第32話 フィフス・スクールライフ

 目が覚めた。実家とも呼べる自分の家を妙に懐かしく感じる。


 普通でいなければならない。

 霧江きりえを傷つけないために、自分が間違いを起こさないように。


 ◇


 入学式、登校時。


「緊張するね」

「大丈夫、すぐに友達できるよ」

「だと良いけど_」


「できなくても、私は一緒にいるからね!」

「遠回しにバカにしてる?まぁ、ありがたいけどさ」

「バカにしてる訳ないじゃん。でも、同中にボッチがいるのは恥ずかしいよね」

「そういうあおいは友達できるのかよ」

「もちろん、できる訳ないじゃん」


「同中にボッチがいるのは何だって?」

「痛いところ突くね__」

「その時は俺が一緒にいてあげるよ」

「ありがと」


「クラス同じだと良いね」

「うん。そうだね」


 普通に、普通に…。


 ◇


 二年始業式、登校時。


「また、同じクラスが良いね」

「そうだね」


「今更だけど、俺はてっきり蒼は福祉系列を選択すると思ってたけど、進学系列に行きたい理由でもあったの?」

「ちょっと、大学に興味があったって感じ」

「え!?どこの学校?」

「_別に具体的な進学先は決めてないよ。霧江と同じ」


 学校到着。


「あったよ。二年四組、同じだよ」

「やったね!」


 下校時。


「あのさ__」



「どうしたの?改まって」

「えっとね、今日、気になる人が出来たんだよね」

「それって__」


「同じクラスの望月もちづき朝日あさひさん」


「それで?」

「あ、えっと__とりあえず、友達になりたいと思ってるんだけど。どうしたら良いかな?」


「ごめんね。私、あまり望月さんと話したことないから、力になれないと思う」

「そっか__」


「相談になら乗ってあげるから」


 普通に、普通に…普通に。


 ◇


 学校祭準備期間、下校時。


「学校祭の日、告白しようと思ってるんだけど__」

「そう」

「どう思う?」


「良いと思うよ」


 次の日、登校時。


「それでさ、告白のタイミングはいつが良いと思う?」

「あー、うん。まぁ二人きりになれるときじゃない」


「呼び出すのが一番だけど、どこが良いかな?」

「人がいないところじゃない」

「なるほど」


「蒼、最近元気ないけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。心配しすぎだって」

「本当に?何かあったら言ってよ」


「わかってるよ」


普通に、普通に…普通に普通に。


 ◇


 学校祭準備期間、放課後。


「蒼。一緒にやろう」


「どうして?望月さんとやれば__」

「女子と二人きりだと緊張しちゃって、あんまり上手く喋れないから__。」

「それって、私を女子だと思って無いってこと?」


「それじゃ、パパッと終わらせて帰るか」

「そうだね」


 ◇


 学校祭一日目。


「楽しみだね」

「そうだね、特に三年生のステージはどれも完成度高いから」

「去年のとか凄かったよね」

「本当に!もう一回見たいくらいだよ」


「望月さんも出るから、応援しないと」

「そうだね」


 ◇


「次はうちのクラスだね」

「望月さんどこで出るんだろ?」

「…」

「告白、うまくいくかな?」

「大丈夫だよ、フラれたら私が慰めてあげるから」

「それは頼もしいなぁ」


「告白は明日なんだから、今は学校祭楽しもう?」

「そうだね」


 ◇


 学校祭二日目、午前。


「教室に誰もいない時を見計らって、望月さんを呼び出す。そして、蒼は教室の外で教室に誰も入らないように見ておく」

「他に私が手伝えることはある?」

「大丈夫だよ、望月さんを探すのを手伝ってもらうくらいかな」

「そう__」


 午後。


「蒼、体育館にいた?」

「あそこの三人組。髪の長いのが朝日_じゃなくて、望月さんだと思うよ」

「ありがとう、蒼。行ってくる」

「うん」

「後はお願いね」


 教室前。

 男子のグループが教室に近づいてきた。


「__あの」

「何?」

「教室今使ってるから、入るならもう少し待ってくれない?」

「スマホ取るだけもダメ?」

「まぁまぁ。わかった出直すよ」

「ありがとう」

「一つ聞いていい?」

「何?」

「どうして、?」


 男子のグループは去っていった。

 グループのリーダー格が聞いた質問に私は苦笑いで返すしかなかった。


『俺と付き合ってほしい』


 ドア越しに聞く霧江の告白。何で相手が私じゃないのだろう。


『私で良ければ』


 良いわけがない。絶対に認めたくない。


 もう限界だった。霧江を傷つけないように、いつも通りに接しながらも、慎重に話していた。

 普通を演じて、霧江に嫌われないように協力して、それなのに、見返りの一つもない。残るのは、いつも通りの結末だけ。


 もう嫌だ。こんな運命は間違っている。私こそが霧江に相応しいのだ。

 何で、いつもこうなる。どうして?


 原因なんて最初から分かってる。望月朝日だ。

 この女がいるから、私と霧江が付き合えない。この女の所為でいつも酷い目に遭う。この女の所為で、この女の所為で、この女の所為で__っ!


 ■してしまおう。


 最初から、そうすればよかったこの女さえいなければ、私は霧江と結ばれるのだから。


 ■してしまおう。


 運命なんて死んでしまえば意味はない。


 ■してしまおう。


 もう、何もかもどうでも良い。この女が消えてくさえすれば。

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