第13話 辞職


「……まさか、数日後にまたここに戻ってくるなんてな」


嘗て死ぬ気で働いていたはずの会社AOブリティア。


辞めてからそこまで経ってないはずなのに、まるで遠い過去のもののように感じてしまう。


俺は、一応失礼がないように着替えたスーツのネクタイを整えて、会社の中に入っていく。





「お、来た来た。遅いよ君」


いつも通りにオフィスの中に向かうと、そこには上司一人と、複数の人たちがいた。


上司の人以外は気まずそうに俺から顔を逸らしている。やっぱり、俺のことを見捨てた自覚はあるのだろうか?


「……それで、なんのご用でしょうか?」


「ん?なんだねその態度は?それが上司に対する言葉遣いなのかな?」


「………」


「……まぁ、それはまたの機会に言うとするよ」


いつもと違う俺の気迫に押されたのか、それ以上は言わず、その人は姿勢を正してから、とんでもないことを言い放った。


「君、明日からまた会社に出社ね」


「………はい?」


耳を疑った。一体何を言ってるんだこの人は?呼ばれた時点で嫌な予感は感じていたが、まさかここまで非常識なことを言われるとは思ってもみなかった。


「……色々言いたいことはありますが、理由はなんでしょうか?」


そんなことを言うと、彼は「はぁ……」とまるで駄目な子供や社員を見ているような目線をしながら深いため息をついた。


「何も分かってないんだね。あれから君がいなくなってからほんとに大変だったんだからこっちは」


そう言って、いつもの長い話をペラペラと無駄な話を含めて話し出した。



彼の話曰く、このような内容であった。


あれから、俺を辞めさせてから新しく入社した新人の人に俺の仕事を全て投げ渡したらしい、それも初日にだ。


これでも俺は、自分で言うのもなんだけど他の人よりも数十倍の仕事をしていたつもりだ。


その仕事を入社してまもない人が続けれるはずがなく、数日後には辞職願を提出して、会社を去った。


仕事を押し付ける人物がいなくなった上司はその仕事を会社全員に押し付けるが、元々の仕事の量に加えて、さらにそこから多くなったことで、少しずつうつ病になったりする人がいたり、会社を辞めたりする人が続出した。



さらに、俺がいないと分かった多くの配信者達は即座に契約を解除したりして、入ったら安泰と言われていたのが嘘のように、今もなお衰退していってるらしい。


……そういえば俺を発見した人たちが凄い寄ってきてたな。あれってそういうことなのか?


「とまぁ、こんな感じで君がいなくなってこっちは困ってるわけよ」


……あんたが俺をクビにさせたはずなのに、どうしてそこまで上から目線に話せるんだ?


「君のクビ宣言は撤回するよ。だからね、また明日から出社しておいてくれ」


まるで反省の色が見えないのか、当たり前のようにそう言ってきて、俺はもはや呆れて何も会えなかった。


「……はぁ」


……この人は俺が戻ってくると思っているのだろうか。今までボロ雑巾のようにこき使われて、用無しになったら捨てられて……怒りを感じわけない。


「……聞かせてください。あなたにとって、この会社はなんですか?今まで辞めていった人たちのことはどう考えてるんですか?」


「?何言ってるんだ君?」


するとまるでそれが当たり前のようにそいつは言い放った。


「ただの金稼ぎだよ。俺にとってこんな会社、なんの思い入れもない。もしそんな奴がいるならそいつはただのバカなだけだよ」


「……バカ、ですか」


「そうそう。それに俺の下で働く奴なんて全員金稼ぎの奴隷みたいなもんだよ……ねぇみんな?」


そうして、後ろにいる人たちに目を向ける上司と本音を言わないように唇を噛んで拳を握り締めながら頷いている人たちの姿。


(……そうか。俺も側から見たらこんなふうに見えてたんだな)


……改めて栞菜さん達に感謝しないとな。こんな俺を拾ってくれたんだから。


だから、そんな人達の期待を裏切らないように上司だった人に言葉を発した。


「お断りします」


「……は?」


俺の言っていることの意味が分からないのか、呆気に取られている。


「だから、お断りしますと言ったんです」


「……そんなこと、この俺に口答え出来ると思ってんの?」


言葉に怒りの感情が乗っている。やはりそう答えるとは思わなかったのだろう。


「知ってるよ。どうやらご両親は君が会社を辞めたことなんて知らないみたいだね。それを報告したら……どうなるのかな?」


………確かに、俺はまだ二人にはこのことを話していない。きっと悲しむのだろう、そんな姿が容易に想像できてしまう。でも……。


「そのことについてはご心配なく、二人からはまた俺から話しておきますから」


それ以上にあの人たちのことを裏切るなんて出来なかった。


「ふーん……そう答えるんだ」


すると、後ろにいた人たちが出入り口の道を塞いできた。


「なら、君が良いって言うまでここに留まってもらおうか」


「……元々、そのつもりだったんですか?」


「君には是が非でも働いてもらうよ。それに君が俺に対して言い放った言葉の数々……しっかりと仕事で責任を果たしてもらうよ」


……まぁそうか。このバカならこういうことをすると思っていた。


だから俺も、武器を用意することにしたんだ。


「……ここに、先ほどの会話を録音したスマホがあります」


「なっ!?」


そう言った瞬間、ここの空気が凍えるように固まった。そんな状況にも関わらず俺は、ぽちぽちとスマホをいじっていく。


「そして、この録音音声をユーチューブやSNSに投稿しようと思います。これを投稿して欲しくなかったら今すぐに俺を外に出したください。そして、二度と俺と関わらないでください」


「き、君!、今自分が何をやろうとしているのか理解しているのか!?」


「分かっているから言ってるんですよ。あぁ、奪ったり、消そうとしたりしても無駄ですよ?別のスマホに貴方のやってきたことを全て録画していますから」


そう言いながら、俺は机越しに汗をだらだらと流しながらこちらを見つめている上司と向き合う。


「……今日ここに来たのは、これを貴方に渡すためです」


そして、懐のポケットにしまってあった辞職届けを叩きつける。


「……今まで、お世話になりました。どうかお元気で」


そして俺は用無しと言わんばかりに、出入り口に向かい、今も唖然としている人たちの後ろを通り抜けてオフィスから出ていく。


こうして、今まで勤めてきた会社と決別したのであった。






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