第16話 配信者を敵にした末路〜AOブリティア〜



「一体どうなっている!?何故次々とスポンサーとの契約が打ち切られているんだ!!」


社長室全体に男の……AOブリティアの社長である桑島吾郎くわじまごろうの怒号のような叫び声が響き渡る。


「そ、それが……このようなものがネットに広がって……!」


怯えながらも、彼の隣で立っている秘書のような女が自身のタブレットを吾郎に見せてくる。


「……な、なんだこれは!?」


そこに映っていたのは、数々の社員にパワハラやセクハラをしている目黒茂の姿の映像であった。


「目黒課長の映像がネットに漏出されて……それを見たスポンサー方が次々とうちとの契約を切ってきて……!」


「な、なんなんだ!私は知らないぞ!こんな醜態は!!」


桑島吾郎は今では社長という役柄ということもあってか、見回りきれない所もあったが、社員のことは何よりも大事にしていた。


インタビューでも、ここまで成長出来たのは社員全員がいたからと言及したり、暇があれば、打ち上げを上げたりもした。


だから、この映像を間近で見て驚愕を露わにしていた。


「っ!?しゃ、社長!!ユーチューブを開いてみてください!!この醜態を取り上げている配信者が!?」


「なんだと!?」


持っているタブレットを置いて、自身のスマホでユーチューブを開く。すると開いてすぐに目的のものが見つかった。


「て、天晴あおいだと!何故彼女がこれを取り上げている!?」


今もライブ配信をしている彼女の動画をポチッとタップする。


『ねぇみんなこれどう思う?うちこれ見つけた時、凄い不愉快になったんだけど……社員を大切にしない会社は駄目だと思うんだけどなぁ』


:分かる


:いまどき、こんなブラック会社ってあるんだね


:ほんとにないわ〜


『だよねだよね?みんなは大丈夫?これを機にいい会社で働いてよね?そんでこれからもうちの配信は見にきてね〜』


:現金な女で草


:くそわろたw


:心配するふりして俺たちに配信を見させようとしているよこの子……


『ちょ!?そ、そんなんじゃないよ!初見さんが勘違いしたらどうするの!?あ、初見さーん?うちの配信は気軽に見てくれるだけでいいからね〜?』


にししっと、徐々に和みのある配信になっているが……それを見た二人は顔を真っ青に変貌せていた。


「霧切くん……今すぐに目黒のバカを呼んでこい……今すぐにだ!!」


「は、はいっ!」


確実に迫っている危機感を感じ、すぐ秘書に指示を出す桑島。


秘書の霧切が出て行った後、彼は世間の反応を確認していた。


(い、いかん……!天晴あおいの影響もあってか、うちの評判が急激に落ち始めている!?スポンサーも次々と打ち切られていくのに……!私自身が説得してみせるしかないか……)


そんなことを考えていると、突如ドアのノック音が鳴り響いた。


「……誰だ!こんな時に!」


桑島自身もあまり落ち着いていなかったためか、つい声を荒げてしまった。誰が相手かも確認せずに……。


ドアの開く音がした。時と場合を考えろ!そう思い、口を開こうとして……無意識に開いていた口を閉じてしまった。


「……社長さんにご用があったんだがね……邪魔をしちゃったかな?」


「な、なぜ貴方がここに……!?」


目の前にいたのは、白銀色の長い髪を結び、50代とは思えない程の絶世の美形。雰囲気だけで相手を萎縮してしまうその人物は……。


「……皇、会長!?」


……日本の三代財閥の一角、皇グルーブ会長、皇光彦すめらぎみつひこ本人であった。


「少しここに用があってね。入らせてもらうよ」


そう言って皇は桑島ですら圧倒される雰囲気を纏ったまま、部屋にあるソファへと座り込む。



「い、一体私にどのようなご用が……?」


「もちろん、君たちの件についてだよ。いや見たよあれ。随分と大変なことになっちゃったね」


「ゔっ……め、滅相もありません」


「きみには期待してたんだけどなぁ……まぁ、責任問題とはいえ、きみが全部悪いとは言えないんだけどね」


そう言いながら、彼は複数の紙をテーブルの上へと置いていく。


「これ、誰かに訴えられているらしいよ?名誉毀損、損害賠償にチラホラ……あーあ、凄いあるね」


「な、なんですと!?」


紙に書かれていたのは、AOブリティアを訴えることばかりの内容でいっぱいであった。


「これまずいんじゃない?いくら大手だからってここまで証拠になるような映像があると、勝ち目なんて皆無だよ」


「そ、そんな……」


膝からがくっと崩れ落ちる。無理もない、今まで積み上げてきたものが裁判の一つや二つで呆気なく散っていくのだから。


「まっ、僕はその救済としてここに来たんだけどね」


「き、救済……助けてくれるんですか!?」


「勿論。ただし、二つ条件があるけどね」


「じ、条件……それは一体?」


「まず一つ、AOブリティアが僕たち皇がグループの傘下に入ること」


その条件を聞いた瞬間、桑島は息を飲み込む。


確かに皇グループの傘下に入れば賠償請求などに対する資金の調達が容易になる。


だが、元々独立してここまで大きくさせていた桑島にとってはとても残酷な選択であった。


「あぁ、別に拒否してもいいよ?でも、その時にはAOブリティアは全部パァになるから、そこは理解してね?」


そう言ってくるが、彼の思惑はとても容易い。


問題になってはいるものの、超大手の映像会社を掌中に収めることが出来る。彼にとっては喉から手が出るほどのチャンスでもあった。


(……ここまで、か)


多少失うものがある。しかし……社員を守るためならばという思いを胸に答える。


「……分かりました。私たちは皇会長の傘下に入ります」


「お、いいの?いやぁ、社長さんはそう答えてくれると思ってたよ。嬉しいなぁ……」


「……それで、二つ目というのは?」


「あ、余韻にひたらせてくれないんだ。まぁ、いいけど……二つ目の条件はね」


皇光彦が発言しようとした瞬間、ドアを叩く音が再び部屋に鳴り響いた。


「社長、お待たせしました。彼を連れて参りまし……す、皇会長!?失礼いたしました!?」


「あ、霧切ちゃん久しぶり。相変わらず美人さんだね……っと後ろにいるのは……へぇ」


そこにいたのは秘書である霧切と……今回の問題の騒動になった目黒である。


「も、申し訳ありませんでした!!」


社長室に入った瞬間、すぐに桑島に土下座をする目黒。しかし、それで許されるはずがなく……。


「一体きみはどういう神経をしているんだ!!社員を大事にしろとあれほど言ったではないか!!!」


「わ、私なりに部下を大切にしたつもりです!ど、どうかお許しを!!」


「やかましい!!それなら何故あの社員が辞めてからここまで悪い方向に向かっているのだ!?きみが何かしたんじゃないのか!!」


「そ、そんなわけありません!あれは……そう!ただの悪戯なのです!!何の根拠もないいた——」


「——あのぉ……悪いんだけどさ」


「「っ!?」」


なんの変哲もない普通の声。しかしそこには確かな圧を放っていた。


「僕から話したいことがあるんだよね……いいかな……桑島くん」


「……わ、わかりました」


すると、彼は目線を今も床に頭を擦り付けている目黒に向けて言い放った。


「きみ、首ね」


「……えっ?」


「あれ、聞こえなかった?じゃあもう一度言うけど……きみ、首ね」


未だに氷のように固まっている目黒。その言葉の意味が分かると、徐々に顔色が青ざめていった。


「な、何故わたしが!?」


「え、だってそうじゃん?この騒動の原因はきみだもんね?それならクビにしないと」


「そ、そんな……!しゃ、社長!!どうかお慈悲を!!」


「……悪いが目黒、私も今回ばかりは頭にきている……私に期待しないでくれ」


「そ、そんな……」


「あぁ、それと。多分損害賠償とかで結構デカい額がくると思うから、頑張ってね〜」


「………は、ははは……」


乾いた笑い声が静かに部屋中に響き渡った。表情に感情がなく、ただあるのは絶望だけ。しかし、これも自業自得としか言いようがない。


「……さて、僕はそろそろお暇させてもらおうかな」


「……皇会長。ありがとうございました」


「あはは、気にしないでよ。僕にも利益があったし……それに——」


「——懐かしい子からのお願いだったからね」


そう言って首にかけてあるネックレスを見せびらかすように触っていた。


「じゃ、今度こそ行くよ。また今度ね〜」


そして言葉通りに皇光彦は社長室から出て行った。


(……しかし、一体誰がこんなことを……?)


考え始めるが……賠償の件や天晴あおいの件、皇光彦の件で頭がいっぱいであった。


だがまだまだやることがあると思った桑島は少しの間、頭を休ませてから動き始める。


「……じゃあ私は他の会社や配信者たちの所へ行ってくる。霧切くん、君はそこにいるバカを外に追い出して車を出してくれ」


「分かりました社長。すぐに実行します」


宣言通り、目黒茂の足を引っ張り部屋に連れ出そうとする。


「い、いやだ!!俺はまだあそこにいるんだ!!社長!!どうかお慈悲を!!お慈悲をぉおおおお!!!」


そんな悲痛の叫び声が彼らに届くはずもなく……無慈悲に扉が閉められた。




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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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