第15話 続く夏休み

 お化け屋敷を出る頃には、朝日あさひたちにバレないように霧江きりえのジャケットから手を離した。


「楽しかったなぁ」


 呑気なことを言っている共哉きょうやをお面の穴から睨みつける。

 何はともあれ、霧江と朝日をお化け屋敷内で二人っきりにするのは防げた。


 「それじゃあ」と共哉が霧江たちに別れを告げて、その場で一時霧江たちと別れた。


「尾行、まだ続ける?あ・か・ね」

「…共哉」


 私はキッと共哉を睨む。

 共哉が尾行を続けるか聞いた理由は、もうそろそろ霧江たちが解散することと、だいぶ気温が下がったことが主な理由だろう。

 パーカーを着ている私とは違い、半袖の共哉の格好はすごく寒そうだ(本人はあまり気にしてなさそう)。


「一応、二人が別れるところを見る」

「屋台は見ないの?」

「うん__、もう良い」


 結局、私と共哉は霧江たちが別れるところを見てから解散となった。


 ◇


 尾行中に共哉と話したことを思いだす。


「そういえば、花火大会の日さ陸上部の合宿あってさ」

「それで?」

「その日は、尾行する必要ないよってこと」

「……」


 夏祭りの日から約一週間の期間を空けて、花火大会が行われる。

 内容は夏祭りとほとんど変わらないが、花火という大イベントが有るか、無いかの違いがある。


 私は特に気にせずに聞き流していたが、夏祭りの数日後、霧江からメッセージが来ていた。


『よかったら、花火大会一緒に行かない?』


 短文で、簡潔なメッセージだったが、私は嬉しかった。

 それとは裏腹に、まだ少し気まずいとも思っていた。


 ◇


 花火大会当日、わざわざ着物をレンタルして、会場に向かった。これでは、朝日と同じではないか。


 花火大会の会場は、夏祭りと違い河川敷に沿って直線になっており、花火は川を挟んで向かいから打ち上げられる。

 花火が上がるのは午後八時からで、霧江との集合は七時だった。


「……」

「…行こっか」


 集合場所に居た霧江は、朝日の時と同じく外行きの格好をしていた。朝日の時のを見た後なので感動が薄れてしまった。

 それよりも、霧江と二人で出掛けているという事実に胸が高鳴っていた。


 霧江は私の頭につけたお面を見て、何かに気づいたようだった。それでも、何も言わずに屋台の方へ歩き始めた。


「何か、食べたいものない?」

「大丈夫」


 いつもの霧江と違い、そっけない態度だが、私を気遣ってくれる優しさは残っていた。


「いちご飴とか食べる?」

「うん」

「何味が良い?」

「いちご」

「じゃあ、俺はみかんにしようかな。いちごとみかんください」

「はい、二つで300円ね」


 私が財布を出そうとあわあわしている間に霧江がサッと、お金を出す。


「あ、お金」

「いいよ、150円くらい」

「ありがと」


 そうこうしている間に花火が上がる時間になった。


 お祭の会場から少し離れた河川敷には、花火を見るために集まった人が大勢いた。ワラワラと動く人混みは、集合体恐怖症の人がいたら発狂するレベルだろう。


「……」

「……」


 少し、無言の時間が続く。


「あのさ」


 と、霧江が切り出す。周りの声がうるさい中、霧江の声だけはスッと頭の中に入ってきた。


「ごめんね。突き放すようなこと言って」

「それを言うなら、私の方こそごめん。霧江の告白、失敗させてしまって」

「告白のことは良いよ、まだチャンスはあるし。それよりも、蒼を傷つけちゃったことが心残りで…」


 告白の邪魔をした相手だというのに霧江は優しすぎる。


「少しは傷ついたけど、今は大丈夫。こうして霧江と花火大会にこれたし。あと、夏祭りの時はありがと」


 最後の方はほぼ聞き取れないほど声が小さくなったが、霧江には聞こえたらしい。


「ふふ、どういたしまして」


 ヒューーー、ドーン!


 話しているうちに花火が始まった。

 こんなに間近で花火を見ることはなかったから、その迫力は言葉に言い表せないものだった。


 ふと、霧江のことを見る。花火に照らされた横顔はいつもよりカッコよく思えた。


「好きだよ、霧江」

 ドーン、パチパチパチ


 とても小さな声の告白は、花火の音に掻き消された。

 だけど、それでも良いと思ってた。

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