第6話 期待の大物Vチューバー
「え、え!嘘!?ほんとに生エイジさんだ!!」
あの後、栞菜さんみたいに彼女に答えたら案の定、このように目をキラキラにさせてこちらに視線を向けてくるようになりました。
「そ、そんなに好きなんですか?エイジのことが」
「勿論ですよ〜!きっかけは栞菜さんが勧めてからなんですけど、そこからはまちゃって……あ、自己紹介がまだでしたね」
興奮気味の状態から少し落ち着かせて姿勢を正している。
「私の名前は由桐紗耶香です。歳は17才の高校二年生です。紗耶香って気軽に呼んでくださいねエイジさん」
「ご丁寧にありがとう紗耶香ちゃん。俺は小島祐介。今日からここでお世話になることなるけど、いいかな?」
「そりゃあもちろん!他の人ならともかく、エイジさんであれば全然オッケーだよ。えっと……これからもエイジって呼んでもいい?」
あ、あはは……ほんとは黒歴史として葬り去りたいんだけど……まぁ、呼びたいようにしてあげよう。俺の心が少しずつ削れていくけどね……。
「うん。紗耶香ちゃんの呼びたいように呼んでもいいよ」
「ほんと?やったっ!ありがとう〜エイジさん。あっ!少し待ってて」
すると、紗耶香ちゃんがドタバタと足音を立ててリビングから出ていって……何やらノートの黒いペンを持ってきた。
「あの!これにサインしてください!」
「さ、サイン?」
えっ……サイン書いてって頼まれることなんてある?う、うーん……確かに昔、有名になったらサイン書こう!とか言って考えてたっけ。
まさか、本当に書く時が来ようとは……過去の俺がみたらびっくりするんじゃないか?
「えっと……サインなんて書いたことないから拙いものになっちゃうけど、それでもいいかな?」
「はい!寧ろ、初めてサインを書いてもらうなんて、とても嬉しいです!あぁ……エイジさんのサインが私のノートに…」
そんなに嬉しいのかな……まぁ自分で言うのもなんだけど、推しに書いて貰うんだから当然…か?
そう考えて、俺はそのノートの表面に初めてのサインを書いた。
「はい、これでいいかな?少し自信ないけど」
彼女にサイン入りのノートとペンを渡すと、紗耶香ちゃんは、ぱぁっと子供のような笑顔になってノートをまじまじと魅入っている。
「ありがとうエイジさん!私これ、生涯の宝物にする!」
そのあまりにも過剰な反応につい、苦笑をしてしまう。生涯の宝物かぁ……うーん嬉しいけど、大袈裟だね。
あ、そういえばここに住んでいるってことは……彼女も配信者をやっているのだろうか?
「紗耶香ちゃん。一つ聞いてもいいかな?」
「あ、はい!なんですかエイジさん?」
「栞菜さんから聞いたんだけど、紗耶香ちゃんも配信者なんだよね?無理に答えなくてもいいけど、何やってるか教えて貰ってもいいかな?」
……やっぱり無神経すぎたかな。あまりこういうことを聞くのはよろしくないかなとか思ってると紗耶香ちゃんは特になにも気にしてない様子で答えた。
「いいですよ」
「えっ?ほんと?自分で言ってるのもなんだけど、無理しなくていいよ?」
「確かに他の人には教えることはないんですけど、エイジさんは特別です。私のもう一つの姿、お見せしましょう〜!」
そう言って彼女は自分のスマホを取り出して、おそらく自身のアカウントであろうものを見せてきた。
「これが私のアカウントです。特とご覧あれ〜」
俺は彼女のスマホをじっくりと見る。きっと凄いんだろうなとか思ってると……絶句してしまった。
「……うっそーん」
「あっびっくりしました?にししっ、エイジさんに一泡吹かせてやったぞー!」
そう言って彼女は喜んでいるが……な、なんでここにはこんな大物ばかりいるんだ?
「……
天清あおい。
今流行っているVチューバーと呼ばれている中で、黄金時代と言っても過言ではない人たち、
雑談、ゲーム、コラボなど様々なことを行ってるが、どれをやっても一級品。リアクションは面白いわ、いじられ倒される姿もいいわ、配信者とのてぇてぇもいいわと……とにかく視聴者からの評判は爆上がりだ。
「今日何配信しようかなって悩んでたけど決めた!エイジさんのこと話そう〜!」
そう言ってルンルン気味の彼女のことを見比べる。
少しあどけなさが残る顔つき、独特の笑い方、そしてこの喋り方……似てる。何故だかライブ配信で見てきた天晴あおいの面影を感じてしまう。
「あ、エイジさんエイジさん。私もうすぐ登録者100万人行くんです!褒めてください!」
……あはは、どうやら俺のファンにはとんでもない人たちしかいないようだ。
大物ゲーム実況者に、期待のVチューバー……なんで俺なんかのファンになったんだ?
「そ、そうなんだね、うん……ほんとに凄いよ紗耶香ちゃん」
「でしょ〜!にししっ、エイジさんに褒められた〜!」
そんな風に話し合っていると、ドアかの開く音が聞こえた。
「ただいま戻りましたエイジさん……あら?紗耶香、帰ってきてたのね」
「あ、栞菜さん。もう!なんで勝手に家事代行の人を決めちゃうんですか?」
「うっ……だって、しょうがないじゃない。偶然、散歩していたらエイジさんに会えたのよ?紗耶香も分かるでしょ?私、好きなものの事になると暴走しちゃうのよ」
「そ、それは分かってますけど、だからって……てか、えっ?散歩?依頼したとかじゃないんですか?」
「えっと、それについては俺が説明するね……」
……どうやらほんとに何も相談せずに依頼したらしい。少し抜けてる栞菜さんに苦笑しながら、俺は紗耶香ちゃんに事情を説明した。
◇
「………は?なにそれ?」
話し終わった後にそんなドスの利いた声が響き渡った。え?今のって…紗耶香ちゃん?
「……なんでエイジさんがやめる必要があるんですか?その会社ってもしかして無能なんですか?こんなにかっこよくて人を笑顔にさせれて……私のことも当たり前のように救ってくれて……どうしてそんな魅力がたくさんあるエイジさんをやめさせる必要があるんですかね?意味わかりませんよ。そもそもその上司も何考えてるんですか、今までエイジさんに頼りっぱなしで自分は何も出来ない癖して、必要じゃなくなったら即解雇……?ふざけるのも大概にして欲しいですね、えぇ。ほんとにそうですよ。こんなに不愉快な気持ちになったのは久しぶりです。エイジさん待っててくださいね?今すぐ私がそんなゴミみたいな会社とくそ上司を徹底的に追い込んで木っ端微塵に潰しますから。早速準備を……」
「ちょ、ちょちょちょちょ!!紗耶香ちゃん!?」
な、なんだ今のゾッとするような内容のマシンガントークは!?え、てかこんな一面あるのかよVチューバー!?
そう思いながら俺は急変した紗耶香ちゃんをなんとか止めに入る。
「えっとね?た、確かにクビにさせられたのは悔しいけど、そんなことしなくていいから」
「でもエイジさん……」
「それに、こうして紗耶香ちゃんや栞菜さんに出会えて凄い嬉しいんだ」
「えっ……そ、そうですか?」
あ、そう言ったら紗耶香ちゃん目に光が戻った。……それに栞菜さんも落ち着いて、少し頬を赤らめてる……うーん、危ない危ない二次災害が起こるところだった。
「うん。だから俺的にはもうあんな会社と関わらなければそれでいいからさ。紗耶香ちゃんには何もしないで欲しいかな?」
「……そうですか……えっと、エイジさん?」
「ん?」
「エイジさんはその……私と会えて、嬉しい?」
「あはは…まだ出会って間もないけど、俺は紗耶香ちゃんみたいな可愛い子に会えて嬉しいかな」
実際、会社に入るまで可憐な女性や美人さんに出会ってこなかったからな……トホホ…。
「か、かわ……!?へ、へぇ…そうなんだ」
にしっと独特の笑い方で笑顔のまま頬に手を当てている。落ち着いたようで何よりだ。
「エイジさん。私はどうですか?可愛いですか?」
「?栞菜さんはとても美人さんで素敵な人だと思いますよ?」
「び、美人……!?そ、そうなんですねぇ」
美人……美人……と壊れたロボのようにさっき言ったことを反芻している。
「……分かりましたエイジさん。あの会社には何もしないでおきます……ただし!」
すると落ち着いた紗耶香ちゃんがこちらにビシッと指を指してくる。
「これから、もしエイジさんに危害を咥えるような素ぶりを見せたら、私はあの会社を徹底的に潰しますからね!」
「……うん、分かった。その時は頼りにしてるよ」
「……にししっ!任せてください」
満足したのか、やっといつも通りの紗耶香ちゃんに戻ってくれた……さて、栞菜さんも帰ってきたことだし。
「栞菜さん。買ってきたものを台所に置いといてくれますか?」
「あ、はい。わかりました」
——晩飯の準備をしましょうかね。
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