第31話 目覚めの時
月曜日。
優斗の手錠は不便だからと、部屋の中を自由に回れるように首輪のみをつけてきた。家から出られないが、トイレや台所には行けるほどの長さだ。
深雪は登校中、ふと鍵を見る。
キーホルダーには二つの鍵がついていて。一つは家の、一つは優斗につけた首輪の鍵。
深雪は家から離れても鍵を持ってるだけで安心した。心が安らぎ、気持ちが晴れやかになるのだ。
◆
学校。深雪のクラスは優斗が風邪で休みそれ以外は普通のクラスだった。
誰も、優斗が監禁されているなんて思わない。それほどまでに、平和な日常に慣れてしまっているのだ。
休み時間。深雪は
いつも通り、友達二人と話す朝日。深雪はそれを見て呑気なものだなと拍子抜けとも似たような安堵を覚えた。
◆
数日経った。優斗のことで疑問を持つ人も出てきた。
「ご飯の時間だよ。
「…」
優斗は返事をしない。最近はずっとこんな感じだ。
監禁に対するストレスか、精神が病んでしまったのか、深雪に対する当てつけなのか、深雪には判断できなかった。
それでも、優斗の手や首にできた痣が解放して欲しさを物語っていた。
「しょうがないなぁ」
深雪は優斗の口にご飯を入れる。差し出せば食べてくれる。それだけで、深雪の心は満たされてた。
「こんなこと…」
優斗が久しぶりに口を開く。その弱弱しい声に深雪は耳を傾ける。
「こんなこと、もうやめてよ。一緒に学校へ行こう」
「__っ」
「
深雪はもう、戻れないところまで来ていた。取り返しのつかない事だとわかっていた。
それでも、深雪は心に蓋をした。悪行に目を瞑り、優斗を自分のものにするという目標、野望を叶えるために。
深雪は勘違いをした。これまで望まぬ結末を迎え続けた精神へのダメージがそう思わせた。
優斗が学校に行きたがっている。すなわち、朝日に会いたがってる。
とんだ、メンヘラ思考だが、その時の深雪はそんなふうに受け取ってしまった。
「だめだよ。行かせないよ。アイツに会わせるわけないじゃん」
「…蒼」
「私だけ、居ればいいじゃん。他の誰もいらないよ」
「俺は、そうは思わない」
「……!」
霧江の言葉で深雪は気づいた。
『もうどうやっても、霧江は私のものにならない』
それならばと深雪は開き直った。
ジリジリと霧江に近づいた。
「どうしたの蒼。怖いよ」
「霧江は、霧江は__、」
深雪は周りが見えてないようで、ただ小さく優斗の名前も呟いていた。
優斗の前まで来てようやく、その呟きは止んだ。
「蒼?」
疑念と不安の混じった目で優斗は深雪を見る。
次の瞬間。
「……、ん!?」
深雪は優斗に口づけをした。逃がさないように、顔を掴んで。
「ぷはっ。なんで…?」
「もう、気持ちなんてどうでもいい。私しか見れないようにさせてあげる」
深雪は優斗のズボンに手をかける。
「ちょっ、何するつもり!?」
「霧江は大人しくしてて、すぐに終わるから」
深雪は後先なんて考えてられなかった。今後どうなるか、なんて頭の中にはなかった。
ただ、今の目の前のことだけが頭の中にいっぱいだった。目先に自分の欲望を満たせる人がいるのだと。
【本当に良いの?】
声がした。挑発的な話し方で嘲笑っているかのような。深雪自身の声。
◇
夢から覚めたような、気だるさを感じる。
目の前に霧江がいる。目には涙を浮かべ、私のことを怖がっているように見える。
今まで自分のしていたことを思い出す。
霧江に薬を盛って、監禁して、無理やり口付けして、未遂とはいえ霧江のことを……。
「違う。そんなつもりじゃないの!」
霧江に対する申し訳なさと、自分の犯した罪を自覚する。
「霧江ごめんね?」
霧江は何も返さない。ただ、私を怖がっているように見つめていた。
とりかえしのつかない事をした。どんなに謝っても許されることでは無い。
私のせいで霧江がこんな姿になっていると思うと心が痛い。
フラフラとした足取りで台所へ向かう。
戸棚から包丁を取り出し、霧江のいるリビングに戻る。
「ごめんね霧江。ごめんね。次は絶対こんな事にはしないから」
「何を……」
私は霧江に謝りながら自分を刺した。
恐怖に染まる霧江の顔を見ると、自分の犯した罪への責任をより重く感じた。
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