第19話 ゲーム配信者とのデート
栞菜さんからデート?というなの買い物に誘われたということで、今俺たちは外着用の服に着替えて街を歩いている。
「栞菜さん。買い物ってなにを買いに行くんですか?」
「あらエイジさん、そんなに急かさなてもいいじゃないですか。折角のデートなんですから、楽しみましょう?」
「は、はぁ……」
いつもと少し違う妖艶染みた雰囲気を漂わせながら栞菜さんが言ってくる。
他の人の服装と少し違い、栞菜さんの服はよく芸能人がよく身につけてる黒眼鏡やキャップをつけている。
白いカーディガンに藍色のジーパンというシンプルな服装だが、元々栞菜さんが美形ということもあり、そのコーディネートがより輝いて見えた。
「エイジさん。今思っていることは直接口で言わないと伝わりませんよ?」
「えっ?な、なんで俺の考えてることがわかるんですか?」
「初配信からずっとエイジさんを見てきたから分かっちゃいますよ。ふふ、ですが……やはりエイジさんの口から直接言ってくれた方が嬉しいです」
そ、そういうものなのか?確かによく服装を褒めるといいとは聞くけど……正直、よく分からないものだ。
「えっと……大人っぽいイメージの栞菜さんと合っていてとても似合っていますよ」
「……なんだか取ってつけたような言い方で嬉しくありません」
「い、いえいえ!そんな!本心ですよ!!」
「……ふふっ冗談ですよ。ありがとうございます」
悪戯っぽく笑う彼女に思わず冷や汗をかいてしまう。な、なんだかいつもの栞菜さんと少し違うような……?
「さっ、時間は有限ですので早くいきましょうエイジさん!」
「え、うおっ!?」
強引に手を引っ張られバランスを崩しそうになりながらも、転ばないようにしっかりとついていく。
その時の栞菜さんの表情、今までで一番楽しそうで思わず笑みを浮かべてしまった。
(……もしかしたら楽しみだったのかもな。じゃあ栞菜さんがもっと楽しめるように、俺も頑張りますかね)
それだけ胸にしまって、彼女とのデートが始まった。
◇
「これって……」
「はい、まずは私の趣味であり、仕事道具でもあるこれを買いに来ました」
そう言って栞菜さんが目的のものを手に取り、俺に見せてくる。
「今日発売の新作だから、正直もう売ってないかと思いましたが……どうやら大丈夫でした」
「ゲームソフト、ですか。確かこれって某任天堂の最新作の……」
「そうなんですよ。今少しだけネットでレビューをみてみましたが、とても好評のようで。私も楽しみにしてたんです」
ルンルン気味のまま栞菜がお店の受付に行きそのゲームソフトを購入した。
「ふふ、楽しみだなぁ」
「やっぱり、栞菜さんってゲームが好きなんですね」
「もちろんですよ!ゲーム配信者として活動するのは当たり前ですが、こうやって好きなものに時間を費やすことも大事ですから」
んふふっと店から出ても尚、楽しみで仕方ないのか、スキップしてるように見える。
「あ、もちろんエイジさんもしっかりと誘うので、私とゲームの感想を語り合いましょうね」
「それはとても楽しみですね。その時は是非語らせてください」
「はい、たくさん語っていただきますね……ふふふ、楽しみがまた一つ増えました。エイジさんと一緒にゲーム……嬉しっ♪」
「……じゃあそろそろ他のところへと行きましょうか」
「あ、そうですね。私としたことが……では」
当たり前のように俺に手を差し伸ばしてきており、少し苦笑してしまう。
手を繋ぐのは必要事項なんですね栞菜さん……思ったことを口には出さず、手を取ってそのまま次の場所へと歩き出した。
◇
ゲームソフトを買った後は様々な場所へと向かった。
栞菜さんと初めて一緒に行った喫茶店で昼食を取ったり、ファッション店でオシャレをしてみたり、本を手に取ったりと様々だ。
そして、今俺たちはショッピングモールで今日の夕食の準備をするべく、買い物をしていた。
「あ、あはは……なんだか思った以上に楽しんじゃって、本当の目的を忘れるところでした」
「そうなんですね……でも良い事じゃないですか。たまにはこうして外で出掛けてリラックスをするのも大事ですよ」
「……それもそうですね。あ、エイジさん。今日は何にするんですか?」
「今日はカレーにでもしようかと」
「まぁ!紗耶香と凛明が喜びますね。私も好きなので嬉しいです!」
「……な、なら多めに作らないとな……」
この三人の胃袋が満足するまでの量のカレー……やばい、想像するだけで頭が痛くなってくる。
そんなことを考えてると、突如として栞菜さんが立ち止まって心が奪われているかのようにそれをじっ……と見ている。
「?栞菜さん?」
「っ!?ご、ごめんなさいエイジさん。少し立ち止まってしまいまして……」
「……指輪、ですか?」
「え、えぇ……とても綺麗で目を奪われてしまって……」
そこにはシンプルに控えめながらも、中心にあるダイヤモンドと共鳴するように美しく際立っていた。
「……買いましょうか?」
「え、えぇ!?いや、そんな……わ、悪いですよ!!それに、凄く高値で……」
「……じゃあ、俺が買いたいと思ったから買いますね」
「えっ?あっ……」
彼女の静止なんて気にせず、他のアクセサリー比べても高いその指輪を買っていく。
「すみません、これください」
「はぁーい……これ、そこの彼女さんにですか?」
「そんな感じです。日頃の感謝も込めてということで」
「まぁ、とっても素敵ですね!彼女さん、きっと幸せだと思いますよ〜?」
揶揄われながらも受付さんとそんなやり取りをして、指輪を購入した。
「……え、エイジさん……」
「あ、しまったなぁ。これは俺には似合いそうにないなぁ……と、いうことで」
一人芝居には程遠い演技をしつつ、彼女のその細長い指に指輪をはめていく。
「俺から日頃の感謝の気持ちです。受け取ってください栞菜さん」
今も唖然として自分の指にはまっている指輪を見ている彼女に話しかける。
瞬きを何度もし、時が止まったかのように動きも見せないで……しばらく経つと、彼女の目から涙が溢れ始めた。
「えっ!?ちょちょちょ!!栞菜さん!?」
や、やっぱりだめだったのか!?少し大盤振る舞いして見たけど……俺には似合わなかったのか!?
「ご、ごめんなさい……な、涙、止めようにも止めらなくて……」
鼻をすんすんと音をたてながら、こちらに向いてきた。
「……私、二人を支えないとってずっと思ってて……こうしてお金を稼げるようになったのもやっとで……こんな……こんな風に人から物を貰ったことがなくて……」
「……栞菜さん」
……そっか。栞菜さんも頑張ってたんだな。三人の事情は今の俺には分からないけど……きっと生きるのに必死だったんだなってのは伝わった。
「…………俺、栞菜さんに出会えて良かったです」
「……ぇ?」
「前の俺は仕事にやりがいがあって、誇りを持って働いていて……でも、こうして誰かと一緒に楽しむことは絶対に出来なかったと思います」
思えば、彼女との出会いなんて偶然だ。もしあの時声を掛けられなかったら、きっと俺の人生は消化試合になっていたことだろう。
「……紗耶香ちゃんや凛明、そして栞菜さんが俺を受け入れてくれたから、今を楽しく生きることが出来ています……だから」
伝えないといけない。想いは口で言わないと伝わらないだっけ?
「……俺と、出会ってくれてありがとうございます」
「……もう……もうっ……もうっ!!」
俺が伝え終わると、さっきよりも涙でぐしゃぐしゃになっていた栞菜さんが目に入った。
「……なんで、私よりも先に言っちゃうんですか……私の方が、貴方にたくさん救われているのに……」
「……」
「……エイジさんがあの時、動画を投稿してくれたから……あの時、エイジさんが私に生きる勇気をくれたから……あの時……エイジさんがこんな私たちを受け入れてくれたから……今、私は……私たちは、幸せなんですよ?」
「……そう言ってくれると、俺も嬉しいです」
「もうっ!なんなんですかその反応!私はこんなに泣いてるのに……エイジさんの鈍感」
「え、な、なんですかそれ?」
鈍感だと?これでも物音には敏感だと思うんだけど……。
「……エイジさん」
「はい?」
「……ありがとう、ごさいます。この指輪……大切にします……!」
その時の彼女の表情は、とても幸せそうで……とても綺麗だった。
そんな彼女に見惚れていると、周りの人がざわざわしていることに気がついた。
「……帰りましょうか栞菜さん」
「……そうですね……エイジさん」
ぼそっと彼女が何か言った気がしたが、そんな考えも与えてくれず、そのまま手を引っ張られ、俺たちは家へと帰って行った。
……その時の栞菜さん、こう言ってる気がしたな。
『貴方に出会えて、本当に良かった』って。
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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
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