第12話 修羅場とメール
「んん〜……終わった〜!」
身体を伸ばして先ほど栞菜さんが投稿した生配信の切り抜きを見る。
栞菜さんが人気ということもあってか、やはり他のチャンネルにも切り抜き動画があるようだ。
「他の人よりかは見やすいように編集したと思うけど……大丈夫かな」
……まぁ、まだ投稿してもないのに不安がっても仕方ないよな。そんな風に考えて、俺は栞菜さんの切り抜き動画を投稿する。
「よし……って、もうこんな時間か」
少し時間を掛けすぎたか?窓の外を見るともう外は暗くなっており、今にも夜になりそうだ。
「初めてだから慎重やり過ぎたかな?まぁ、少しずつ慣れていけばいいよな」
って、まずい。晩御飯の準備しないと。俺は疲れた身体を酷使して、栞菜さんの配信用の部屋から出て、すぐにリビングへと向かう。
「すみません栞菜さん。少し時間が」
「ずるいよ栞菜さん!!」
「……?」
なんだ?
リビングの中に入ると、スマホを見せながら栞菜さんに詰め寄っている紗耶香ちゃんと凛明の姿にそれに動じず、椅子に座っている栞菜さんの姿があった。
「……えっと、なにかあったんですか?」
「あ、エイジさん。編集お疲れ様です。コーヒー入れましたから、良かったらどうぞ」
い、いや栞菜さん?こんな状況で飲めるわけないよね??
「……エイジ、栞菜がずるい」
「ず、ずるい?」
「そうなんですよエイジさん!!」
すると怒り心頭の様子の紗耶香ちゃんが俺に詰め寄ってきてきた。
「私の動画もエイジさんに編集して欲しいのに、栞菜さんが許可してくれないんだよ!?ずるいよそんなの!!」
「え、えぇ……」
「……しかも、栞菜はエイジに編集させてる……ずるい」
そう言って、凛明がさっき俺が投稿した切り抜き動画を見せてくる。ってか視聴数地味に多いな、それに何故か登録してくれる人も多いような……。
「てかよく分かったね。これが俺が作った動画だって」
「そりゃあ分かりますよ。エイジさんの動画、めちゃくちゃ見ましたから。それに………栞菜さんが誇らしげにXに投稿していましたし」
そう言いながらジト目で彼女の方に見る紗耶香ちゃん。だが、栞菜さんは特に気にせずにコーヒーを飲んでいる。
「てか栞菜さん。いつの間にそんなこと投稿したんですか?」
「エイジさんが編集している間にしておきました。それと、エイジさんのスマホにアカウントも作っておきましたよ」
「えっ!?」
栞菜さんの手には俺のスマホが握られており、おそらく彼女が作ったであろう俺のアカウントが映っていた。
(あれ?確かパスワード作ってたよな?どうやって解除したんだ?)
「エイジさんからも何か言ってください!!私もエイジさんに編集して欲しいです!!」
「……私も、エイジにして欲しい」
う、うーん……栞菜さんに拾われた俺からしたら拾われた身だからあまり言えないけど……とりあえず言ってみるか?
「あ、あの栞菜さん。二人のお願い聞いてやってくれませんか?編集は怠らずしっかりとやるので」
「駄目です。却下します」
「そ、そこをなんとか……」
「……エイジさん」
すると、栞菜さんが突然目の光が無くなり、こちらを見つめてきている。
「貴方は私のものなんですよ?そんなに私の動画を編集するのが嫌なんですか?」
「い、いや。そういうことを言っている訳では……」
な、なんだ??突如として栞菜さんの様子がおかしくなって……。
「あー……こりゃあほんとにダメですね……」
「……むぅ。栞菜だけずるい」
「え、二人とも?」
さっきの様子とは裏腹に諦めたような二人の反応に戸惑ってしまう。
「はぁ……私も、エイジさんに編集して欲しかったのになぁ」
「……残念」
「えっと……いいの?」
「エイジさん。あーなった栞菜さんは誰にも止められませんよ。ほら、みてくださいよあれ」
すると、いつの間にか冷蔵庫から持ってきてきた酒をそのままぐびぐび……と一気飲みする様子の栞菜さんが映った。
「……えっ?」
「……エイジさんはぁ……私のものなんれしゅ〜!!」
「うおわぁ!?」
そう言いながらこちらに近寄ってきてむぎゅうっと俺に抱きついてきた。
「えへへぇ…えいじさぁん。わたひのえいじさぁん。あなたはぁ、わたひのものなんでしゅからぁ、どこにもいっちゃらだめなんれしゅよ〜??」
ムギュっと抱きついてきてるせいで栞菜さんの大きな胸が当たって……てか、普通に苦しいし、酒くさい……。
「もうっ、栞菜さん!動画編集は渋々ですが諦めましたけど、流石にエイジさんに抱きつくのはダメです!ずるいです!!」
「……エイジから離れて」
「いやぁ!はなしてぇ!えいじさぁんにだきつくのぉ!!」
何故か幼児退行した栞菜さんに、俺から離れさせようと必死になる凛明と紗耶香ちゃん。
(……なんか、最初の凄いイメージが崩れ落ちていく気が……)
栞菜さんのだめだめな印象が脳裏に焼きつきながら、一日を過ごすのであった。
◇
そんな生活が数ヶ月続いた頃、机に置いてあったスマホの着信音がなった。
(ん?誰からだ?)
掃除機から手を離してスマホに目を通して……顔を顰めてしまう。
(……今更、何様のつもりなんだ)
……でも、これは俺の問題でもあるんだよな。
そのメールを一通り目を通して、俺はスマホを持って、外に行く準備をする。今も部屋で配信している栞菜さんにメールする。
『すみません栞菜さん。少し用事があるので外に出ていきます』
それだけ送って、俺は家から出て行った。
そのメールにはこう書かれてあった。
『話したいことがある。会社に戻ってこい』と。
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