第11話 KANNAの生配信
「あ、あー……みんな聞こえてる?大丈夫……?あ、聞こえてるみたいだね。オッケーオッケー」
現在、俺は栞菜さんのお隣で生配信を見ている……んだけど……えっ?
(な、なんだこれ………同接数5万って…!?そ、それに、コメントが凄いことに!?)
あまりにも多すぎる視聴者数とそれに比例するように増えていってるコメントの数に圧倒されていた。
:KANNAだ!
:来ちゃあ!
:聞こえてるよ
:こんちゃ〜
:久しぶりの生カナ助かる
:この時を待っていたでござんす
色々なコメントが流れてくるようにコメント欄に載っており、改めてKANNAの人望や人気の高さを認識せざるを得ない。
「みんな〜久しぶりに生配信したけどいっぱい来てくれてありがとうね。でもまさか5万人来るとは思わなかったよ〜今日はみんなのこと暇にさせないように頑張るね!」
栞菜さんが嬉しそうにそう言うと、またまたコメントが凄いことに……これ、もしかしなくても俺が声出したらやばいことになるね。
そんなことを考えてると、栞菜さんはこちらに向いてきてウインクしてから口を動かした。
『エイジさんも楽しんでくださいね』
……こ、こんな状況でどう楽しめって言うんですか!?
なんとか口パクしてそう伝えたのだが、うん?と首を傾げて分からなそうにして、配信画面に視線を戻した。いや、分からんのかい。
「今日はね、折角の生配信だから久しぶりにこのゲームやっていくよ」
:待ってました!
:プロ顔負けの凄腕実力者
:うわっ懐かしい〜!
:KANNAの実力、生で見れるのまじサイコー
そう言って栞菜さんがプレイするゲームは色々な武器を使ってモンスターを討伐するハンティングアクションゲームだ。
俺もユーチューブで投稿したことがある結構思い出のあるゲームだったため、つい懐かしさに浸ってしまう。
「うーん。どうせなら難しいクエストの方がいいよねみんな?」
:うんうん
:見たい見たい
:あのクエスト受けて
「だよね〜。でも色々あるしなぁ……どれにしよっかな」
そう言いながら、何故か栞菜さんが俺を揶揄うように笑みを浮かべてこちらに向いてきた。
(俺が選べってことかよ!?え、えっと……)
……栞菜さんなら難しいのでもいいよね。
そんな風に思いながら一番難しそうなクエストを指で指す。それを見た彼女は面白そうに笑みを深めてから……。
「じゃあこれにしよっかな〜」
そのクエストを受ける。そのクエスト内容はパッケージモンスターの同時二体討伐。しかも攻撃が全て即死レベルだから難易度はとてつもなく高い。
:まじか
:流石KANNA。度胸ある
:これクリア出来んかった
:勝負だKANNA!!絶対早く討伐してやる!!
栞菜さんがそのクエストを受けたことでコメントも激しくなっており、中には勝負を受ける人もいた。
「じゃあみんな、一狩り行こうぜ〜!」
そしてボタンを押して、クエストが開始する。
彼女が装備している武器は双剣というものだ。彼女が一番愛用しているものらしい。偶然なのか、俺もその武器を一番使っていたから親近感がある。
動けるようになると、栞菜さんは支給品を取らずに、すぐにフィールドに移動し、バフの効果をもったアイテムを取りながらモンスターの所へと向かっていく。は、はえぇ……。
「お、あった。このクモをこのモンスターにぶつけて……」
移動中にいたクモを拾って、それを討伐対象の一体に当て、モンスターに乗っていく。
(うわぁ……ここまでの動きがほんとにプロ)
何回も見てきたけど、生で見るのでは一味違うなこれ……。
そんなことを考えてるうちにもう一体のモンスターに遭遇、いま乗っているモンスターを操って攻撃をかました。
それで時間ギリギリまで攻撃をして、一時離脱。次にそのダウン中のモンスターに乗って、今度はさっきまで乗っていたモンスターに攻撃し続ける。
ここまででも俺は凄いと思うのに、視聴者からしたらそれが当たり前のように栞菜さんのプレイを見続けてる。
そしてモンスターから降りていよいよ武器を取り始めた。
ダウン中のモンスターの頭を疾風怒涛の速さで切り裂いていく。こ、攻撃のダメージえぐい……。
ダウン中のモンスターが起き上がった。流石に体力が減ったのか、咆哮をして怒り状態になる。
が、栞菜さんは咆哮をタイミングよく避けて、そのまま弱点部位に攻撃し続けて、またまたモンスターのダウンを取った。
そのままモンスターに攻撃をし続け、攻撃にも回避してダウンを取るの繰り返しをし……僅か二分で討伐完了。
:うっわエグっ
:二分ってまじか
:早すぎ……
栞菜さんはそのままもう一体の討伐対象モンスターの所へ最短距離で移動。
見つけたところをすぐに斬りつける。
今回は少し違い、モンスターは万全な状態だ。
流石に攻撃の一発喰らうだろうと思っていると……凄技を披露した。
モンスターの攻撃が当たる直前に技を発動してモンスターを怯ませ、空中移動で背後にある尻尾に近づき、落下攻撃を仕掛けて、切断してみせた。
(……この人、タイムアタックやってるんだよね?なんでそんな時にこんな神業を披露出来るんだ?)
ダウンしたモンスターの弱点である頭を集中投下。
隙を見させないその怒涛の乱撃にモンスターも悲鳴をあげてしまい……そのまま栞菜さんに一矢報いることなく、事切れた。
討伐完了。そのタイム、僅か……。
(……ご、五分二十三秒??)
……この人のゲームの実力を改めて痛感した瞬間であった。
栞菜さんの討伐するまでの動きやタイムには視聴者も興奮しているのか、またコメントの嵐がやってきており……。
:流石すぎる
:いやモンスター何も出来てなくて草
:鬼畜やろ……
:ほんとに動きどうなってんの?まじわけわかめ
:ま、負けた……
……そのような個性豊かなコメントが流れてきていた。
「いやぁ、もうちょっと早く行けたかな。流石に久しぶりだと腕が鈍っちゃうよね」
彼女はそのタイムに納得してないのか、そんな言葉を呟いていたが……あなた、どんだけこのゲームやってたんだよ、プロ負けだろこれ。
「じゃあこの調子でどんどんモンスターを討伐していこー!」
その言葉の宣言通り、栞菜さんは次々と難しいクエストを難なくスピードクリアを達成して……2時間やった所で、生配信は終了した。
「それじゃあ、おつかれさま〜」
そう言って終了ボタンをポチッと押す。
「………はい、もう喋ってもいいですよエイジさん」
「………す、凄かったですね」
KANNAのゲームの実力をはっきりと思い知らされた俺はその一言しか発することが出来ずにいた。
「何年もやってきたゲームですから。これくらい当然です」
「いや、あれは何年もやってきて出来る腕前ではないでしょう……」
そんなの、プロゲーマーが聞いたら泣いてしまうぞ。
「ふふっ。でも楽しんで貰えて何よりです」
「……えぇ。とても新鮮な感覚でした」
「では、そんなエイジさんにお仕事です」
そう言って、栞菜さんはあるチャンネルアカウントを開いて、俺に見せてくる。名前は……KANNAの切り抜き動画?
「今私が放送した生配信を切り抜いて、このアカウントのチャンネルに投稿して欲しいのです」
「これを俺が?」
「はい、エイジさんの編集スキルをぜひ生かして欲しいのです」
「……なるほど分かりました。出来るだけ見やすいものを作れるようにしますね」
……あ、そうだ。
「これって紗耶香ちゃんや凛明の動画も編集とかした方がいいですか?」
アカウントはないものの、やっておいた方がいいだろうと思いそう聞いてみたんだが……。
「駄目です」
「……えっ?」
「駄目です。却下します。エイジさんは私の動画だけ編集してくれたらいいんです」
あ、あれ?思った反応と違う。というか栞菜さん、編集してくれる人を探してたんだよね?紗耶香ちゃんも凛明の動画はそれに含まれないのか?
「とにかく、私の許可なしで勝手にやってはいきません……いいですね?」
「は、はい……」
前に栞菜さんから感じた得体の知れない迫力に押されて、素直に頷くことしか出来なかった。
「じゃあエイジさん。編集、よろしくお願いしますね」
いつも通りの栞菜さんに戻って部屋から出て行った。
(……なんなんだ、あれは……?)
そんな疑問を抱いたものの、仕事は仕事と割り切って、先ほどの栞菜さんの生配信の切り抜き動画を作っていくのだった。
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