第10話 いつもと違う一日
「ん、んん……」
……まずい、少し寝過ぎた……仕事、仕事に行かないと……。
窓を伝ってやってくる朝日を感じて、憂鬱な気持ちになりながらベットから起きる。
「……あ、そうか。俺……仕事やめたんだっけ……」
ぼんやりとした記憶が少しずつ鮮明に思い出される。会社に首にされて、何故か栞菜さんに拾われて……今に至る。
「……起きるかぁ」
そうして何故か栞菜さんが用意してくれた服を着ながらリビングに行こうとすると……。
『きゃああああああ!!!』
その言葉とともに、ガシャンガシャンッ!という何かが割れる音がここまで響き渡った。
「な、なんだ!?」
下の階から聞こえたぞ!?もしかして何かあったのか!
俺は急いで着替えて、下に降りてリビングに向かった。
「栞菜さん!!何かあったんです……か?」
そこで見たのは……床に散らばった皿の数々と、何故か漂っている焦げ腐った匂いに……そして、その中心いたエプロン姿の栞菜さんだ。
「……あの、栞菜さん?」
「あ、え、エイジさん……」
「……何やってるんですか?」
「えっと……朝食の準備をしようと思いまして……」
「……作ったことあるんですか?」
「……初めてです。その……ごめんなさい」
あー……なんとなく、この家がゴミ屋敷化した理由が分かった気がする。
「……とりあえず、全部俺がやっておきますから、栞菜さんは二人を起こしてあげてください」
「……はい」
しょぼんとした雰囲気を醸し出したまま、栞菜さんは二人を起こしに、2階へと向かっていった。
「……これ、どうしようかな」
……とりあえずまずは、床に散らばった皿をパパッと掃除しようか。
ちょうどホウキとちりとりがあったから、スリッパを履きつつ、散らばった皿を掃除する。
掃除をし終わったら次は……キッチンへと向かっていく。
「……か、栞菜さん……」
……なんでこんなコゲコゲの料理が出来るんですかね。
……仕方ない、これは俺の胃袋の中に入れるとしよう。
そうして、栞菜さんが用意してくれたその朝食を新しい皿に乗せて、三人用のご飯を作っていく。
「まぁ、ベーコンエッグでも作ろうかな」
ひとまず、新しいフライパンを出して、冷蔵庫からベーコン、卵、あとはキャベツとトマトを出していく。
フライパンに油を引いて、ベーコンを乗せて弱火で加熱していく。
ジューッという肉が焼けている音を聞きながら、キャベツを千切りに切って、三つの皿に千切りしたキャベツとトマトを乗せていく。
「おっと、そろそろいいかな?」
十分に加熱したところで刺し箸でベーコンを裏返していく。
いい感じにベーコンに焼き色が付いていて、それが食欲をかき立ててくれる。
そしたら、フライパンを傾けて油に上乗せするようにベーコンの脂を全体に引いていく。
その脂を使って卵を割ってフライパンに入れるとジューッと心地よい音が再びなり響いた。
そうして朝食の準備をしていると、ドアの開く音がした。
「ふわぁ……眠い……」
見ると、欠伸をしながらパジャマ姿のままの紗耶香ちゃんの姿が見えた。
「おはよう紗耶香ちゃん」
「あ、エイジさぁ〜ん、おはようございまぁ〜す……いい匂いですねぇ」
「もうすぐ出来るから、椅子に座って待ってて」
「はぁ〜い」
目を擦りながらも、椅子に座って待っててくれてる。紗耶香ちゃんは朝に弱いのかな?
「………エイジ……おはよう」
すると、いつの間にかこちらに近づいていた白銀色の髪をした少女、凛明がいた。
「おはよう凛明。ご飯出来るから凛明も座っててくれるか?」
「……分かった……待ってる」
紗耶香ちゃんとは違って朝に強いのか、凛明はいつも通りの様子のまま、紗耶香ちゃんの隣の椅子に座った。
「……おはよう……紗耶香……」
「おはよ〜凛明……なんか嬉しそうだね?」
「……そう?」
「だって凛明、めちゃくちゃ表情緩んでいるよ……?昨日何かあった?」
「…‥内緒」
むふふっと笑いながら、機嫌良さそうに足をパタパタと揺らしている凛明の姿を見て、微笑ましくなる。
「……っと、準備準備」
焼き加減がちょうどいいところで加熱をやめて、皿に盛り付けていて、あとは塩と胡椒をかけて完成だ。
「あ、エイジさん。朝食作ってくれてありがとうございます。持っていきますね」
「ありがとうございます栞菜さん……転ばないでくださいよ?」
「わ、分かってますよ……!」
栞菜さんは顔を赤くさせながらこちらに抗議するように言ってるが……だってさっきの惨状を見たら、心配にもなりますよ。
「おぉ……エイジさんの朝食……!朝から豪華ですなぁ…!」
「……美味しそう」
「こら二人とも。まだ食べたら駄目よ?」
まるで本物の親子のような会話を聞きながら三人用の飲み物を用意する。
栞菜さんにはコーヒーを、二人にはジュースが入ったコップを置いていく。
「あ、エイジさん。それ……」
「あはは。折角、栞菜さんが用意してくださいましたしね。それに、捨てるのも勿体無いので」
「エイジさん……ありがとうございます」
「……さっ、いただきましょう」
そうして準備が出来たところで、俺たちは朝食を食べたのであった。
……とても苦かったのは内緒だ。
◇
「じゃあエイジさん。いってきま〜す!」
「いってらっしゃい」
学生姿の紗耶香ちゃんに手を振って、見送っていく。
凛明はまだ学校に行くのは怖いらしいから、今は自分の部屋で歌の練習をしている。
「栞菜さん。俺、今は特にやることないので、動画編集をしようと思うんですが……」
「そうですね……私もそろそろエイジさんに編集をして欲しかった所ですからありがたいです……ですが、その前に」
すると栞菜さんは指を口に当てて、こちらにウインクしてくる。
「私の配信……ぜひ見ていきませんか?」
栞菜さんのそんな可愛らしさ全開にしてそんなことを言ってきた。
………どうやら、トップクラスの大物ユーチューバーの配信を生で見れるらしい。
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《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》
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