第7話 この人たち……さては…


「ふぅ……出来た……」


料理なんて久しぶりに作ってみたけど……我ながら上手く出来たのではと少し自画自賛してしまう。


今回の献立はハンバーグにしてみた。そこに特製のデミグラスソースをハンバーグ全体に掛けて完成だ。


元々あった肉肉しい香りにソースの匂いが加わり、絶妙に混ざり合ってそれがさらに食欲を増してくれる。


「二人とも。ご飯でき……」


……何故かこちらにスマホを向けてくる栞菜さんとハンバーグに釘付けになってる紗耶香ちゃんの姿があった。


「えっと……どうしましたか?」


「エイジさんの料理姿を残そうと思って」


か、栞菜さん?そこまでしなくてもいい気がするよ?


「ご、ご飯……コンビニ弁当じゃなくて……三年ぶりの本物のご飯……しかも、エイジさん手作りの……」


紗耶香ちゃんに関しては手作りのご飯を目にしてしまったせいで、おかしなことを言っている。ん?三年?てことはあなた達、今まで作ってこなかったんですか?


「と、とりあえずテーブルに並べたいので手伝ってください」


色々思ったことはあるが、ひとまず顔に出さないように彼女たちに手伝ってもらえるように言う。


「分かりました。紗耶香、 そこでじっとしてないで凛明を呼んできてちょうだい」


「……あ、はい!わかりました!すぐに呼んできます」


栞菜さんの声掛けでやっと正気に戻った紗耶香ちゃんがリビングから出ていった。


「栞菜さん。その凛明という人は……?」


「私たちの家に住んでいる人の一人です。その、学生なのですが……今は事情があって……」


「……分かりました。深くは聞かないでおきます」


「……ありがとうございます」


どうやら、訳ありのようだ。ほんとなら知るべきことだと思うけど、彼女たちの秘密を無理に聞く必要はないしな。


そんな会話をして、栞菜さんとともにテーブルにご飯を並べていく。


四人分のご飯を並べ終わった時に、リビングのドアが開かれる。ドアの方を見てみると、紗耶香ちゃんと、その隣に白銀色の髪色をした少女がいた。


(あの子が……凛明ちゃんか?)


「ほら、言った通りでしょ?今日はコンビニ弁当じゃないんだって」


「……ほんとだ。ちゃんとしたご飯……びっくり」


口数が少ないが、その声色からは驚愕という感情が乗せられているのが分かった。


テーブルに置いてある料理を一通り見た後、こちらに気付いたのか、視線が向けられた。


「……紗耶香……あの人、誰?」


「エイジさんだよ!ほら、あのエイジさん!!」


「……よく紗耶香と栞菜が言ってた人のこと?」


そう言いながらこちらをじっと見つめながら近づいてくる。


「…………頼りなさそう」


そしてただ一言。俺を見て一言そう告げた。


……うん、年頃の女の子にそう言われると凄い心の傷が抉られるのが分かった……泣いてもいいかな?


「ち、ちょっと凛明!?エイジさんに失礼でしょ……!!ごめんなさいエイジさん。この子、言いたいことははっきりと言っちゃう子で……」


「い、いえ。大丈夫ですよ……その、事実ですので」


実際、今日用済みで首になったし……あ、あれ?なんでだろ?視界がぼやけてきてるなぁ……。


「エイジさん……その、ハンカチをどうぞ」


あ、栞菜さん。ありがとうございます。少し目元が濡れていたので助かります……と何故か口で言うことが出来ずに黙って受け取り、目を拭く。


「…………ごめん」


ほとんど表情を変化させてないが、申し訳ないと思ってくれたのか、少しだけ眉を下げながらこちらに謝ってきた。


「う、ううん。大丈夫、そう思われても無理ないから」


「……怒らない?」


「うん。怒らないから大丈夫だよ」


「……紗耶香」


そんな会話をしていると、その子……凛明ちゃんは紗耶香ちゃんに話しかけた。少し雰囲気がキラキラしているように見えてしまう。


「この人……優しい。いい人」


「そうだよ。前から言ってるじゃない。エイジさんは優しくてかっこよくて素敵で魅力的で信頼できる人だって」


「……うん……頼りないけど……優しい……いい人」


あ、頼りないのは撤回してくれないのね……トホホ……。


「……私、皇凛明。よろしく……エイジ」


「……ご丁寧にありがとう凛明ちゃん。俺は小島祐介……二人からエイジって呼ばれてるよ。これからよろしくね」


「……うん。よろしく」


そう言って、スッと静かにこちらに手を伸ばしてきたので、俺は凛明ちゃんの手を取って握手をした。


「……栞菜」


「なに?」


「……エイジ……いい人」


「えぇ……とても優しいでしょう?」


「……うん」


その時の凛明ちゃんの顔は少しだけ口を緩ませており、嬉しそうにも見えた。


(……訳あり、か)


……いや、今は考えないでおこう。一瞬だけ浮かんだその考えを捨て、彼女達に話しかける。


「じゃあそろそろご飯にしましょうか。凛明ちゃんも食べるでしょ?」


「うん……食べる」


すると、さっと俺の手を離してトテトテと歩いて、自分の席に座る。


「栞菜さん、私たちも座りましょうか」


「えぇ、そうね。折角のエイジさんの料理ですもの。早く味わって食べたいわ」


凛明ちゃんに釣られるように栞菜さんと紗耶香ちゃんも自身の席に座る。


俺も余った席に座ったところで、全員がご飯を食べる準備が出来た。


『いただきます』


食べる前に合掌をして、まずは今日の晩御飯の主菜であるハンバーグを口に入れる。


(……うん。久しぶりに食べてみたけど美味しいな)


噛むたびに口の中に広がる肉汁に、自作で作ったソースが絶妙に混ざり合い、それが本来のハンバーグの旨みを増してくれる。


その余韻を楽しみながら、白いご飯がそのジューシーな旨みをふわりと優しく包み込んでくれる……うん、やっぱり自分で作るのも悪くない。


そんな感想を心の中で呟いていると、誰かがツンツンと俺の服を突いてくる。


見ると、そこには空になった茶碗をこちらに渡そうとしている凛明の姿があった。


「……おかわり」


はやっ、もう食べたの?


「あ、エイジさん。私もおかわり頼んでいいですか?」


え、紗耶香ちゃんも……?うわほんとだ、茶碗が綺麗になってる。


「あはは、久しぶりの手作りのご飯ですので、二人ともいつにも増して食いつきが

いいんですよ」


そうは言ってるけど……栞菜さん?貴方も人のこと言えないからね?俺の目が間違ってなければもう少しでもご飯が無くなりそうなんですけど?


(この人たち……さては物凄い大食いだな)


……まぁ、美味しく食べてくれるからこっちからしたら嬉しいんだけどね。


そうして、しばらくの間、俺たちはご飯の時間を楽しんだとさ。



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