第15話 思い知らせてやる〜配信者〜


「……は?どういうことっすかそれ?」


表情が消えた紗耶香がスマホの音声を聴きながら栞菜に問い詰めていく。


その迫力からは少し前に起きた修羅場とは比にならないほどで、その証拠として瞳は黒く歪み、天晴あおいの中の人とは思えない絶対零度のごとくのオーラを放っている。


「……言葉の通りよ。あの会社……正確には前のエイジさんの上司だった人?が接触してきたわ」


「は?は??は???いやいやいやいや……は????その人頭おかしいんじゃないんですかね?だってエイジさんを捨てたのだってその人なんですよね?なんで当たり前のようにエイジさんを呼び出しているんですか?意味わかんないんですけど」


「紗耶香、少し落ち着きなさい……気持ちは凄く分かるけど、まだ暴走させる時じゃないわ」


「……どういうこと?……エイジを、引き抜こうとした……?」


「……そういえば、凛明にはまだエイジさんのことについて話していなかったわね」


そう言って栞菜は凛明に軽くエイジが会社をクビにされたことについて話した。


それを聞いた凛明は……力強く机を叩き出した。


ドンッ!!!


彼女らしくない過激な行動、しかしそれを間近で見ていた二人は特に何も言わない。


「………それ、ほんと…?」


「……事実よ。現に、エイジさんのスマホから色々なデータが見つかったわ」


今日録音したであろうデータを止めて、彼が今まで貯めてきたパワハラやセクハラの音声が部屋の中で響き渡る。


その中でも特に雄介に被害が被ることが多く、それが彼女たちの中に煮えたぎっていた怒りが劣化の如く燃え始めていた。


「………は、はは………はははは……駄目だよ栞菜さん……私、こんなの耐えらんない」


「紗耶香……」


「なんで??なんで???なんであの人がここまで苦しまなきゃいけないの?分かるでしょ?あの人は……エイジさんは私たちに光を与えてくれた、恵んでくれた、生きる道を教えてくれたんだよ?それなのに……またそいつはエイジさんを地獄に引きずりおろすってわけ?そんなの……ぜっっったいに許さない……!!」


紗耶香は今手に持っているスマホを握りしめながら、リビングから出ようとする。


「待ちなさい紗耶香。まだ話は終わってないわ」


「今からこれについて配信で話してきます……地獄を見せつけてやるんです」


「まだ駄目よ。今は落ち着いて」


「っ!!栞菜さん、我慢ならないんですか!?エイジさんが苦しんでいるんですよ!?どうしてそんな冷静になれるんですか!!」


「……冷静なわけないでしょ」


「ッ!?」


怒りを抑えているが、栞菜から滲み出た言葉には隠しきれない怒りと憎悪が煮えたぎっていた。


その姿を見た紗耶香は今までここまで怒りを露わにしたことがない彼女の姿に萎縮してしまい、足を止めてしまう。


「……まだ、駄目よ。それだけじゃあの糞は……地獄に落とせない」


そう言いながら、彼女は俯いていた顔を前に向けて……ニタリと口を歪ませている。


「そのために二人を呼んだのよ。エイジさんに詰め寄る害虫は……駆除をしないといけないでしょ?」


「……そう、ですね」


未だに怒りは収まらないが、栞菜のその得体の知れないものに恐怖を感じてしまい、同時に落ち着いた紗耶香は机の方に向かい、椅子に座っていく。


「凛明もそれでいいでしょう?」


「……ん。当たり前」


凛明の表情は変わらない。しかし、手を見てみると、血が滲むほど握りしめており目も不思議と怒りを宿している。


「……でもどうするんですか?私的にはあの会社ごと地獄に突き落としたいのですが……」


「それはだめよ。認めたくはないけれど、AOブリティアは映像会社の中でもトップに君臨するところよ。もし倒産でもしたら、日本社会にも影響が出始めるわ……落とすこと自体は簡単だけどね」


「だ、だとしても……」


「それに……もしそんなことをすれば、エイジさんが悲しむことになる……そんなの、私は望んでいないわ」


「……エイジが悲しむ……それはだめ……」


「そ、そうですね……私としたことがうっかりしていました……」


「……じゃあどうするの?」


「そんなの、決まっているわ……エイジさんの上司である糞……目黒茂めぐろしげるを潰すわ」


栞菜はそう言って、自分のスマホの中にある目黒茂の写真を二人に見せる。


「……こいつが……エイジさんを……」


「……許せない……」


「気持ちは分かるわ。だからその気持ちを、明日の計画にぶつけてちょうだい」


「……具体的には何をやるんですか?」


「まず、AOブリティアを倒産の危機まで追い込むわ」


「……でも、それは駄目ってさっき栞菜が言ってた」


「追い込むだけよ。実際に倒産させるつもりはないわ」


「出来るんですか?超大手ということもあってかなり難しい気がするんですけど……」


「言ったはずよ紗耶香。落とすこと自体は簡単だって……それに、材料なら大量にここにあるもの」


雄介のスマホと自身のスマホを両手でぶらぶらと持ちながら二人に見せつける。


「そのために二人には協力をして欲しいの……やってくれるわよね?」


無理なんて言わせない。もしエイジを愛するのなら、それぐらい出来るはずだと言わんばかりに圧を出すが……その必要がないように二人は即時に頷く。


「当たり前ですよ。私に出来ることでしたら、なんだってやります……エイジさんを傷つけた害虫なんて、生きていいはずがありません」


「……ん。エイジは私のファン……ファンを守るのは、配信者の定め」


紗耶香は両手に拳を作りながら、凛明は自身の首にかけてある紋章が刻まれたネックレスを握りしめてそう答えた。


「ありがとう、二人とも……じゃあ、思い知らせてやりましょう」






———誰を相手にしたかを、ね。





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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


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