった。ん?なんで?
「……はぁ、仕方ないですね。折角のエイジさんとのデートなんですからめいいっぱい楽しみますよ!」
そう言って、紗耶香ちゃんはとともにショッピングモールへと入って行った。
◇
「ということで、まずはごはんを食べて行きましょう!」
そう言いながら、モールの中にあるラーメン屋に入っていく。
「……紗耶香ちゃんって朝から大食いなんだね」
「何言ってるんですか?こんなの腹八分目にも入りませんよ?」
「そうですか……」
相変わらずの大食いっぷりに最早呆れてが出てしまう。
席に座った所で、メニューを開いて選んでいく。
「エイジさん何にしますか?私はこの大盛りのチャーシューたっぷりの味噌ラーメンを頼もうと思います」
「んー……じゃあ俺は普通の醤油ラーメンで」
最近だと注文もAIがしてくれるらしく、紗耶香ちゃんはテーブルにあったアイパッドをパパッと入力していく。
「あ、エイジさん。その醤油ラーメン一口ください。代わりに私の味噌ラーメンもあげますので」
「分かった……流石に一口で多めは食べれないよ?」
「……エイジさん、私をなんだと思ってるんですか……」
再びジト目になる紗耶香ちゃん。軽くスルー……。
「あ!目逸らしたな!!この!このぉお!!」
「い、イテテテテ!?さ、紗耶香ちゃん!ほっぺ!ほっぺ痛いって!?」
「にししっ。私のことを一口がデカくて大きすぎる女と思った罰です!ありがたく受け取ってください、ね!!」
「いっっって!?俺そこまで言ってないよ!?」
そんなやり取りをしている間にどうやら注文の物がきたらしい。普通サイズのラーメンと……物凄いデカい味噌ラーメンが。
「じゃあはい、エイジさん」
「ん?あぁ」
彼女が頼んだ味噌ラーメンを一口貰う。
ふむ……定番っちゃ定番だけど、やっぱり美味いな。
「エイジさんのもください。交換です」
「分かった分かった。少し待ってて」
彼女の急かされ、自分の箸で掴んだラーメンを紗耶香ちゃんに持っていく。
「はい、あーん」
「あーん………うん、やっぱりおいし……い………」
ん?どうした?急に時間が止まったかのように固まったぞ。
彼女を見ながら、俺もラーメンを口に入れる。
「………あ、あわわわわわ………!?」
すると、今度は壊れたロボットのように挙動不審となり真っ赤にさせた顔で彼女の箸と俺を交互に見ている。
「食べないの?」
「ぇ………ぁ………は、はぃ………」
そう言ってちょぼちょぼとラーメンを啜っていく紗耶香ちゃん。
……その割には結構減るのが早かった気がするけど。
そうして、食べ終わって紗耶香ちゃんと一緒にモールの中を回って行った。
その時の紗耶香ちゃんは……まぁ、想像に任せるよ。
◇
「……あっエイジさん!見て見て!これ、凄い可愛い服!」
あの後、再び勢いを取り戻した紗耶香ちゃんはとにかくはしゃいでた。
たくさんの服を着ては、おしゃれをしてみたり、ゲーセンでは対戦しまくったり……初めて動かしたからなのか、ボロ負けされたり……好きな漫画や本を見つけては目をキラキラさせたりしていた。
……だけど。
「……よし、終わり。じゃあ次々!」
……商品をあった場所に置いて、次の所へと向かっていく。
「ねぇ紗耶香ちゃん。欲しいものはないの?さっきから何も買ってないんだけど……いいの?」
「えっ……あ、あぁ……確かにそうですね……」
少し歯切れが悪そうに答えてる姿に疑問を持ってしまう。
「?何か事情があるの?」
「いえ、その……そういうわけじゃないんですけど……あの、笑わないでくれますか?」
「?うん」
「……なんか、勿体無いじゃないですか」
「勿体無い?」
「うん。その、確かに凄い可愛いものとか、目を惹かれるものとかはあるんですけど……元々私たちって貧乏じゃないですか?だからあんまり買うっていうのは……無駄遣いじゃないかな……って」
……そうか。確かに栞菜さんも含めて、どうやら親とか頼れる存在はいないらしいし、節約気味なんだろうな。
「そっか……優しいんだね、紗耶香ちゃんって」
「えっ……そ、そうですか?」
「うん。元々そんな性格だったかもってのもあるかもだけど、二人のために買わないんでしょ?優しい以外に何もないよ」
「………そ、そうなんですね……へ、へへ」
ちょっぴりはにかんで笑う紗耶香ちゃん。そんなに嬉しかったのか?
「……これをみんなに言うと、笑われてたり、茶化されたりしててなんか……あんまり気分良くなかったんだ……だから」
ぎゅっと彼女の握りしめる力が強くなる。
「だから、エイジさんに……憧れの人にそう言って貰えて私……すっっごい嬉しい……!」
「……そっか」
ついその言葉に口元が緩んでしまう。
「……じゃあそんな紗耶香ちゃんに朗報だ」
「おっ、なんですかな?」
「今から紗耶香ちゃんが俺にして欲しいことを一つだけしてあげる……なんでもね」
「えっ……ほ、ほんと!?」
さっきの笑顔とは違い、目をキラキラとさせてこちらを見ている。
「あぁ本当だとも。さぁ言ってみたまえ紗耶香君」
「えっ、えっ!ど、どうしよう……急にそんなこと言われても何も出ないよぉ……」
あわあわとさせてながらも必死に考えてるのかうーん……と唸っている。そしてしばらく経って……。
「…‥タメ口」
「ん?」
「その……凛明みたいに……タメ口で話して欲しい……かも、です」
「……そんなことでいいの?」
「……私は、そうして欲しいです」
……まぁ、別に減るもんじゃないし、いいか。
「……分かった。じゃあ少し乱暴な口調になるかもだけど、それでもいいならよろしく……紗耶香」
「〜〜〜!!!はいっ、エイジさん!!!」
……このデートで、彼女のことが知れてよかった。
そう思いながら、残りの時間を使って……紗耶香ちゃんとのデートは無事終わったのだった。
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