第30話 ずっと一緒
◆
夢の続き。
私は、そのぬいぐるみを家にいる時は離さずに持っていた。
ご飯の時も、寝る時も、お風呂の時も…。ずっと、二度と失くさないように。
◆
「手錠?どうして?」
「私がつけたの。
「なんでそんなことするの?」
「霧江のこと好きだからだよ」
言った。ついに言ってしまった。
今までの深雪が一度も優斗に向けて言えなかった言葉を。
これまで、深雪が口にできなかったのは、優斗に振られるのが怖かったから。でも今は、振られるとか関係無しに優斗が逃げられない状況だから言えたのだ。
「
「好きになったきっかけ?だいぶ前のことだから覚えてないなぁ。そもそも、明確なきっかけって無いと思うの。きっかけと言うより、好きと自覚する瞬間の方が合ってる気がする」
「俺を縛ってるのはどうして?」
「逃げられないようにする為。別に霧江に痛いことしようとか考えてないから安心して」
「……」
優斗は考えるように目を瞑る。
「やっぱり分からない」
「何が?」
「どうして、ここまで好いてくれるのか。中学の時はこんなんじゃなかったのに」
深雪が優斗を溺愛している理由。理由の一つに、ここまでの頑張りを無駄にしたくないという想いがある。何回も何回もやり直して、振り向かせようとして、諦めが付かなくなっているのだ。
言うなれば、繰り返したことで深雪の愛が重くなったのだ。一回目の世界ではここまで優斗のことを好きではなかっただろう。
「そうだね、そうかもしれない。昔は睡眠薬や手錠なんて絶対に使わなかっただろうね」
「結局、蒼は俺をどうしたいの?」
「霧江には、私の愛に溺れて欲しい。私だけを見て欲しい」
「その後はどうなるの?」
「私と霧江が結婚してハッピーエンドを迎える」
「馬鹿げている。こんなことして俺が蒼のことを好きになると思ってるの?」
優斗は挑発的に笑う。
「少なくとも、こんなことをしなきゃ振り向いてもらえないとは思ってるよ」
「……」
会話はここで終了した。
◆
次の日。この日は土曜日で、学校は休みだった。
「霧江、朝ごはん作ったよ。手使えないだろうし、あーんしてあげるね」
「いらない」
「そう、意地張ってないで」
「……っ!?」
深雪が無理やり、優斗の口にごはんを入れる。
「どう?美味しい?」
「……」
優斗は何も言わなかった。深雪が愛想を尽かすように、わざとそうしているのだ。
◆
「霧江、お風呂に入ろうか」
朝と同じ流れで夕飯を済ませた後、深雪が口に出した。
「…っ!いい、入らない」
「恥ずかしがって。水着を着ればいいでしょ?」
「そういう問題じゃないだろ?そもそも、手錠してたら水着に着替える事だってできないし」
「そういうと思って、首輪用意したよ。上を脱ぐ時は一回首輪をつけて手錠を外して袖を脱ぐ。腕が出たらもう一回手錠をつけて首輪を外す」
「呆れた、そこまで考えてたなんて」
「よし、着替えてお風呂入るか」
二人とも、無事に着替え終わり、お風呂に入る。
お風呂に入る時も手錠をつけたままだ。
「狭い」
「一人暮らしを前提に作られてるからね」
「洗いにくい」
「私が背中洗ってあげる」
文句ばかり言う優斗に、深雪は嫌な顔せず対応する。表面ばかりでなく、心の中でも嫌がっていない。
優斗は目のやり場に困っている様子で、黒目が動き回っている。理由はもちろん、水着になった深雪を直視できないからだ。
ちなみに、深雪の胸は大きい方だ。女子高生の平均よりも少し大きいサイズで、
「えっち」
「…っ//お風呂出る!」
「えー。もう少しゆっくりしようよ」
「やだ、早く出たい」
「仕方ないなぁ。じゃあ身体洗ったらあがるか」
「そういえば、うちの親はどうしてるんだ?」
「ん?」
「いや、俺いないのに連絡来ないし」
「あー、そう言うこと。霧江の親には私から、私の家に泊まるって言っておいたよ」
「じゃあ、学校はどうするの?行かなかったら親に連絡行くだろ。もしかしてこのまま学校に行くってことはないだろ」
優斗が手錠を目線まで上げる。
「そんなに悩むことでも無いんじゃない?風邪って言っておけば一週間は大丈夫だし。ほら、担任も霧江の両親も良い意味で適当だからさ」
「蒼も一緒に休むの?」
「寂しいの?学校には行くよ。どうなるのか知りたいし」
「何がどうなるって?」
「こっちの話」
深雪はまだ朝日のことを警戒していた。
優斗と朝日の運命の行方がどうなるのか。深雪はそれが心配でたまらなかった。
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